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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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小室道場でのクリスマス会は絢爛豪華。

子供達の子供騙しな飾り付けは見事に霞む。

大人達の集いにそれが何とも恥ずかしかった。

参加者はお互い知らない者もいる筈なのだが

それを知ってか知らずか、市野萱友維が全てを繋げている。

彼女が最初にしたのは「親友」の紹介。

「綸。この子はマルケータ・スヴェトリーク。グレタだ。」

「こいつはリン・ナムロ。ヴァンパイアのくせに魔女だ。」

見習いです。

「よろしく。リン。見習いってユイに教わっているの?」

そうです。

「ふーん。そうなんだ。ふーん。」

意味有りそうな微笑みは何だ。

「いつかチェコにいらっしゃい。案内するから。」

その時はよろしくお願いします。

さて、俺は居間に戻っています。2人が到着したら連絡します。

それから5分もしないうちに小室絢と恋人は帰宅した。

その恋人の都合が悪くなって中止だ。なんて事になったら

全てが台無しになってしまう。な不安よりも

小室絢の婚約者があのメンバーを見てどんな反応を示すのか

それが何よりの不安だった。

「あれ?皆は?」

道場にいます。

「何で道場。」

クリスマス会の準備でちょっと。到着早々申し訳ありませんが

お二人にもお手伝いをお願いできればと。

「うん?いいよ。」

小室家から道場への渡り廊下。

日はとっくに暮れ、静かすぎるほどの静寂。

俺はこの日のこの静寂の自分の心理状態が全く思い出せない。

何を考え何を期待し、不安に思っていたのか。

ただ映像と音としての記憶だけが鮮明に焼き付いている。

小室道場の扉を開ける。

中は真っ暗だ。

「何だよ準備って。何で真っ暗なんだよ。」

俺は返事もせず、灯りのスイッチを探し、入れた。


祝福。

「からかい」だとか「ひやかし」だとかは一切ない。

参加者達はただただ2人を祝った。

鏑木華奈の特製手作りケーキが更に場を盛り上げ

少なくとも1時間は「祝福のみ」だった。

小室絢の恋人が質問攻めにされる中

彼女は俺を探し出し、とても強く抱きしめた。

ちょっと待ってください。これは橘佳純が仕組んだ事です。

「ちょっ。共犯にすんなよっ。」

共犯も何も、主犯だろう。

橘佳純は抱きしめられる前に逃げた。

「どっちが主犯だろうと構わない。そんなことよりお前。」

「また私との約束を破ったな。」

それは申し訳ないと思っています。本当に。

「全部許す。」

ありがとうございます。

あの、よろしいのですか?

「よろしいって何。」

貴女の婚約者が宮田杏達に囲まれて

ある事ない事吹き込まれているように聞こえてきますが。

「何っ」

そこからは「からかい」と「ひやかし」だけになった。

参加者を改めて眺めると

いかに「小室絢に男性の知り合いが少ないか」が判る。

「何を他人事みたいに。」

「皆綸が呼んだんじゃない。」

俺が呼んだから来たわけじゃない。小室絢さんの祝福に集っただけだ。

「まあそれでもいいけど。」

箱田佐代は少々疲れているのか。

「違うわ。ちょっとイイなぁっ思っただけよ。」

小室絢個人に対する妬み僻みではない。

小室絢はイイ人だ。

小室絢には彼女が望む幸せを手に入れて欲しい。

箱田佐代もきっとそう願っている。それは間違いない。

ただ羨ましい。その気持は判らなくは無い。

俺達は余所者で、此処に来るまでにイロイロと捨てている。諦めている。

今でこそ、こうして隣で笑ってくれる奴らがいるが

この街に来なければ、俺は今頃生きてすらいなかっただろう。

何処かでバカな事をやらかして、無茶をして、自暴自棄になって

今日が昨日なのか明日なのかも判らずただそこにいるだけ。

俺は箱田佐代の手をとった。

「えっ。ちょっと何。」

いいから来い。

俺は彼女をサーラ・プナイリンナに改めて紹介した。

サーラ・プナイリンナなら、俺がどうしてそんな事をしているのか判ってくれる。

「勿論知ってるわ。サヨ・ハコダ。」

「アナタもカスミを守り、そしてリンも守っていたのよね。」

「アナタのその勇敢な行動には敬服します。」

「サヨ・ハコダ。アナタさえよろしければトモダチになりましょう。」

箱田佐代でさえも、サーラ・プナイリンナの前ではただ少女になる。

彼女は恐縮しすぎて声も出せない。

王女は舞い上がる彼女の手を取り

「どうかな。サヨ。」

「はわわ喜んで。いや滅相もございません。いや有難うございます。」

俺はまたサーラ・プナイリンナに借りを作ってしまった。

彼女だけではない。

しっかり返さなければならない借りが多すぎる。


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