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それでも市野萱友維と三原紹実は俺を修学旅行に行かせようと企んだ。
病欠を理由にと考えていたので事前に届けを出していなかった俺も悪い。
二人はとうとう綴さんに「告げ口」した。
そしておそらくその時に「真実」をも告げていた。
この時点では「憶測」でしか無かったのだが二人はそれを懸念し、
綴さんを説得して味方に付けた。
その「真実」さえ無ければ、きっと綴さんは俺の味方になってくれていただろう。
それでも渋っている俺に、とうとう橘結と小室絢まで呼び出した。
態々南室家にまで揃って現れ俺に敵対する。
俺がどんなに正当性を主張しても
彼女達はただ「高校生活を犠牲にするほどの問題ではない」と言うだけだつた。
いやいや問題だろう。と反論しても
「いつでも出来る事と今しか出来ない事を比較しちゃだめよ。」
と橘結に窘められた。
俺にとっては今しかできない事だと思うのだがすると今度は
「相手もバカじゃない。だって朝から現れないじゃん。」
言わんとしている事は解ります。
あの二人が現れるの週末の午後。
俺が一人になってある程度の時間があると承知している。
修学旅行に行きたくない理由はもう1つある。
放課後の毎日の訓練はどうなる。
「お前詰め込みすぎだから丁度いい。」
詰め込み過ぎ?まだまだ足りない。何も埋まっていない。
「ドMかお前。」
痛い目に合うのがイヤだから
「冗談だよ。何か本を用意してやるからそれ読んでろ。」
市野萱友維はそこそこ厚い「魔法の書」を貸してくれた。
綴さんと小室絢は
「朝でも晩でも基本の型をおさらいしなさい。」
「そうだな。ゆっくりと動きの意味を考えながらやってみ。」
「帰ってきたらその意味を答え合わせしましょう。」
と宿題をくれた。
流石にこの面子にここまでの事をされると「他の理由」を勘繰ってしまう。
俺が今知るべきではない情報があるのだろう。
俺はそれを察してこの人達に乗せられなければならない。
確かにこの時点で、俺がその「疑惑」を知ってしまえば修学旅行に行く気になっただろう。
だが同時に、平穏無事には過ごせなかったに違いない。
「たまには私達の事忘れてのんびり日光浴してこい。」
小室絢はヴァンパイアに向かって恐ろしい事を口にする。
「沖縄はイイけど10月って無いわー。」
「ホテルとか安いんじゃね?」
「泳げないってなんだよなぁ。」
「いやいや10月でも普通に泳げるらしいよ。」
「その日の天気にもよるけど後は台風が心配。」
1週間前からクラス全体が相当フワフワしている。
班分けがどうのこうのと言っているが
俺はどうやら津久田伴と一緒らしい。
「お前と一緒なら橘佳純達と一緒に行動できる理由になるからな。」
何だそれは。
「あの留学生と仲良くなりたいって奴が多いって事だよ。」
言っている意味がよく判らない。
宮田柚と箱田佐代も一緒になるのは構わないのだろうか。
それともこいつもニコラ・ルナプリアに興味がある?
「島行くだろ?島。」
「イリオモテヤマネコ見に行くぞ。」
「そんな簡単に見られないでしょ。」
「でも結構交通事故で死んじゃうらしいよ。」
「宮古島でドイツ村に行こうぜ。」
「ドイツ村?」
浮ついた空気に当てられていた。
俺も間違いなく浮ついていた。
津久田伴が俺を誘い、
橘佳純と共に行動するのが当たり前だと「俺に思わせた」のも
全て事前に仕組まれていた事にまるで気付きもしなかったのだから。
初日に観光名所を回り、二日目は終日自由行動。
とは言え班単位なので個人でどうこうは出来ない。
夕方ホテルに戻った後に走りに行くのでさえ教師は相当渋っていた。
「近場のビーチ限定」でようやく許可してもらった程だ。
俺としてはとにかく動きたいだけだったので場所は関係ない。
夜は誰も寝ようとしない。
カードゲームで盛り上がり俺も誘われたのだが
魔女からの宿題をこなしていた。
「修学旅行の醍醐味を半分捨てている。」
と言われたがよく判らない。
そもそも俺はどうしてこんな所に来ているのだろう。
市野萱友維や綴さんが俺を修学旅行に行かせたがった理由が判らない。
クラスメイト達との親睦?
あと1年半ほどで卒業する。その程度の付き合いしか無いのに
それをしたから何だと言うのか。
現に俺の日常は学校が終わってからに凝縮されている。
市野萱友維も綴さんもそんな事は承知している筈だ。
他に何か。
イロイロと考えてはみたがまとまらない。
二度目にカードゲームに誘われると、断るのも悪いとそのまま加わった。




