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俺は彼女の「伝説」を聞いていなければ思い浮かばなかっただろう名前を忘れていた。
栄椿。
お仕事がお忙しいのは存知あげて
「仕事はどうにでもなるけど何で私誘うんだ?」
来ていただけると本当に有り難いです。
彼女は承諾してくれた。
栄椿に親友の宮田杏と柏木梢に連絡をしてもらった。
あまり期待はしていなかった。あの2人はアメリカで仕事の筈だが
柏木梢が俺に直接電話をよこし「絶対行く」と宣言した。
彼女は栄椿の話だけで「小室絢の企み」を正確に把握していた。
彼女は会場の場所と、俺が集めている他の参加者からの推測だと言った。
「キミ嘘付けない病気にでもかかってるの?」
なんですかそれ。くれぐれも本人には漏らさないでくださいね。
「判ってるよ。キズナには伝えたのか?」
橘結さんに頼みました。当然本人には知らせていません。
「いいぞ。キミは判ってるな。よし杏ちゃんと必ず行くよ。」
ありがとうございます。
当日彼女は宮田杏ともう一人ゲストを連れて現れる。
小室絢は「俺のトモダチ」だけだと思っている。
だが俺が手伝いを頼んだ橘佳純が
「ふふん。こんなイベント私達だけじゃ勿体ない。」
と、俺達の思い付く「小室絢に関係ある人々」をリストアップした。
少々どころか、かなりの大事になりそうだ。
「桃さん誘った?」
当たり前だ。外すわけがない。
「楓ちゃんはどう。」
正月まで日本で過ごすので問題ないそうだ。23日の夜には着く。
それで御厨理雄はどうだった。
「何を置いても行く。絶対行くって言ってた。」
これで漏れは無いと思う。
会場は小室家の居間で大丈夫だろうか。
「それ私も気に成ったんだよねー。」
20人を超える。思ったより多くなったな。
「それで私ちょっと思いついたんだけどさー。」
25日の午後に行われる小室道場主催の子ども会。
橘佳純はその会場を「前借り」しようと言うのだ。
「どうせそっちの準備しなきゃじゃん?」
「しかもそれをカモフラージュにできる。」
橘佳純は悪巧みが得意だな。
「嬉しくねぇっ。」
作戦は決まった。
12月24日。
俺達は夕方、小室家の客間を借りて
ちょっとした会を行っている。
敷島楓との再会を喜びながらのクリスマス会。
小室絢は少し参加すると、ゲストを迎えに行った。
小室絢の出した条件とはまさにこのゲストの事だった。
小室絢らしからぬ行動。
「お前達に紹介したい人がいるんだ。」
どなたですか?
「そのお前の言うえっと、こ、こ、恋人。」
紹介も何も俺達(道場に通っているので)皆知っている。
「いやそうなんだけどさ。」
「えっと、その、今度あの、その、け、けっ、結婚を約束してさ。」
「婚約って言うのかな。その報告を。」
それは判りましたがどうして俺達だけの前で。皆さん集めて
「からかわれるに決まってる。ひやかされるに決まってる。」
そんな事しませんよ。祝福してくれますって。
「いや。まずお前達に話してお前達がそれとなーく皆に触れ回ってくれたら。」
乙女か。カワイイ人だな。
要は予行演習って事ですね。
「まあそういう事だ。頼むよ。」
俺は橘佳純に相談し、小室絢の望む通り準備を始めた。
と、小室絢に思わせた。
いちばんの難関は道場での準備だった。
途中で小室絢に来られたのでは元も子もない。
小室の両親には全て打ち明け協力を仰いだ。
「いいわね。面白そうじゃない。協力するわ。」
母は呆れるほどノリノリで「作戦」を思いついてくれた。
土曜、日曜に小室絢に「用事」を頼み、
俺達が作業できるように手配し、
そしてそれを道場内の物置と更衣室を借りて荷物を運び隠す。
都合よく前日が休日で、この日も母が娘に「お使い」を頼む。
俺達は1日掛かりで完璧に仕上げ、
小室母は念のためにと道場に鍵をかけた。
俺達の呼んだゲストは橘家に集合している。
小室絢が恋人を迎えに出発するとすぐに全員を呼び寄せた。
料理は当日その橘家で小室母と俺の母が半日掛けて用意してくれた。
参加したゲストもそれぞれ何かしら手土産を持って現れたので
驚くほどのご馳走が並んだ。
魔女は大食いだから問題なく片付くだろう。
橘家からぞろぞろと結構な人数が歩いて来る事になっていたのだが
魔女の藤沢藍が何処からかバスをチャーターしていた。
それにも面食らったのだが
参加者の中に、宮田杏がグンデ・ルードスロットを呼び、
御厨理雄は俺の知らない魔女(グレタと呼ばれている)を連れ、
真壁絆は何とサーラ・プナイリンナとエーリッキ・プナイリンナを呼び寄せた。
そのサーラ王女はゲストにニコラの母親を引き連れている。
来るなら言ってくださればそれなりの準備をしたのに。
「呼ばれて来たのではサプライズにならないでしょ。」
この場合幹事を驚かせる必要は無い。
これは覚悟しないと。
「必要ならホテルも用意しますよ。」
魔女の藤沢藍が申し出てくれた。すると三原紹実が
「いいよ。うち空いてるから。」
「そういえばそうですね。ところで紹実さんはどうしてひと」
「それ以上は言うなっ。」




