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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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「証拠が見たい。」

疑うのも無理はないな。だが実際誰かに試すわけにもいかない。

「ワタシがなる。」

お前からヴァンパイアの要素を取り除く事になる。

「そのつもりよ。」

マリ・エル・ハヤセが1人で俺に会いに来たのはそれが目的だった。

フロレンティナ・プリマヴァラの手足となっていたのは

それが「虐げられている継ぐ者」達を救済してくれているから。だと聞かされたから。

それを信じ、欧州各地でトーネ・ハーゲンと共に仲間を集めていた。

俺が愚かだったのは

サーラ・プナイリンナに彼女達の事を聞かなかった事だ。

最初に出会った際、

マリ・エル・ハヤセは「王女の言葉を信じる」と言っていた。

すぐに確認するべきだった。

彼女達は実際に出会い、話をしている。

マリ・エル・ハヤセがサーラ・プナイリンナからどんな影響を受けたのかも考慮するべきだった。

全て語れ。

「ワタシはアスワングである事に疲れた。」

「ティナが虐げられたのは、そうなるだけの事をしたからだと知ったから。」

「ワタシはただあの人に利用されていただけだ。」

これは本心だ。

遠い昔、その一族は「ロゼ家の分家」以外の名を持たなかった。

ロゼ家が継承する技術は「穢す」ではなく、「浄化」。

その分家は「浄化」を逆流する事で「穢す」行為をした。

それ自体はさほど難しい技術では無いらしい。

だが行為そのものは一族の名をも「穢す」。

日本で言う「呪い」に近いのだろうか。

そして本来の「浄化」(お祓いのような事なのだろう)を用いてその「穢れ」を落とす。

自作自演を繰り返すことにより、その一族は名を手に入れようとした。

自作自演を突き止めたのがプナイリンナ家だった。

ロゼ家から追放されたその一族は名を失い、ヴァンパイアである事さえ許されなかった。

しかしその儀式の後産まれた1人の子は、ヴァンパイアの血を継いでいた。

全てはそこから始まっている。

マリ・エル・ハヤセは誰からこの話を聞いた。

「センドゥ・ロゼ。」

そうか。突き止めていたのか。いや、もうとっくに知っていたのか。

彼は当初からティナとの関わりは持っていた。

お互いが利用するためだけの繋がりで顔すら合わせていないだろう。

利用される事が判っていようともその素性を知らない相手とは組めない。

どんな方法でその情報(経緯)を知り得たのかは重要ではない。

センドゥ・ロゼは御厨理緒のスパイとしてティナ側にいる設定だ。

俺がこの事実を知り、マリ・エル・ハヤセを救済するような真似は避けるべきだ。

つまりお前はそのティナって奴を裏切るのか?

「そうだけど違う。」

「テストそのものは本当。ワタシは条件を付けた。」

俺が本当にタチバナの力を手に入れたのか

エル・マリ・ハヤセは自分の身体を実験材料として差し出す替わりに

ティナとの関わりを捨てる条件。

センドゥ・ロゼは少女に真実を語り、過酷な選択を迫った。

魔女達が揃って「あんな奴」呼ばわりする理由が良く判る。

トーネ・ハーゲンはお前の行為を知っているか?

「知らない。ワタシとティナの約束。」

少し頭痛がしてきた。

渡良瀬葵から「多用するな」と言われたのはこれが理由か。

限界だな。

判った。お前からヴァンパイアの要素を取り除く。それが望みならそうしてやろう。

ヴァンパイアを捨てるのは、家族との繋がりも捨てる事になるぞ。

「もうとっくに捨てた。」

「いえ、捨てられた。」

「家族はワタシを守ってくれなかった。」

「ワタシは家族からさえ疎まれ虐げられていた。」

マリ・エル・ハヤセは泣いていた。

「でもアスワングでなくなれば、家族に戻れるかも知れない。」

マリ・エル・ハヤセは俺と何も違わない。でも俺とは違う。

ヴァンパイアである自分が捨てられ、そして拾われた。

逃げ込んだ先の居心地の差が俺とマリ・エル・ハヤセを分けた。

俺が今こうして、誰かを目の前に彼女と同じ頼みを懇願していたかも知れない。

ああそうか

橘結はこんな重い想いを背負い続けているのか。

橘佳純は、こんなにも苦しい決断を迫られていたのか。

ヴァンパイアを捨て、家族の元に戻り、それでも受け入れられなかったら

「それでも人として生きていける。」

俺は新しい家族を手に入れた。彼女はこれから手に入れる。それだけだ。


「それで、本当にヴァンパイアじゃなくしたのか?」

まさか。俺にはそんな技術ない。

俺は滝沢伊紀から教わっていた「祓う」技術を少々アレンジし、

その上でマリ・エル・ハヤセに渡良瀬葵から教わった+A77:A86「暗示」をかけた。

バレるような事は無いだろうし、本人が「ヴァンパイアに戻りたい」と思って

魔女が暗示を解かない限り戻らない。

申し訳ないが細かい説明は明日に。

恐ろしく眠い。頭痛も吐き気もするが眠れば治る。

「早く言えよっ。いいよと言うかここで休んでいけ。綴さんには連絡するから。」

ありがとうございます。

市野萱友維が「紹実姉ちゃんっ。」と走る後ろ姿と

黒猫のノトがとても甘えた声で俺に擦り寄ってくる姿を見て意識を失った。


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