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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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綴さんはニコラを採寸する。

「それほど難しくないの。」

手作りですか?

「1日あれば出来るわよ。」

作った事あるのかと聞くと「今回が初めて」と答える。

それでも綴さんが初めて浴衣を着た時の感想は

「これなら自分でも作れそう。」

俺が相談したその日に綴さんが母に話すと

余っている生地(反物)があるからと。

型も綴さんが母に作ってもらった物がまだある筈だと探し出してくれていた。

ニコラ・ルナプリアの母は娘のために服を作った事があるだろうか。

だいたい「服を手作りする」なんて発想があるのだろうか。

「ワタシ、ユカタ作るの見たいがよろしいですだか?」

「大した作業じゃないわよ?」

浴衣が着られる喜びだろうか

浴衣を作ってもらえる喜びだろうか

ニコラ・ルナプリアは興味深く、目を輝かせながらその様子を見守る。

「ただ帯びが無いから。とりあえず今回はワタシの貸すわ。」

「そのうち綸がプレゼントするかもね。」


当日のニコラ・ルナプリアは誰よりもはしゃいでいたように見えた。

それでも御神楽の橘姉妹の舞には言葉を失っていた。

よく見えなかったが泣いていたかも知れない。

昼と夜を繋ぐように、人と人ならざる者を繋ぐ祈り。

その舞の動きにどんな意味があるのか

生まれた場所や文化に関係なく伝わるのだろう。

これを機にニコラ・ルナプリアは

エーリッキ・プナイリンナがどうしてタチバナ家を守ろうと尽力するのかを理解した。

浴衣を纏い戻った橘佳純はただの少女にしか見えない。

皆を引き連れ公園の屋台へと繰り出した。

「綸君は行かないの?」

舞を終え、着替えた橘結が神楽殿の片付けを始めた俺に声を掛けた。

舞台の片付けをします。

「皆と楽しんでくればいいのに。」

あまり言いたくは無いのですが俺は人混みに酔います。

「そうなの?」

南室の実家に里帰りする際乗り換えで降りた都会の駅で酔いました。

人の多さに圧倒された。

気分が悪くなり綴さんと両親に心配を掛けた。

去年の祭りでも少し気分が悪くなった。心配を掛けたくないので黙っていたが。

「杏ちゃんも似たような事言ってたわ。」

「一度椿ちゃんとコミケに行って具合悪くしてずっと寝てたって。」

「まあでも杏ちゃんの場合は「喧しくてダメだっ」て言ってたらしいけど。」

判る気がします。

宮田柚も言っていました。聞きたくも無い「声」が入る。

それを閉ざすのは可能だがあまりに多いノイズは処理しきれない。

ただ宮田柚はお祭りのときは「楽しさが勝つから平気」と胸を張っていた。

「折角のお祭りなのに。」

橘結は不意に腕を伸ばし俺の頭を撫でた。

「これで少しはマシになると思う。」

そのまま俺の腕を取り階段を降りる。

「ダメだったら言ってね。」

と言われたのだがダメではなかった。

ノイズが聞こえない。喧しいに違いない。

それでも音が音のまま耳に入り、頭に残らず抜けて行く。

橘結は俺に何をしたのだろう。

「ちょっとしたおまじない。」

「知ってる?おまじないって「のろい」て字を充てるのよ。怖くない?」

「どうせなら「いわい」の字を使って欲しいわよねー。」

俺はどうして橘結と祭りの屋台を見て回っているのだろうか。

1人占めしていたらバチが当たるかもな。

とか何とか思っていると

エーリッキ・プナイリンナとグンデ・ルードスロットが橘結を見付け

彼女を呼び連れ去ろうとする。

「え?ちょっと。綸君。」

どうぞ行ってください。ゲストのお相手もお姫様のお役目ですよ。

「何よそれ。調子悪くなったら私か佳純ちゃんに言うのよ。」

全て聞き取る前に見えなくなった。


グンデ・ルードスロットは結局秋分の日の祭りまで見物してから帰国した。

「何を言ってるデスか。ワタシこれ見に来ただけよ。」

実際、本人だけはそのつもりなのだろう。

だが俺との喧嘩(一方的な蹂躙)は

エーリッキ・プナイリンナとの決別を知らしめる事になる。

そんな事をする理由は

「狼男は今回の件に一切関わっていない」と知らしめるため。

合わせて宮田杏も帰国する。

彼女は俺にグンデ・ルードスロットを引き合わせるためだけに来日した。

「違うよ。姉ちゃんも祭り見に来ただけだよ。」

妹の宮田柚が言うが、こちらもどうやらその通りなのだろう。

「で、どうだったんだよ。強かったのか?」

手も足も出ないって言葉がこれほどハマる例は無いだろうな。

「マジでか。お前も相当やる奴だと思ったんだけどなぁ。」

「現役最強のNFLの選手とプロレスしてその程度で済んだんだから充分スゲェよ。」

「でもボロボロだったて聞いたわよ。」

津久田伴の褒め言葉は何の慰めにもならないが諦めは付く。

箱田佐代はそれを誰から聞いた?

あの日は皆学校で、話すとすれば橘結か市野萱友維だ。

「佳純からよ。帰ったらボロ雑巾みたいな綸がいて驚いたって。」

迎えに来てくれた綴さんも驚いていた。

ああそうか

俺は皆の中ではもう少し「強い男」のイメージを持たれていたんだな。

俺は弱い。

もっと強くならないと。

もっともっと強くならないと。


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