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綴さんに相談したらお腹を抱えて笑われてしまった。
本域だ。涙まで流している。
「いくら弟だからってこんなとこまで似なくていいのに。」
似ている?
「それ他の誰かに言わない方が。あ、いや待って。他の皆に相談してみなさい。」
「姫とか絢ちゃんとか。」
「きっと笑われるから。」
そう言いながら笑い続けている。
俺としては本気でそうすべきだと考えていただけにこの反応は少々面白くない。
「そんな怖い顔しないで。」
「綸があまりに真面目でちょっと呆れただけだから。」
褒めていない。
「姫とか絢ちゃんと、紹実ちゃんと友維ちゃんね。相談してごらんなさい。」
「魔女2人は「お前バカだろ」て言うわよきっと。」
「笑われるの判っているなら腹も立たないでしょ?」
綴さんはそれを確かめに行けと言っている。
そして本当に綴さんの言った通りになった。
三原紹実に相談すると態々市野萱友維を呼び、
揃って「お前バカだろ」と言い放った。
「そんな凹まないで。皆呆れてるだけだから。」
呆れられるような事を言っているつもりは全くない。
「ただの認識のズレよ。」
認識?
「今回の一連の件で一番割に合わない事をしたのは誰なのか皆知ってる。」
「本人がそれに気付いていなだけ。」
「だから呆れているのよ。」
拾われてやってきたヴァンパイアが、ただ言われるまま神巫女に仕えた。
その神巫女が狙われると、彼女を守ろうと怪我をした。
その上身代わりにされて襲われた。
囮として貞操の危機(?)を迎えたり、狼大男にボコボコにされたり、
主犯の娘から恨まれるような真似をしながらもその主犯を追い詰めた。
「そんな事させられながら「皆に感謝したい」って。」
「魔女からバカ呼ばわりされたってワタシも否定できないわよ。」
並べられると確かに被害者のようですが
俺が好き勝手やった結果としてそうなっただけですから。
そうなるように仕向けてくれたのがサーラ王女であったり魔女であったり
他の皆だったりするわけで。
「まあまあ。特にどうしろこうしろってのはいいんじゃないかな。」
「綸が日々の中でその皆に感謝をしていればそれは伝わるわよ。」
「多分もう皆に伝わってるんじゃないかなぁ。」
翌朝、待ち合わせの公園で早速橘佳純に呆れられた。
「結姉が尋常じゃないくらい笑ってたよ。」
「絢姉ちゃんなんて「綸がオカシナ事いったら報告しろよ」って態々連絡寄越して。」
「綸君何したのって聞いたら「感謝した」って。意味判んないんだけど。」
正確には感謝の意を伝えたいと相談しただけだ。
「だから感謝って何。綸君何かしてもらったの?」
何と言うか、
見守ってもらった。
「はあ?」
橘佳純の頭の上に大きなクエスチョンマークが見えた。
「判った。やっぱりお前は前々から言ってるようにドMなんだ。」
津久田伴は俺の相談事を聞くなり断言した。
滝沢伊紀がまた泣き出した。
「Mかどうかは知らないけどやっぱりメンドクサイ奴なのは判った。」
宮田柚も呆れている。
ただ箱田佐代だけは違った。
「私は綸の気持ちが判らなくもない。」
「そうなの?」
「佳純は、いえ柚にも伴にも判らないわ。勿論伊紀にもね。」
俺と箱田佐代との共通点。
「余所者。」
そして
「居場所を失っていた者。」
「綸が相談した相手は、まあ魔女はともかく。皆ここの人達。」
「だから判らないのよ。」
「それが当たり前の事になっているから。」
俺にもよく判らない。箱田佐代は何を言おうとしている?
「私はね、好き勝手したくてもできなかったの。」
「でも今は違う。それを受け止めてくれる人達がいる。」
「綸はその事を実感したのよ。」
箱田佐代の言う通りなのかもしれない。
今回の件に対する感謝ではなく、その根底の部分に対して。
俺はこの街を、この街の人達をようやく理解したのだろう。
箱田佐代はいつそれに気付いた。
「私?私は転校してすぐ柚とか楓がごにょごにょ。」
「私の事はいいのよっ。」
「綸が感謝したいって言うならひとまとめに考えず1人ずつ直接言って伝えればいいじゃない。」
「そうね。学生なんだから形としてどうこうは難しいって相手も判ってるだろうし。」
滝沢伊紀。
「え?はい。」
俺が好き勝手やっていられたのはお前がこの街に来たからだ。
感謝している。
「ええっ。私ですか?」
そうだ。お前が橘佳純の傍らにいると判っているからこそ
俺は何の心配もなく動いていられた。
お前はいつも俺の思考をポジティブな方向へと導いてくれていた。
ありがとう滝沢伊紀。
「ちょっ止めてくださいそんな。私なんて大してお役に立てて」
「綸君が感謝してるって言ってるんだから素直に受け止めればいいのよ。」
「でもでもっ。」
「あーあーまた泣かしたー。何度目だお前。」
箱田佐代。
「うえっもしかして私も?もしかして一人ずつ?」
お前がそうしろと
「ナシっ。さっきのナシでっ。」




