084
橘家に戻ると橘佳純も滝沢伊紀もすっかりくつろいでいた。
学校に戻らなくていいのか。
「何言ってるのよ。綸君待っていたんじゃない。」
俺はサボる。
「ダメでしょ。」
少し2人(橘結とサーラ・プナイリンナ)と話がしたい。だからサボる。
「何も話す事なんて無いわ。」
「そうよ学校行かなきゃダメじゃない。」
サーラ・プナイリンナも橘結も俺を突き放した。
きっと俺の言いたいことなどお見通しなのだろう。
「佳純ちゃんと伊紀ちゃんが何でも聞いてくれるってよ。ね。」
「いっ。まあ形だけとは言え私は綸君の主人なわけだし。」
「はい。何でもお話ください。」
学校へは橘の父親が車で送ってくれた。
車中では彼が居るので話が出来無かった。
その代わり橘佳純が今回の流れの順序を教えてくれた。
マリ・エル・ハヤセは学校で俺を待っていた。
神社での出来事を話すと彼女は慌てて走り出す。
「マリエルはトーネを探していたの。」
あの日の夜、マリ・エル・ハヤセはトーネに全てを語る。
トーネは何も受け入れなかった。
翌朝目覚めるとトーネは部屋にいなかった。
俺に会いに行ったのは間違いない。でも何処に。
トーネはその能力で俺が何処にいるのか(およそであるが)知る。
彼女が公園を素通りし、道なりに遠回りして橘家に向かい歩いているちょうどその時
俺達は階段を下り公園に到着した。
「でもマリエルはうち知らないから。」
「佳純様が付いて来なさいって走り出して。私もそれに続きました。」
途中で橘の父親とサーラ・プナイリンナに拾われ一緒に現れた。
話し終える頃学校に到着する。
父親はそのまま学校の中まで付いてくる。
「何?どうしたの。」
橘佳純の動揺に答えもせず授業中の教室の中に最初に入った。
「ええっ。」
クラスの殆ど全員が彼が何者なのかは知っている。
勿論教師も知っている。
だが授業の最中突然大男が現れて驚かない筈がない。
「申し訳ありません。神社の行事の手伝いで3人お借りしておりました。」
その大男が頭を下げたのだから
教師もただただ恐縮するしかなかった。
ザワつく教室俺達はそれぞれ席に着く。
何とも奇妙な空気になった。
「恥ずかしいったら無いっっ」
真っ赤になって俯く橘佳純も珍しいな。
「もう最悪っ。」
「素敵なおとうさ」
「本人に言わないでねっ。調子に乗るからっ。」
休み時間。先ずは橘佳純をからかう事から始まる。
「相変わらず迫力あるよなぁ。」
「天狗様ですからね。」
「テングサマって。何だですか?」
山の神様のような扱いだな。
「妖怪だろ。」
元々は中国で火球(流星)が燃え撥ねる音を「天の狗が吠えた」と言って不吉な前兆だと恐れた。
日本では山には神様がいて信仰の対象になっていたから
山で何か災いがあるとそれを「天狗の仕業」だって事になったんだ。
で、山に入ると僧侶が修行していたりするからな。
山伏とか密教とかもあったらしいから、何も知らない村人がその格好見て
「あれこそ天狗じゃっ」と驚いても不思議はない。
さっきも言った通り信仰の対象と同時に厄災の元凶でもあるから
そのあたりはその土地の山で「何者」がいたのかによって扱いが変わるのだろう。
ただ橘佳純の父親は「元々天狗だった」わけじゃないだろう?
「え。何で知ってるの。」
神社の烏天狗の狛犬は随分と古い。あの山はお前の父親が来る前から天狗の信仰があった筈だ。
橘の云われを聞いたときに違和感があった。
だけどそれは橘結と橘佳純が女性だからだと思った。
橘家を継いだのが男性なら、山とその麓の人々を守る存在を
天狗として崇めても何の不思議もない。
「そうかっ鬼だと思ったら天狗だったんだなっ。」
「天狗違うわっ。」
もしかしたら同一の存在なのかもな。
「カスミ・タチバナはオニテング様ですか。」
「いやめてぇ。」
昼休みに朝の出来事を全部伝えた。
今更「なんでもない」では済まされないほど巻き込んでいる。
「やっぱり凄い人なのね。サーラ王女って。」
箱田佐代は目を輝かせるが
その隣でニコラ・ルナプリアは目を伏せてしまう。
心配するな。あの人は俺に約束してくれた。
ニコラ・ルナプリアが悲しむような事はしない。
「おうおうっ恋人気分は他所でやってくれよう。」
宮田柚は何を言っている。
「あれ?違うんだっけ?」
ただの設定だ。しかももうその必要も無くなる。
「ワタシは恋人大丈夫。続けても大丈夫。」
「なっダメよっそんなの。」
「そうだそうだ魔女っ子友維ちゃんだって黙ってないぞ。」
「こんなところでもヴァンパイア対魔女の対決とか面白そうだな。」
「何でだっ。何でいつもこい」
「黙れ伴。しつこいぞ。」
「わ、私も戦いますよっ。」
「ひゃぁ。伊紀も参戦?」




