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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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特に問題は無かった。と思う。

数年後数十年後、修学旅行は楽しかったと言えるだろう。

魔女から預かった本を読み終える事は叶わなかったが

市野萱友維はそれを期待していなかった。

「そもそも本開いてんじゃねえよ。」

とまで言い放った。

「で?何人に告白されたんだ?」

告白?何ですかそれ。

「修学旅行で告白されないとか無いだろ。」

知りませんよ。他の連中に聞いてください。

「えっ誰?佳純か?佐代か?」

いやだから知りませんて。

「チッ。ツマンネー奴。」

橘佳純が告白されたとしても断るのは判りきっている。

最強の魔女に太刀打ちできる高校生なんて世界中どれほどいるだろう。

以前、宮田柚が津久田伴に好意を抱いていると勘違いしていた。

それは本人がはっきりと否定した。

「イラッとしていたのは間違いない。」

だがそれは津久田伴に対してではなく、姉の宮田桃に対して。

「伴の気持ちとか全く判って無いからだよ。」

「我が姉ながらあの天然っぷりにはイライラするつーの。」

宮田柚の説明の意味だとか根拠?はいまいち伝わらなかったのだが

それが津久田伴に対する好意とか悪意とかの類ではないのは理解できた。

当の津久田伴は女子から呼び出されていたのは知っている。

その事で男子から冷やかされていたのも見ている。

いくら俺でも何の用で呼び出されたのかくらいは察する。

だからと言ってそれを市野萱友維に報告するのは何かおかしい。

そんなことより俺を修学旅行に追いやった本当の理由を知りたい。

俺をこの街から追い出したのはどうしてなのか。

「マリ・エル・ハヤセとトーネ・ハーゲンって二人覚えているか?」

勿論。一週間程度で忘れはしない。俺にとっては最重要人物だ。

「お前のいない所であの二人に接触する必要があったんだ。」

咄嗟に思いつた割には真に迫った嘘だ。

二人に会う必要があったのは確かだろうが俺の目を避ける必要はない。

それで、何か掴めましたか。

「いや。結局何も。」

「アレだな。ヴァンパイアってスゲェな。気配とか消せるのな。」

そうなんですか?

「尾行ってさ、たいてい後ろ姿追いかけるじゃん。」

まあそうですね。

「人混みとかでフと消えるの。」

「魔女の魔法に似てるよアレ。」

魔女は「見えない魔女」を探す事が出来る。

だが「見えないヴァンパイア」は見付けられないらしい。

市野萱友維は「ちょっとした誤差」だと言ったが俺には判らない。

「いやお前にも教えてあるよ。消える魔女の見え方。」

グローブを填めた魔女は通常見えない。だが俺にはそれを発見できる。

尾行に失敗する筈はない。一度成功して宿泊先まで調べているのに。

話を逸らされたまま電話を切られてしまった。

「まず友維ちゃんに報告って二人はそのほら。」

綴さんは何を聞きたい?

「綸と友維ちゃんが付き合ってるのかなー。なんて。」

付き合ってませんよ。それに旅行の土産話をしていたわけではありません。

「なんだそうなの。」

安堵したのか落胆したのか判らない。

「旅行の報告じゃなければ何のってまあ聞くまでもないか。」

「何も進展していなかったのでしょ?」

はい。

「良かったじゃない。修学旅行が無駄にならなくて。」

それもそうだ。あれだけ俺に旅行を勧めたのだから

何かあったとろこで「大変だったよ」なんて言うはずがない。

実際何も無かったのだから良しと思うべきだろうな。

「それで。何人から告白されたのよ。」

綴さんまで何を言っている。


修学旅行が終わり、その週末。

マリ・エル・ハヤセとトーネ・ハーゲンが俺の前に現れる。

二人は未だに俺の本意を見極めきれていないと言った。

俺の中で、点と点が繋がるきっかけを作ったのは二人の次の言葉だった。

「リン・ナムロが騙そうとしているのは誰なの?」

慎重なだけだ。と言われると返す言葉も無い。

何の根拠も無い。直感と言っていい。

二人は「自分は異なる側」にいると嘘を吐いている。

「奴らの仲間にならないで」と言われ、俺は知った事かと突き放した。

二度目の接触も、話の内容は何も進展していない。

そして三度目。同じ事を言っている。

説得もせず、「仲間になれ」とも言わず、ただ「奴らに近付くな」とだけ。

本意が判らないのは俺も同じだ。

二人が何の目的で俺の前に現れるのか判らない。

俺の本意は橘佳純を手に入れる事にある。だがそれは手段であって目的ではない。

お前達の本意が判らない以上、俺がそれを話すと思うのか。

「私達の本意は最初に話した通り。奴らの仲間にならないで。」

二人は俺が橘佳純を手に入れる事に関して何も言わない。

二人は橘佳純本人に関して何も語らない。興味すら示さない。

悪魔のようなと呼ばれる連中が橘佳純を欲しているのなら

彼女に仕える俺はむしろ邪魔な存在の筈だ。

俺を排除しようとも、取り込もうともしない。

橘佳純を手に入れようとも保護ししようともしない。

俺には、お前達二人は俺が橘佳純を手に入れるのをただ待っているだけに思える。

「聞いていた通りね。」

トーネ・ハーゲンは突然流暢な日本語で、初めて声を発した。

「センドゥ・ロゼを知っているわね?」

「リン・ナムロの事はあの人から聞かされていた。」

「何を考えているか判らん奴だが真実を掴む目を持っている。」

「センドゥ・ロゼが人を褒めたのを聞いたのはあれきりよ。」


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