073
「そして今日、ユイ・タチバナに呼ばれ確信至った。」
「私の母がフロレンティナ・プリマヴァラ。」
当事者の娘。
「悪魔のような」と呼ばれる連中を指揮する者の娘。
その事実に俺達は言葉を失っていた。
「ニコラ・ルナプリア。私は、私達は何があっても貴女を守る。」
橘結は彼女の手を取り続けた。
「それを伝えるために貴女をこの場に呼んだのよ。」
エーリッキ・プナイリンナは
「ニコラ・ルナプリアは何も知らない」と魔女に伝えた。
幼い頃から自分を兄のように慕っていた少女の目に嘘は無いと確信していた。
魔女にとってはとても危険な賭けとなったがヴァンパイアの王子を信じた。
俺が彼女を信じたのも、橘結が信じる者を信じたから。
全てはあの王子に対する信用が元になっている。
「違う違う。結姉はキズナ兄ちゃんの信用する人を信じただけだよ。」
「それは今言わなくてもいいのよっ。」
橘結がニコラ・ルナプリアを信じ、エーリッキ・プナイリンナの言葉を疑わないのは
彼が真壁絆の親友だから。それ以外の理由はないらしい。
「ニコラ。結姉が言ったよね。私達って。私も貴女を守る。」
「私も微力ながらお守りします。」
「私も同族として貴女を守ってあげる。」
「んじゃアタシはトモダチとして守ってやる。」
そう言いながら全員がニコラ・ルナプリアと橘結の手に自らの手を合わせる。
津久田伴は
「何だか良く判らないが俺も混ぜろ。」
と、その手を乗せる。
「綸君早く。この体勢キツイ。」
約束するのは一向に構わないのだが
橘結に確認したい。
「何?」
ニコラ・ルナプリアを守らなければならない状況になるのか?
その質問には同席していた市野萱友維が答えた
「ごちゃごちゃ言ってないで女子を守ってやればいいんだよっ。」
と腰に蹴りを入れられた。
「詳しい事はよく判らないんだけどさ。」
「ニコラが綸の奴にキスしちゃえばニコラの問題は片付くんじゃね?」
宮田柚は何を言っている。
「まあそうね。元々綸君のキスの効能ってあの王子様達との繋がりを作るものだし。」
橘結まで何を言っている。
いやそれなら俺と王子との繋がりよりニコラ・ルナプリア個人のがよほど関わりは深いだろう。
「そうだっコイツとキスしたからって別に何も無いだろっ」
市野萱友維の言うとおりだ。だいたい効能って何だ。
「私は綸の唇守るって約束したからっ。」
理由はともかく箱田佐代も反対した。
「佳純も会長なんだから反対でしょっ。」
「いや私は別にどっちでも。ってか私会長違うし。」
「そそそそれでは私が会長になります。」
滝沢伊紀は何の決意をしているのかよく判らない。
「だいたい柚だって会員じゃないのっ」
「ふふんっ」
宮田柚は不適な微笑みを浮かべる。
「ついにアタシの罠に嵌ったなっ。」
罠って何だ。
「いいか綸、魔女っ子友維ちゃんは想定外だったが」
「反対したコイツらぜ」
「魔女っ子言うな化け猫めっ」
市野萱友維が宮田柚の口を塞ぐ
「ふにゃっっふがっ。」
「そうよ。ちょっと黙ってなさいよ。」
箱田佐代もそれに続き
「宮田様。ちょっと別室によろしいでしょうか。」
と滝沢伊紀が加わり宮田柚は連れ去られてしまう。
一体何が起きている?
ニコラ・ルナプリアは呆気にとられている。
だがすぐに自分の立場がいかに危ういかを理解する。
橘結が「守る」と言ったが俺はそんな必要は無いと思っている。
お前の母親がお前を利用するつもりでプナイリンナ家の二人と遊ばせたとは思えない。
「どうして。私プナイリンナと仲良し。情報提供できる。」
留学を勧めたののは王子なんだろ?
「はいそうですね。」
あの王子はお前を信じている。母親がそれを知ってどうして何もしない?
母親は留学を喜んだのだろう?
「私敵の娘。人質にうってつけ。」
それはない。あ、いやプナイリンナ家はそうしない。
きっとお前の母親は、これから自分がどうなるのかを知っていた。
お前とプナイリンナの二人が友人である事を喜んだのは
「自分がどうなろうと私を守るため。」
ニコラ・ルナプリアは「どうしたらいいのか」判らないと嘆いた。
母が抱えている「一族の恨み」を何も知らない。
母の親の親の親の世代の話。
どうして自分には何も語らなかったのかを考えると
国に帰っても母は自分と合わないだろう。
説得も聞く耳を持たないだろう。
母は1人で全てを終わらせるつもりだ。
追放された一族は、日陰者として長い間恨みを溜め続けていた。
ニコラ・ルナプリアの母親は、
代々語り継がれていたであろう怨念を終わらせようとしている。
「母に会いたい。会って話がしたい。」
「復讐なんて良いではない。」
正直な気持ちだと思う。
その一族が何故「追放された」のか知らない。
追放がその世界でどんな意味を持つのかも知らない。
エーリッキ・プナイリンナとサーラ・プナイリンナが素晴らしい人格の持ち主だとしても
そのルーツに「悪者」がいないなんて言い切れない。




