095
24日のクリスマス会兼小室絢の婚約発表会は深夜にまで及んだ。
サーラ・プナイリンナはそのまま小室家にて
橘結と、南室綴、宮田杏、柏木梢、栄椿と共に過ごす。
もう一人の主役である小室絢の婚約者は
真壁絆とエーリッキ・プナイリンナ、グンデ・ルードスロットの
今夜は飲み明かすと息巻く3人に捕まり
アルコールが無いと夜の街に繰り出した。
(あれだけあったご馳走が見事に無くなっていた)
御厨理緒は久々に工房を訪れ
三原紹実、市野萱友、そしてグレタと三原家で過ごす。
久々の帰国は鏑木莉奈も同様で彼女も姉や家族と過ごす。
その鏑木華奈に改めてケーキの礼を伝えると
「いいよそんなの。私も楽しかったし。皆も喜んでくれたから。」
「絢さんにはお世話になったから。私も嬉しかったよ。」
いつか必ず恩を
「だからいいってば。誘ってくれなきゃ何にも出来なかったんだから。」
妹の鏑木莉奈が割って入る。
「感謝するのはこっちだって言ってるの。言わせるんじゃないわよ。」
「カナもじゃあ何かあったらよろしくねって適当に答えておけばいいのよ。」
等と説教を始めそうになるのを見兼ねた神流川蓮が治める。
「じゃあまたね。」と魔女達も引き上げた。
「暇ならウチ来なさいよ。」
と鏑木莉奈が神流川蓮を誘う。
「こんな夜中に乗り込んで大丈夫?」
「アンタ達も来るでしょ。向こうでイロイロ面白い話仕入れたから今日は寝かさないわよ。」
と藤沢藍と渡良瀬葵が加わる。
津久田伴は宮田桃を誘おうと試みるが
「子供は帰って寝る時間だろ。」
と宮田柚を連れて帰る。
撃沈した津久田伴も落ち込みながら帰宅。
敷島楓、箱田佐代は
当初の予定通り第二部が開催される橘家へと向かう。
ニコラ・ルナプリアは母親をホームステイ先の日本の両親に紹介する。
「リンはどうしますのですか?」
「うちに来ればいいのに。」
そうだな。いや今日は止めておこう。
少し疲れた。
帰って休ませてくれ。
「そうね。イロイロ大変だったもんね。」
「お疲れさまでした。」
「また明日ね。」
また明日。
誰もいなくなった道場は寒い。
この時間に片付けるのは煩いだろうな。
ただ整理だけはしておくか。
大人達の集まりだけあって散らかってもいない。
もつと凄惨な現場を期待していた自分が面白かった。
さて、この後どうするか。
やはり帰って寝ようか。
コートを取り、灯りを消そうとすると
出掛けた筈の男達が戻った。
小室絢の婚約者。真壁絆。エーリッキ・プナイリンナ。グンデ・ルードスロット。
「オー。サイレントナイトにロンリーボーイですねー。」
この狼男は何がそんなに楽しいのか。
「リンさん一緒に飲むですよー。」
俺は未成年です。
「もう仲直りしたからネー。関係ないねー。」
だから何を
「君が僕をこんな目に合わせたんだから責任を取ってもらうよ。」
と小室絢の婚約者までが俺に酒を勧める。
「心配ない。ソフトドリンクもあるから。」
王子は自分も飲めないからとそれを分けてくれた。
「キミほどサーラを振り回した人は珍しい。」
「彼女ほど人を振り回す者はいないと思っていたのに。」
王子の冗談に真壁絆も同意していた。
「覚悟しておくんだネ。」
この一言だけは冗談に聞こえなかった。
王子は小室絢とのファーストコンタクトを婚約者に聞かせる。
彼は己の過去の過ちを躊躇なく誠実に語る。
すごい人だ。
グンデ・ルードスロットは小室絢がいたから橘結に声を掛けられなかったと白状した。
「声掛けようとしたら睨まれましたネー。」
真壁絆も橘結を守る小室絢の姿勢を褒めちぎっている。
「キズナは何度か危ない目に会ったんだよネ。」
綴さんから聞いた事がある。
最初は誰もが「真壁絆が何者なのか」を掴めずに恐れた。と。
少し話をすると何でもない何処にでもいる普通の少年で
もう少し話をすると何処にもいないと判るのだと。
俺はそれを、言葉通り「希少な」とか「得難い」的な意味で捉えていたのだが
エリク(と呼ぶ事を許された)とルー(同様)によると
「キズナは時折本当にいなくなっていたんだよ。」
と何とも不明瞭な事を言い出した。
彼は御厨理緒のような魔女ではない。
この2人のように「継ぐ者」でもない。
失礼ながら今でも「ただの少年」にしか見えない。
それでも橘結だけではなく、小室絢も彼を信頼しおそらく目の前の恋人同様慕っている。
実は婚約者はその事を知っている。
真っ直ぐな小室絢はその事さえも相手に話していた。
だから彼にとってこの場は「真壁絆」を知る最大のチャンスだった。
「結局私にはよく判りません。」
と笑ったが、全くの同意見だ。
それにしても
皆さんクリスマスに恋人と過ごさないとかいいのですか?
「オウベーではファミリーと過ごすのねー。」
だとしても男だけで
「いいじゃないか。皆ファミリーだヨ。」
「でも毎年は勘弁ネー。」




