086
ニコラ・ルナプリアの母親は娘に似て(?)キレイな人だった。
穏やかで、聡明で、人から好かれる笑顔を持ち合わせている。
復讐に囚われる狂信者だなんて誰が信じよう。
挨拶もそこそこにファミレスへと。
席を案内される途中、
津久田伴と宮田柚。
俺達に気付くが2人は無視してくれた。
が、ニコラ・ルナプリアが2人に気付き声を掛けてしまった。
「こんにちわです。紹介するです。母です。」
慌てて立ち上がる2人はしどろもどろで挨拶する。
母は丁寧に、キレイな日本語で挨拶を返す。
「ヴァレンティナ・ルナプリアです。」
「娘がいつもお世話になっております。」
津久田伴が俺を睨む。言いたい事は判っている。すまない。
2人から離れた席を指定し座る。
日本語お上手ですね。
「日本には以前から興味がありました。娘と勉強しました。」
興味。
橘結に対する興味だと勘ぐるのは失礼だろうか。
「あのお2人も少々変わっているようですが。」
男はライカンとかウールヴヘジン。
女はキャット・ウーマンです。
「日本では普通の事なのですか?」
いえ、この街が特殊なだけです。
「街?特殊?」
まず料理を決めましょう。お話はそれからゅっくりと。
「そうですね。」
母の隣に座るニコラの表情からは動揺が隠しきれていない。
手を洗いに行きながら津久田伴に
どうやらフロレンティナ・プリマヴァラは1人で現れた。と伝えようと思ったのだが
今ニコラ・ルナプリアを残すのは気が引けた。
ニコラはこのお店は来た事があるのか?
「はい。サヨとユズと一緒に来たですよ。」
そうか。実は俺は始めてなんだ。どれが美味しいか教えてくれないか。
「え?はいそうですね。あー。」
ニコラはメニューに集中してくれた。
食事中はニコラを主役に学校の話に終始した。
母親の顔だった。
遠い国に留学している娘に会いに来た母親。
それ以外の何者にも見えない。
食後はドリンクバーでそれぞれ飲み物をと、
勝手の判らない俺の分のコーヒーと
「飲んでみたい」と言った母親のリクエストに答え日本茶を
ニコラはそれぞれ用意してくれた。
カップを持つ手が震えている。
ニコラ
と声を掛けたのだが、殆ど同時に母親がその震える娘の手を取り言った。
「お友達のところに行ってなさいニコラ。」
「ワタシはリン・ナムロとお話があります。」
ニコラ・ルナプリアは首を縦には振らなかった。
「ワタシはいます。ここにいます。ワタシも聞くです。」
ニコラ。頼む。伴と宮田柚のところに行ってくれ。
「イヤです。ワタシいます。ここにいます。」
俺は1人立ち上がり、津久田伴と宮田柚を呼んだ。
2人とも、ニコラを頼む。俺はこの人と話しがあるんだ。
それでもニコラは席を立とうとしなかった。
「大丈夫。話をするだけだから。」
「でもママ。ママ。」
ルーマニア語だったが何を言っているのか不思議と理解できた。
「お願いニコラ。どうしてもリン・ナムロと話をしなければならないの。」
ニコラは泣き出してしまう。
母親は娘を一度強く抱きしめ、解くと伴と宮田柚に託した。
2人に連れ添われた娘を見送り、母は俺に礼を述べた。
「ありがとうリン・ナムロ。あなたは良い人。」
あなたも素敵な母親だ。
「ありがとうございます。」
だからこそ残念でならない。
俺はまだ少し、この人が「悪魔のような」連中の主導者であってほしくないと願っていた。
だが彼女は正真正銘フロレンティナ・プリマヴァラだった。
「リン・ナムロ。アナタはワタシを知っていましたね。」
マリ・エル・ハヤセとトーネ・ハーゲンから聞いた。
ティナ・ヴォイヴォド。
とあるコミュニティの主導者。先導者。
「他には何を聞きましたか?」
虐げられた人ならざる者を救済するヴァンパイア。
「そうです。」
ヴァンパイアのコミュニティを作り、その地位を確立する。
「そのためにリン・ナムロの力を借りたい。」
判っている。
その話は判っている。
どうして俺の力が必要なのか知りたい。
「タチバナの力はとても危険。ワタシそれを悪用されたくありません。」
だとしたら俺もアナタには危険ではありませんか?
「その力あれば、私達を邪魔する悪い人達から守れます。」
例えば、プナイリンナ家。
それともロゼ家ですか。
フロレンティナ・プリマヴァラ。
アナタは俺の力を使って何をしようと考えていますか?
ご存知の筈です。
俺はセンドゥ・ロゼを知っている。
「はい。彼はワタシの友人です。」
それでは正直にお話いただけますか?
アナタの目的は、救済なのか
それともただの復讐なのか。




