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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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釣果は翌日に判明した。

俺と二人の行動は

渡良瀬葵と鏑木華奈によって監視されていた。

二人の魔女は二人のヴァンパイアを尾行し、宿泊先を突き止める。

方法は判らないが、二人の本名(偽りは無かった)や国籍(予想通り)を確認し、

さらに二人の口から直接「指導者」の名前を聞き出した。

恐ろしいのは、二人はそれらを覚えていない事だ。

「フロレンティナ・プリマヴァラ Florentina Primăvară。」

意味が安易すぎる。偽名か。

「ティナって呼んでるんだってよ。」

女性、ですかね。

「さあな。私は聞いたままを伝えているだけだ。」

「そのティナってのはヴォイヴォド?って地位なんだと。」

ルーマニアの神話だか物語のヴァンパイアを指すんじゃなかったかな。

後に「暴君」だとか「死に値する権力者」とかそんなような意味合いで使われているはずだ。

「詳しいな。」

一時自分のルーツを知ろうとイロイロと調べていた際に得た知識だ。役には立たない。

それでそのティナ・ヴォイヴォドは今何処に。

「二人共知らないってよ。連絡はメールのみ。アドレスのドメインはグーグル先生だった。」

いずれまた接触があるでしょうから何かしら煽ってみましょうか。

「それはいいけど。」

何でしょう。

「お前そろそろ修学旅行じゃないのか?」

そうですね。確か来週です。

「行けよ。」

どうして行かないのだと判った。


こんな大事な時期にたかだか学校行事に感けてなんていられない。

「たかだかじゃねぇっ。」

市野萱友維は何をそんなに怒っている。

「佳純は承知してるのかよ。」

話してもいません。承知とか何とかありませんよ。

「お前が行かないって言ったら間違いなく」

「「じゃあ私も行かない。」って駄々るぞ。」

それは無いでしょう。折角の修学旅行をこんな事で

「さっきたかだかって言ったじゃねぇか。」

それは主観ですから。俺にとってはたかだかですよ。

橘佳純が俺に付き合う必要も理由もない。

「お前は佳純の代理の囮゛たろうが。アイツがそれを気にしないとでも思ってるのか。」

俺は南室ですから。橘の代理は当然の責務です。責任を感じる必要は

「だーっうるせぇ。正論屁理屈バカっ。」

なんですかそれ。

「理屈どうこうじゃなくて感情的な話だよっ。判れよっ。」

判りませんよ。

「いいから行け。とにかく行け。」

ですがあの二人との接触の機会をみすみす逃すことになります。

「そんなモン一週間くらい延びたってどうとでも。あ、お前。」

「むしろ好都合だくらいに思ってるだろ。」

この機会に指導者のティナ・ヴォイヴォドに会わせてもらおうかと。

「先走るな。確かにお前のアドリブに任せてはいるけど。」

「焦って慎重さが無くなっているぞ。」

市野萱友維の言葉とは思えませんね。

チャンスは来てからじゃ遅いって言ってましたよね。

「言ってねえよ。でもそれ後で使うから頂戴。」

どうぞ

「どうぞじゃねえっ。行けよ修学旅行。」

やがて三原紹実が加わり脅迫する。

「沖縄で佳純に何かあったら責任取れるのか。」

その心配は無いと考えたからこその決断だ。

「万が一が無いとは言い切れないだろう。」

護衛は津久田伴に頼みました。彼なら問題ない。

滝沢伊紀も箱田佐代もいる。宮田柚はまあアレだが。

俺にはどうしてお二人がそんなに修学旅行に行かせたがるのか理解しがたいですね。

「だって修学旅行だぞ?」

「最初で最後だぞ?」

この機会も最初で最後かもしれませんよ。

もう少しで正体が掴めそうなのにこの機会を捨てるなんてできません。

あ、もしかして俺を気遣って言ってくださってますか?

「何でそんなんは気付くんだこいつ。」

それこそ無用な心配ですよ。

元々修学旅行に興味はありませんでした。

クラスの連中とも普段から殆ど会話もしていない。

俺一人欠席したところで何がどうなるものでもありません。

「悲しい事をサラっと言うな。」

後に三原紹実と碓氷薫はこの件を含めた「学園生活」について俺に謝罪するのだが

その意味が全く判らなかった。

二人はどうやら俺がもっと「高校生らしい」生活を営んでいるのだと思っていた。

橘佳純を含めたその周囲の連中と一緒にいる事で

俺も当たり前のように馴染んでいるのだと思ったらしい。

特に津久田伴と宮田柚は人と人を繋げるのが得意だ。

碓氷薫と三原紹実がおそらく小室絢経由でそれを知っていても不思議ではない。

授業中はレベルの高い授業に追い付くのに必死だったし

それ以外の時間は今回の一連について思案している事が多かった。

目付きの悪いヴァンパイアが不機嫌そうに見える顔で黙っていれば

誰だって近寄らない。

俺はそれを有り難いとさえ思っていた。

「だらか寂しい事を簡単に言うなよっ。」

寂しい?

放課後に毎日とても濃い交流があるのに。

貴女達に出会えたからこそ得られた充実感は

学校でクラスメイトの相手をするより遥かに大きい。

俺の学園生活に対しての謝罪なら不要です。

俺がそれを望み、そして楽しんでいたのだから。


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