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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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トーネ・ハーゲン。

ノルウェー出身のヴァンパイア。

彼女は自らの手で自分の母親を手に掛けた。

そうしたくて、そうしたのではない。

ただそうなってしまった。

それは彼女が7歳のある夜。

身体の乾きに目を覚まし、両親の寝室を訪れると

そこにいたのは見知らぬ男と母親だった。

不貞を知られた2人が取ったのは最悪で卑劣で賎陋極まる行為。

気付くと血まみれの肉体が2つ転がっていた。

自分の身体も真っ赤だったが誰の血でそうなったのかも判らなかった。

翌朝帰宅した父親が疑われたが娘がそれを否定し

死亡推定時刻の父親のアリバイも完璧。

結局容疑者不明のまま迷宮入り。

父と娘はその土地を離れ、静かにひっそりと暮らそうとしていた。

父親は「娘が妻を殺した」と確信していた。

白いパジャマが赤く染まり、2つの死体の側で泣きじゃくっている。

「この子は私の血を継いだのだ。」と父親は理解していた。

同時に、このままではやがてこの子はヴァンパイアである事を恨むだろうことも確信できた。

だがそれよりも前に考えなければならない事がある。

この不祥事を聞きつけた他のヴァンパイアからの制裁。

父親はヴァンパイアとしての特徴は持ち合わせていない。

だから「その世界」との関わりは殆ど持ち合わせてはいない。

それでもきっと、ヴァンパイアはこの事実を許さないだろう。

娘を守らなければならない。たとえ自分に何があっても。

父親は娘を教会に預ける。

そして「責任は自分にある」と示そうとした。

だがトーネ・ハーゲンに父親の想いは届かなかった。

「父は私を捨てた。」

父親がプナイリンナ家にたどり着き、全てを語り、娘の治療を引き受けるとの約束を受け、

教会に戻ると娘は既に消えていた。

彼女はいくつか名を替えながら1人彷徨い、やがてマリ・エル・ハヤセに出会う。


興奮するトーネ・ハーゲンを抑えつけながら、

マリ・エル・ハヤセと交わした会話を全て伝えた。

「そんな話信じられる筈が無いでしょう。」

俺を疑うのは判る。

だがマリ・エル・ハヤセは同じ事を言ったのではないのか。

お前は親友の言葉も疑うのか。

「あの子はもうヴァンパイアじゃ無いっ。」

だから何だ。

答えろ。マリ・エル・ハヤセはお前に何を告げた。

「マリエルは、あの子は。」

センドゥ・ロゼから告げられた事実をトーネ・ハーゲンは信じなかった。

マリ・エル・ハヤセは彼女を説得するが聞く耳を持たなかった。

行動することで、親友であるトーネ・ハーゲンに気付いて欲しかった。

「戻ったマリエルは笑顔だった。喜んでいた。」

「もっと早くこうすれば良かったとも言った。あの子は家族の元に帰るって。」

「でもっ。私はっ。」

授業を受けている筈の橘佳純と滝沢伊紀が

そのマリ・エル・ハヤセを引き連れて現れたのはその時だった。

息を切らして現れた3人に驚く間もなく、

マリ・エル・ハヤセはトーネ・ハーゲンに駆け寄り抱きついた。

「一緒に行こうトーネ。アナタのお父様に会いに。」

「何を言っているの。」

戸惑うトーネ・ハーゲンに全てを語ったのは

橘の父親と共に三原家から戻ったサーラ・プナイリンナ。

彼女は魔女から今まさにトーネ・ハーゲンの出生の報告を受けていた。

サーラ・プナイリンナは最初から

二人に会ったその日から二人の調査を開始していた。

この二人は利用されているだけだとすぐに「判断」した。

利用されるだけの理由があるはず。

もしくは、協力するだけの根拠。少女が背負っているかも知れない何か。

トーネ・ハーゲンにはマリ・エル・ハヤセが語り

俺たちにはサーラ・プナイリンナが説明してくれた。

「魔女の協力でトーネ・ハーゲンの父親の消息を掴み、全部聞いたって。」

消息を絶ったのは、娘を失った絶望からだった。

彼はずっと、頼る術も無く娘を探し続けていた。

「私のお父様がその人の事を覚えていたのよ。」

「娘を救ってくれと。自分はどんな処罰も受けるからって。」

「私がもっと早くこの二つの件に気付いてあげられたら良かったのだけど。」

トーネ・ハーゲンは、マリ・エル・ハヤセの胸の中で泣き崩れた。

「さあ、全部手配したわよ。」

サーラ・プナイリンナは空港までの車と、ノルウェー行きの飛行機まで用意していた。

「お父様に会って謝りなさい。」

トーネ・ハーゲンの背中を押した。

だがあまりに突然で、まだ混乱している。

橘結はそっと彼女の頭を撫でる。何も言わず2度、3度。

トーネ・ハーゲンは落ち着く。全て理解したかのように。

「はい。ありがとうございます王女様。」

「いずれ必ずお礼に参ります。」

「そうね。でもゆっくりでいいわよ。」

サーラ・プナイリンナは彼女に手を差し出し立ち上がらせる。

そしてマリ・エル・ハヤセに託す。

俺はサーラ・プナイリンナに促され、車の待つ公園まで2人を送る。

「全部お芝居だったのね。」

長い階段をゆっくりと降りながらマリ・エル・ハヤセは聞いた。

すまない。

「謝る必要はないわ。感謝している。本当に。」

「私こそアナタに謝るわ。リン・ナムロ。」

トーネ・ハーゲンの、その「申し訳無さそうな」顔につい顔が綻んでしまった。

それを悟られぬよう咳払いをして答えた

マリ・エル・ハヤセには素晴らしい親友がいる。

トーネ・ハーゲンも親友を失わずに済んだ。

二人が大事な者を失わずに済んで本当に良かった。

リムジンが田舎の公園に止まっているのは何とも違和感がある。

2人はそれに乗り込みそして最後に言った。

「いつか必ずお礼に来るわ。」

俺はそれを制した。

イロイロ落ち着いたら連絡をくれ。俺が会いに行くよ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >イロイロ落ち着いたら連絡をくれ。俺が会いに行くよ。 イケメェェェン! と叫んでしまいました。 倫くん、どんどんカッコよくなりますね……!!
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