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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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俺はこの時自分がどうして囮として選ばれたのかをようやく理解した。

ここまで見越して碓氷薫は作戦を立案したのだろうか。

俺は魔女によって王女の掌で踊らされていただけだ。

いや、俺は囮などではなく、ただのクッションだった。

そんな俺の被害妄想を否定したのは御厨理緒だった。

彼は今俺が考えている事を覗いたのだろうか。

彼は俺の前に現れ、とても深く頭を下げた。

そのまま土下座でもしてしまいそうな勢いだったので慌てて頭を上げさせた。

彼は俺を「恋人の代役」として利用したことを詫た。

何の相談もしなかった事。

ただ自分の都合だけでそうした事。

そのためだけに俺を利用したのだと言った。

彼が殊更他意は無いと強調したのは

きっと碓氷薫を擁護しているのだろう。

だとしても俺はこの「最強の魔女」と呼ばれる御厨理緒から信頼されていると

それが伝わり、素直に嬉しかった。

俺はこの人との約束を放棄した。

それでも俺を信じ続けてくれていた。

俺に「南室綸」でいられる機会を与え続けてくれた。

彼はもう一年橘佳純を頼むと言った。

これからすぐに戻ってこの騒ぎの後処理をしなければならない。

その後は日本に拠点を移すそうだ。

「あまりうちの兄ちゃんに関わらない方がいいぞ?」

どうしてですか?

妹の市野萱友維は俺達の様子が気になったのか口を挟む。

「コマシが伝染る。」

この人は何を言っている。

「理緒君はコマシじゃないっ。」

と橘佳純が彼の頭を撫でる。

彼を中心に魔女が集い、それにつられるように俺の友人が集う。

やがて彼を中心に輪が出来上がる。

「見ろこれ。これがコマシじゃなくて何なんだ。」


サーラ・プナイリンナを始め、海外の「継ぐ者」達は

その日の内に帰国する。

御厨理緒の言った通り、片付けなければならない事が山のようにある。

「この先は大人達に任せなさい。」

橘結は俺がまた関わりたいと言い出すとでも思ったのだろうか。

そうですね。もうコレ以上出しゃばるつもりはありません。

ところで真壁絆はどうしたのだろう。

そもそもはこの継ぐ者達は彼が集めたのではないのだろうか。

「いえ。今日来たのはプナイリンナ家の繋がりよ。」

「キズナ君は今回の件が収束した事をアチコチに報告して回っているわ。」

電話でもメールでもいいのに。

「でしょ?直接行くのはその後でもいいじゃんね。」

「でももう終わるのにボクが行っても意味ないよ。とか言って。」

「それなら少しでも早く皆に報せて回りたいって。」

「まあキズナ君らしいのだけどねー。」

この幸せそうな顔は完全にノロケだな。

彼が「終わる」ってハッキリ言い切れるのはそれだけサーラを信用しているからだろう。

「違うよ。綸君を信用しているんだよ。」

まさか

「本当だってば。キズナ君も、それに理緒君も佳純ちゃんに同じこと言ってたんだから。」

「彼ならボクより頼りになるよ。って。」


「最後にいいかしら。」

サーラ・プナイリンナの一言で騒がしい会場が一瞬にして静まる。

「リン・ナムロ。近くにいらっしゃい。」

はい?

「皆には言ってあるけど本人に言うの忘れてたの。」

皆?

「ここに集ったのは皆ワタシのファミリー。」

エリクが咳払いする。

「ワタシ達。これでいい?まったくもういいじゃない。」

何かブツブツ言って

「改て紹介するわ。彼がリン・ナムロ。ワタシの、ワタシ達の新しいファミリー。」

再び、一斉に大きな拍手が起きた。

見知らぬヴァンパイアが俺の目の前に次々と現れ

何故か頭を下げ握手を求める。

俺より相当年配で、その身なりや雰囲気からきっと「名家」とか呼ばれている者でさえ

同じようにそうするので俺はただただ恐縮するしかなかった。

敬意を払われている。悪い気はしない。

サーラ・プナイリンナはこの人達に俺をどう紹介したのかが恐ろしかった。

ひとしきり挨拶が済むと彼女がもう一度俺を呼んだ。

「リン。アナタの望んだハッピーエンドよね?」

はい。これ以上無い素敵なエンディングです。

「ちゃんと借りは返したからね。」

借りって俺は何も

「でもこれじゃ利息付け過ぎだと思わない?」

なんですと?

「王女のワタシにこんな事させたんだから」

「今度はアナタが返すのよ。」

え?はい。俺に出来る事なら何でもします。

「言ったわね。」

「アナタこれから先忙しくなるわよ。忙しくするわよ。」

「まだ学生だから許してあげるけど。覚悟しておくのね。」

サーラ・プナイリンナはとびっきりの笑顔で俺を脅す。

忙しいって、どうして。俺に一体何を。

「その時が来たら教えてあげるわ。」

「今は学生であることを感謝して楽しみなさい。」

橘結に尋ねても

「さあね。私は知らないわよ。本当よ。」

知っている顔だ。


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