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かくりよの乙女〜千年恋唄〜  作者: 桜並木
第一章 巡り逢い
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9.龍も時としてマフラーになります

『…ほ…ば』


ーその声…梓拍?


『俺の…しい…ほろ…』


ー誰を呼んでるの?


『よ……くだ。俺の愛し…眞秀(まほろば)


ーーーーーーーーーーーーー


桜花が目を覚ますと目元が濡れていた。夢を見ながら泣いたのは初めてだ。

物凄く悲しい感情が溢れてきた。


(あの夢に出て来た人って…梓拍だよね?眞秀って誰だろう…)


夢の中の梓拍にモヤモヤしながら、有紗の家に向かうために準備をする。


(昨日は私の事唯一無二の大事な花嫁だとか言ってたのに…。って、なんで私モヤモヤしてんだろ)


急いで準備を終えて一階に降りる。

幸いにも楊花はまだ寝ている様で、リビングには母親しかいなかった。


「おはようお母さん。有紗の家に行ってくるね」


「あらもう行くの?ご迷惑をかけない様にしなさいよ」


「分かってるよ…行ってきます」


なるべく早く家を出たかったため、会話もそこそこに家を出る。

長く家にいると起きて来た楊花に何を言われるか分からないからだ。


(あ!梓拍から貰ったお守り!必ず持つ様に言われてたのに…どうしよう…)


有紗の家に向かう途中、昨日梓拍に貰ったお守りを忘れて来た事に気付いたが、今更取りに戻る気にもなれなかった桜花はそのまま有紗の家に向かった。




「アイツ…首飾りを忘れたな?何かあったらどうするんだ全く」


近くを桜花が通った気配を感じた梓拍は、桜花がお守りを持っていない事に気付くと、姿を小さな龍に変え後を追った。


『桜花!待たぬか!』


「へ?…うわぁ!出た!」


声をかけられて後ろを振り向いた桜花は鼻が付く距離に梓拍(龍ver)がいて思わず叫んだ。


『誰がバケモノじゃ失礼な。其方首飾りはどうしたのじゃ?まさか忘れた訳ではあるまいな?』


「うッ…それは…その…」


『はぁ…やはり忘れた様じゃの。ならば我も共に行く。首飾りが無い以上、我が其方を守るしか無いからの』


「え!?それはーーー」


『文句でもあるのか?我との約束を忘れ首飾りを忘れたのは其方であろう?』


全くもってその通りなので桜花は言い返す事が出来なかった。

それにーー。と言うと梓拍は龍から人の姿に転化し、桜花の肩や頭・腰等に対してシッシと何かを祓う様な動作をした。


「昨日あんだけ祓って加護まで付けたってのに…。どんだけ最悪な環境で過ごしたら一晩でこんなに怨嗟が溜まるんだよ」


「えん…さ?」


「怨嗟ってのは怨みや嘆きの事だ。それが塊になってお前にへばり付いてる」


「そう…なんだ。私誰かに恨まれる様な事した覚えないけどなぁ…。っていうか、どうして人の姿の時と龍の姿の時で喋り方が違うのよ」


「俺だって好きであんなジジくせー喋り方してんじゃねぇよ。龍の姿になったら勝手にあの喋り方になっちまうの。怨嗟が何処から来てるかは俺が調べるからお前は心配するな」


どうやら自動変換らしい。

少しでも龍としての威厳を保つ為なのだろう。

確かに龍の姿で軽い口調で話されたら威厳などあったものでは無い。

怨嗟については桜花は調べる術も無いので梓拍に任せるしか無い。


「とにかく、今日は俺も一緒に行くからな。なんだか嫌な予感がする。後で護衛の式神を付けてやるが、帰ったら必ず首飾りは身に付けろ。絶対に忘れるな。いいな?」


「う、うん。今度は絶対忘れない様にする」


梓拍の言葉に不安を覚えるが、今日一日一緒にいてくれると言うので少しは安心出来る。

再び龍の姿に変わった梓拍は桜花の首にマフラーの様に巻き付いた。


「ねぇ…本当にこのまま行くの?誰かに見られたらどうするの?」


『我の姿が妖力も霊力も無い只人に見える訳が無かろう』


本当の事なのだろうが桜花にはしっかりと姿が見えている為周りにも見えるのでは無いかと不安で仕方ないが、考えていてもどうする事も出来ないので、桜花は梓拍を首に巻いたまま有紗の家に向かった。




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