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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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それが幻だとか幽霊だとかただの妄想だとしても

「おぬもの(居ぬもの)」として処理された。

やがて「鬼」と呼ばれる何かと混同されるようになる。

「まあそんなとこじゃないかな。」

いつの時代から橘を名乗り、

代々受け継がれるその技術はどの代で確立されたのか。

「んー弟橘媛とか言い出したら日本書紀とかの話だからなぁ。」

「聞いた事あるぞっ日本書紀って。」

「それ書かれたの奈良時代だから少なくともその頃には」

「いやいや後付しただけかもよ。勝手に名乗った的な。」

「本人がそれ言うか。」

「だって判らないもん。」

「家の事は結姉が継いでるし私自身はずっと他所で暮らしていたから。」

「正直言って橘家の事とかこの街の事とかあまり関心無いのよねー。」

橘佳純は産まれてすぐに父親の実家に預けられた。

彼女の父親は元々橘家との親交は殆ど無く、滝沢家と親しかった。

橘佳純は滝沢家でその技術の基礎を学んでいた。

橘家の者としての自覚が少ないのは無理からぬ話。

「その点お前は凄いな。あっという間にこの街に馴染みやがった。」

それは多分俺がヴァンパイアだからだ。

「意味判らんけど。ヴァンパイアは人と馴染みやすいとか有り得ないだろ。」

「失礼な。」

箱田佐代はどうか判らない。俺は人と馴染むより前に

この街に居心地の良さを感じた。

橘家の力がそう感じさせてくれたのか

それともお前たちが居てくれたからなのかは判らないけどな。

「あーっ俺もそんなの何の恥ずかし気も無くサラっと言ってみてぇっ」

「お前にゃ無理だ伴。」

「無理ね。」


橘家の名前を欲している相手からすれば

次女の事情など取るに足らない事案なのだろう。

橘結が直接どうこうする必要すら無いのかも知れない。

自らが裁かれないための事前準備とか危機管理に近い。

だからこそ魔女は俺にサーラ・プナイリンナの後ろ盾を与えた。


この日、ニコラ・ルナプリアの母親が姿を消した。


サーラ・プナイリンナは直接ニコラ・ルナプリアに

「貴女の身は私が保障する。」と言った。

だから今まで通り学校に通うように。

留学期間が終わればプナイリンナ家で面倒を見ると約束した。

それはおそらく母親の願いでもある。

ニコラ・ルナプリアはそれを承知している。だが自信はない。

「私はこの先、サーラ・プナイリンナを恨まないでいられるだろうか。」

母親がどんな処分が下されようとも、変わらずこの人を尊敬できるだろうか。

俺は彼女の問いに何も答えてやれなかった。

俺にも判らない。

身内が悪事を働いたとしても、その身内を罰した人間を許せるのだろうか。

それが法的な根拠などでなく、私怨であればこそ。

俺はただサーラ・プナイリンナとの約束を信じる。

同日、マリ・エル・ハヤセからメールが届く。

「もう一度会いたい。その上でティナに会わせるか決める。」

フロレンティナ・プリマヴァラは日本に向かった。

既にその途上かもしれない。

この事実と俺の意思をサーラ・プナイリンナに伝えた。

「勿論。私は最初からアナタに全て委ねている。」

「好きなようになさい。」

市野萱友維さん。よろしいですか。

「お前に任せる。」

不安はあるだろう。

「不安なんてない。心配はしているけどな。」

市野萱友維は、俺を抱き寄せた。

「ゴメンな。お前1人に損な役割押し付けて。」

くれぐれもニコラ・ルナプリアには知らせないでください。

それからカオルンにも謝っておいてください。

あの人はきっと「この先」も考えていた筈です。

それを俺がブチ壊してしまう。

「いや心配するな。魔女の仕事は元々ここまでだから。」

「あとはヴァンパイア同士の問題だ。」

市野萱友維、そして他の魔女達の誤算は

「これ以上踏み込ませない」線を俺が超えた事。

魔女達は俺を守るためにその線を引いてくれた。

俺の役割は最初から最後まで「囮」とか「餌」であるべきなのかも知れない。

釣り上げてその後の処理は大人達に任せるべきなのかも知れない。

市野萱友維は言った。

今回の件で俺ほどの適任者はいないだろうと。

これは誰からも「そうなるよう」仕向けられたのではない。

俺が俺の意思でそうするだけ。全くの個人的な感情によって

フロレンティナ・プリマヴァラと対面する。


マリ・エル・ハヤセは1人で待ち合わせ場所にいた。

最初に俺が連れて行った駅前のカフェバー。

「タチバナを手に入れたのは本当の話なの?」

いや違う。俺が手に入れたのはタチバナの力そのものだ。

技術さえ身につけてしまえば姉妹には価値などない。

「アナタ自身の脅威にならない?」

その技術を手にいれたのはつまり、その力に対する術も身に付けた事にもなる。

他のヴァンパイア達にはどうか知らないが

俺には何の脅威にもなりえない。

これで俺を利用するしか手は無い筈だ。

さあ喰いついてくれ。


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