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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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俺は彼を気遣ったつもりだった。

無理矢理とはいえ「トモダチ」になったのだから

「構わない」のが正解だと思っていた。

それは彼の問題であって、その手助けは父親がしているのだと。

事実、彼の悩みの本質的な部分は父親の助言によって解消されていた。

だが津久田伴は「仲間」思いだ。

同じように悩み、苦しみ、もがいているであろう俺の力になれたら。とずっと考えていた。

彼は俺の行為を「突き放された」とか「除け者にされた」と思ってしまった。

一年前の夏休み。

橘結から「橘佳純を守って」と依頼された。

彼はずっとそのつもりだった。

彼は彼なりにその約束を守ろうとしていた。

津久田伴は、俺の仕事の領分を侵さぬように気を使っていてくれていた。

俺はそんな事も判らず、

津久田伴を知った気になって、勝手に彼の資質を決め付け突き放した。

今回の俺の唇に関する事一切を知らされない。

知らされていなくとも、毎日学校で顔を合わせ、同じ教室で同じ時を過ごせば

「何かあったな」程度の察しはつくだろう。

津久田伴は、ずっとフラストレーションを抱えていた。


この日の俺は、彼に及ばないまでも少々不機嫌だった。

綴さんがいない。小室絢もいない。俺に指導してくれる人がいない。

であれば、1人で静かに動きの確認をするしかない。

もしくは何も考えずにひたすら体を動かし続けたかった。

だが子供達がそうさせてくれなかった。

監視者のいない夏休み前の浮かれた小学生に騒ぐなと言っても無駄だ。

宮田柚がその騒動に加わる。

敷島楓と箱田佐代と滝沢伊紀は何やら話しをしている。

橘佳純は後輩の女子達に囲まれている。

「切欠」は知らない。知る気もない。

それでも宮田柚と津久田伴が共に俺の元に現れ

2人が何かを言い合って

気付くと津久田伴が俺の胸倉を掴んでいた。

小室絢さんが言った「どちらが強いかの答え」を

津久田伴はずっと引き摺っていた。

俺はそんな事すっかり忘れていたのに。


目が覚めたのは病院だった。

右上腕部にギプス。

右腕があらぬ方向に曲がっていたらしい。

左脇の肋骨に二本ヒビ。

だがこの程度の怪我、入院するまでもない。

骨の位置さえ正常に戻せば1週間もあれば完治してしまう。

俺が意識を失ったのは、津久田伴に殴られたからではない。

止めに入った橘佳純を、津久田伴が振り払ったからだ。

橘佳純が吹き飛ばされ、滝沢伊紀が慌てて受け止めようとしている。

その様子がとてもゆっくりと見えていた。

自分の右腕が伸びて、津久田伴の首を掴もうとしている。

ここで記憶が途切れている。

津久田伴は持ち上げられた状態で力任せに俺の腕を折る。

離れた瞬間に箱田佐代がハイキック。

反射的に上げた腕の隙間に側面から敷島楓がタックル。

倒されると滝沢伊紀が強制的に「もう一段」意識を飛ばした。

見舞いに来た津久田伴が全て教えてくれた。

彼は自分の非を詫た。

俺に殺されかけたのが怖くてそうしたのではない。

言い訳を並べているようでもあったし

俺に理解を求めようともしていた。

この数週間の彼ではなく、俺の知っている元々の津久田伴がそこにいた。

実際は殆ど何を言っているのか判らなかったが

言いたい事は不思議と理解できた。気がする。

彼は俺に何も話させなかった。

誰からかは言わなかったが事情は聞いたようだ。

俺が津久田伴を突き放した理由も、

現在橘佳純の周囲で起きている状況も。

その上で全てを俺に吐き出した。

そして改めて

「出来る事があったら言ってくれ。」

と申し出た。

俺は遠慮する事なく、そこそこ無茶な事を頼んだ。


橘佳純も彼の謝罪を受け入れた。

「男子の喧嘩止めようってんだから怪我くらい覚悟してたわ。」

と同じ事を彼にも言ったらしい。

「それにしてもお父さんじゃ無いんだから。」

なに?

「ちょっと突き飛ばされたくらいで殺そうとする事ないって言ってるの。」

すまない。本当に。

殺意の有無は判らない。意識が無いのだから。

「まあ南室綸としての責任を果たそうとしたのは判るから。」

「それに。」

橘佳純は少しオカシナ笑みを浮かべ

「伴君には悪いけどチョット胸がスッとした。」


「佳純とか綸を守る用にイロイロ話ししてて。」

箱田佐代のハイキックと敷島楓のタックル。そして滝沢伊紀の対処。

その時も、その話をしていた。

「まさか本人に使うとは思いもしなかったわ。」

俺からは敷島楓の姿が全く見えなかったのだろう。

意識を高い場所に向けて、低い位置からのタックルは防ぎようが無い。

滝沢伊紀の対処も適切だ。

すごいコンビネーションだった。と津久田伴から聞いた。

「イイ実験台にはなったわね。」

「他にもいくつか考えてるからまた頼むな。」

「私もそれなりに武道の心得はありますから。」


小室絢は俺達全員に連帯責任として罰を与えると言った。

何をさせるかはこれから考える。と、不気味に笑った。


誰も俺の暴走を咎めない。


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