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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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帰り道、俺は改めて綴さんに謝った。

勝手な事をして、本当に申し訳ありませんでした。

「姫も言っていたけど謝る必要はないわ。」

「ワタシは嬉しかったわよ。」

「そうできるのにそうしないなんてただの怠慢よ。」

綴さんは続ける。

「姫にも何度もそう言ったのよ。」

ワタシでも同じことをした。本人がそれを望み、そうなった。

橘結が責任を背負う理由など無い。

そうした者にしか判らない苦悩である事も事実だ。

綴さんはそれさえも一緒に分かち合おうと言った。

だが橘結は親友に同じ痛みを与えようとはしない。

「綸。アナタは正しい事をした。」

「だから誰も非難していないでしょ?」

事実、誰も俺を責めていない。

「アナタが謝ったらワタシ達も間違っていた事になるのよ。」

こんなに救われる脅迫は初めてだ。


翌朝、俺は少し早めに橘家に迎えに訪れ、橘佳純に姉の様子を訪ねた

「大丈夫どころか。大変だったんだよ興奮しちゃって。」

「伊紀に綸君に何を教えているのか聞いて」

「かと思ったら紹実姉ちゃんに電話して魔法教えなさいよって脅迫して。」

「次は絢姉ちゃんに空手も教わろうかしらとか言い出すし。」

「ああその前に楓ちゃんにも話をとかもう綸君が得た知識みたいの全部知りたがって。」

「今回の件が片付いたら綸君に弟子入りするかもね。」

何だそれは。

隣の滝沢伊紀はどうして泣き出すか

「す、すみません。昨夜を思い出しまして。」

「伊紀はずっとこの調子。感動しましたっ。私感動しましたって。」

感動?そんな大それた事じゃない

「伊紀も弟子入りしたらどうよ。」

やめてくれ。俺はまだ滝沢伊紀から教わりたい事がたくさんある。

「はいっ。協力いたします。私、綸様のためなら何でも致します。」

都合の悪いことに、

このタイミングで他の連中が合流する。

「何でもって何よっ。綸っ伊紀に何したのよっ。」

待て。何もしていない。

「何もしていないのに泣きながら何でもしますっとか言うわけないじゃん。」

「なんて奴だ。トモダチ脅迫してるのかお前。」

そんな事はしていない。

俺はただこれからもイロイロと教えてくれと頼んだだけだ。

「イロイロって何だっ。イロイロってなんだーっ。」

「早速浮気ですか?」

ニコラ・ルナプリアまで何を言い出す。

マリ・エル・ハヤセの一件をこいつらに話す許可は橘結から

「私に断らなくてもいいわよ。綸君に任せます。」

と言われていたので問題は無い。

ただ他所には言わないでくれ。俺が先走ってそうしただけで

これは確立されたシステムではない。問題が起きるかも知れない。

「判ってるわ。」

「こんなの広まったら騒ぎになるかもな。」

「しかしお前どんどん人間離れしてくな。」

「そう?私は前より普通の人っぽくなったような気がするけど。」

「えーっ。だって空飛ぶとか暗示にかけるとかもう超能力少年じゃん。」

超能力ではない。訓練次第で誰でもできる。

「イヤだよ。お前のスケジュール聞いたけどゲロ吐くわ。」

「ゲロとか言うな。」

「いやでもそうじゃん。コイツ頭オカシイって。コイツ。」

指を差すな。

この穏やかな朝の空気は、神社からの異様な気配で吹き飛ぶ。

全員がこの「イヤな感じ」を察し、

慌てて階段を駆け上がった。

神社の境内には橘結と、それに対面する少女。

トーネ・ハーゲン。

「ココに来ればアナタに会えると思った。」

この「イヤな感じ」は明らかに敵意だ。

伴と箱田佐代は橘結を頼む。滝沢伊紀と宮田柚は橘佳純を。

俺は一人彼女の元に近寄る。

俺に用があるなら話せ。

「マリエルに何をしたの。」

それを聞いてどうする。

「答えなさい。リン・ナムロっ。」

敵意は、殺意へと変わった。

風が舞い、砂埃が立ち込める。

「何だっ。」

「ちょっとどうなってるのよ。」

俺はトーネ・ハーゲンと俺とを結界で囲んでいた。

狭い範囲での限られた空間で舞い上がった砂埃は外から様子は伺えないのだろう。

トーネ・ハーゲンも不意の事に視界を奪われ立ち尽くしている。

その隙に彼女の頭に触れ、意識を飛ばした。

結界を解き、彼女を抱えて皆の元へ。

「まさかこ」

「綸がそんな事するわけないでしよっ。」

「だよな。だよなっ。」

「皆は学校に行きなさい。あとは私と綸君がするから。」

「佳純もホラ。皆お願ね。」

「そうね。私達いても役に立てないものね。」

「あ、あとでちゃんと教えろよ。」

判っている。すまない。

橘家に運び、トーネ・ハーゲンを寝かせた。

橘結はすぐに俺の表情を汲み取った。

彼女はきっとマリ・エル・ハヤセの仲間だった。トモダチだった。親友だった。

俺は彼女からマリ・エル・ハヤセを奪ったんだ。

覚えている限り初めて声を出して泣いてしまった。

堪らえようとしたがダメだった。

橘結は何も言わずただ抱き寄せてくれた。


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