表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
88/112

088

サーラ・プナイリンナの声には威厳があった。

あの美しく壮麗で綺羅びやかな彼女から想像もできないような強い意志。

「プリマヴァラ家は本日今この時を持って、」

「この世からの消滅を宣言します。」

プリマヴァラ家は絶えた。追放ではない。滅ぼされる。

崩れ落ちるニコラをエーリッキ王子が支える。

「承知しております王女陛下。しかし娘は。ニコラはなんの」

「黙りなさい。」

サーラ・プナイリンナは母の願いを遮った。

最悪だ。

そう思ったのは俺1人だろうか。他の皆は思わなかったのだろうか。

サーラ・プナイリンナの決断に誰一人逆らう者はいない。

声が出ない。出せない。

俺はこんな結末を望んでいたのではない。

と、

サーラ・プナイリンナは一瞬だけ俺を見た。

それはいつもの、俺の知るサーラ・プナイリンナの笑顔。

慈愛に満ちた笑顔のままフロレンティナ・プリマヴァラに向き直り

「これからは再びルナプリア家の者となりなさい。」

「ニコラはワタシの友人です。」

「ワタシには大切な友人から母親を奪う権利はありません。」

「許されるなら、ヴァレンティナ・ルナプリア。アナタもワタシの友人になっていただきたい。」

サーラ・プナイリンナは彼女に頭を下げた。

ティナは小さく震えて泣いた。

ニコラも溢れる涙を拭おうともしなかった。

「この決定に意義を示す者。またはルナプリア家に対し敬意を欠く者。」

「その意のある者はいつでも名乗り出なさい。」

「プナイリンナ家は、その者を全力で叩き潰すわ。」

物騒な王女様だ。

王子が「やれやれ」と呆れている。

「悪しき一族は滅びた。これ以上の制裁は必要ないでしょう。」

神社の境内に拍手が鳴り響く。

ティナに対する同情ではない。

サーラ・プナイリンナの裁きそのものか、

もしくは彼女のその人となりに対するものなのか。

もしかしたら、この連中はこの結果を知っていたのだろうかと疑いたくなるほどに。

拍手はしばらく鳴り止まなかった。

涙でぐしゃくじゃの顔のままでニコラは母親の隣で共に膝ま付き

サーラ王女に頭を下げた。

「ちょっと止めてニコラ。ティナも立ってください。」

サーラは2人に手を差し伸べる。

2人もその手を取り、立ち上がる。

「あーっ。アタシこーゆーのダメなんだよー。」

宮田柚が泣いている。

「オーウ子猫ちゃーん。ワタシの胸の中に飛び込むとイイでース。」

「ぎゃっっ。何処から湧いたっ。」

宮田柚はグンデ・ルードスロットを振りほどき逃げる。

「振られてしまいマシたネー。」

彼は本当に残念そうに言って俺に歩み寄る。

「リンさん仲直りの握手するネー。」

はい?

彼は無理矢理俺の手を取る。痛い。

そして強いハグ。痛い。

「これでワタシ達トモダチねー。でもキスは勘弁なー。」

この大きな狼男は何を言っている。

戸惑い何事なのか訪ねようとするがその前に橘結を見付け

妹の橘佳純を改て紹介するよう結構本気で頼んでいる。

仲直りの意味も判らず、陽気な狼男に救われた気分にもなれなかった。

「浮かない顔して。」

綴さん。

「もう少し胸を張りなさい綸。アナタがあの人を説得したのだから。」

説得?

違います。俺はあの人を、ニコラの母親とニコラ本人を追い詰めただけです。

結果的にサーラ王女が収めてくれただけだ。

「そうしたいって言ったのはアナタ自身よ。」

判っています。

生意気にもそれでフロレンティナ・プリマヴァラを王女の前に引っ張り出そうとした。

そんな事をする必要は無かった。

彼女はきっと最初からそのつもりだった。

「ちょっと違うと思うな。」

「それならアナタに会いに来ないで直接サーラの元に行くわ。」

「あの人はきっと誰かに背中を押して欲しかったのよ。」

「そしてそれが出来るのはアナタしかいないって判っていたの。」

そんなものなのだろうか。

綴さんは俺が納得していないのを判って、そっと抱きしめてくれた。

「すぐに判るわ。ほら。」

と綴さんは俺を離す。その目線の先にルナプリア親子。

「感謝します。リン・ナムロ。」

ニコラの母親はそう言って俺の手を取った。

「リン・ナムロ。アナタにニコラを託して本当によかった。」

託した?

ニコラの母親の言った事は全て本心だった。

ニコラは「リン・ナムロの呪いを解く」ために留学すると母に伝えている。

それがプナイリンナ王子の頼みである事も話した。

母親はこの時既に「自分が怪しまれている」と確信していた。

だとすれば「プナイリンナがニコラを危険な目に合わせる事はない」と理解した。

推測などではない。それは確信だと言った。

「きっと娘は世界一安全で素敵な場所にいる。」

留学した娘からの連絡でも状況は把握している。

この街の事も俺の事も。他の友人達の事も。

俺とキスをしてタチバナの力を手に入れたと話が伝えられても

何も疑う事なく何の心配も不安も無かった。

だから俺の前に現れ、俺に全てを委ねたのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ