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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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カオルンが言うには

「碓氷先生って呼ばないと利根先生に怒られるよ。」

いや、ヨシノンから「そう呼びなさい」と言われた。

「そうなの?何で?」

俺の唇を弄んだ責任がどうのこうのと。

カオルンが「連帯責任でヨシノンの事もヨシノンて呼べよ」だそうだ。

「何の話だよ。」

「それより弄ばれたって何っ。相手は誰よっ。」

箱田佐代は何をそんなに怒っているのか。

カオルンが言うには近日中に俺の唇を狙いに

本場の吸血鬼が現れるそうだ。

「本格的に私達の出番ね。」

出番?

「南室綸の唇を守る会。会長は親分の佳純。」

「親分て何よっ。」

「そこ?」

自分の唇くらい自分で守る。

「綸君は女の子に手を上げられるん?」

「複数の女子が束になって綸を羽交い締めにしてっ。」

「な場合どうするの。」

その時は力づくで振りほどくしかないな。

とにかく、お前たちの力は借りない。

正確には借りられない。

「どゆこと。」

俺は現在進行系で橘佳純に反抗していると思わせ

相手に接触の機会を与えなければならない。

だから殊更お前達と「仲良し」な感じを見せてはならない。

お前達も言われた筈だ。俺に関わるな。

俺はこれから(当初そうしていたように)橘佳純と距離を置いて歩く。


翌朝、神社の入り口の公園に着くと箱田佐代がいた。

ありがたい。箱田佐代も橘佳純の護衛になってくれるのか。

ほどなく、橘佳純と滝沢伊紀が階段から降りてくる。

ほぼ同時に敷島楓と宮田柚が現れる。

済まない。しばらくの間橘佳純の

「それはいいけどお前はどうすんだよ。」

「私が付いて行くわ。」

箱田佐代。

橘佳純の護衛は一人でも多い方がいいのだが。

「忘れた?私も吸血鬼なのよ。」

「でもそこまでする必要があるの?」

「だよな。狙われるのは綸だろ?」

俺の真意を確かめようと橘佳純が襲われたら?

「まあそうか。」

本気でそうするとは思えないがその時の俺の対応を見るためだけにそうする可能性はある。

「悪魔のような」奴らが心変わりして標的を再び橘佳純に戻したなら?

おそらくその可能性はとても低いだろう。

そうするために俺が囮になったのだから。

だが俺は常に、最優先で橘佳純の安全を確保しなければならない。

魔女の言うことを信じていないのではない。

これは南室の者としての責任。

通学中の安全確保は津久田伴に頼もうと考えていた。

奴ほどの適任者は他にいない。

だが今のあいつは精神的に不安定だ。面倒事を頼むわけにいかない。


だが、6月中に「何か」が起こる事は無かった。

元々7月に「何か」する予定だ。との情報はあったから

結局それに合わせたスケジュールなのかもしれない。

とにかくこの数日、無駄で無意味な緊張感をずっと保ち続けていた。

ただ仮に「悪魔のような」奴らが通学中の俺を見ていたなら

この緊張感は「橘佳純に対する不快感」と読み取ったかも知れない。

日々の特訓(?)が無ければ、捌け口を何処に求めていだろうか。

本当は無理に橘佳純と距離を取る必要は無かった。

俺は今まで通り「当たり前のように」南室の者として橘佳純に仕える。

それだけでよかった。

魔女が言ったように、「種は巻かれていた」のだから。

ここにきて、事態に変化が無かったのは

相手の「事務的な」手続きでしかなかった。と後に判る。

それが判るのは9月になってからなのだが

その前に、俺の「独りよがり」なこの行動によって

まるっきり自業自得な怪我をする。


7月に入り、夏休みも間もなくの土曜日だった。

綴さんと小室絢さんは橘家で夏の催事についての打ち合わせ。

自主練は文字通り「自主」に任された。


この場合は不運と言うべきだろう。他の年配者もいない。

高校二年生の俺達が年長者になってしまった。

きっかけは覚えていない。

誰が津久田伴を焚き付けたのかも知らない。

剣道班の小学生らしいが詳しく聞く気もない。

宮田桃さえいたならこんな事にならなかったのかもしれない。

小室絢がいないのなら、彼女がこの場をしきったのだろうから。

宮田桃は「夏休みのために」補修が必要だと道場には現れなかった。

それが津久田伴が不機嫌な理由の一つでもあった。

彼をさらに不機嫌にさせたのは俺を含めた空手班の連中だった。

それぞれがそれぞれの練習を集中していれば何でも無かった。

「自主」であるのだから、他所は関係ない。

夏休みも間近なこの浮ついた時期も悪かった。

誰が言い出したのか、誰が仕切りだしたのか

ウォームアップの仕方で揉め事が起きる。

誰かが「ダラダラして」だの「真面目にやってない」だの言い出す。

「小競り合い」からやがて

小室絢対宮田桃のような図式になるのに時間は掛からなかった。

俺は完全無視をしていた。

くだらない喧騒に構っている暇なんてない。

俺は俺のすべき事をするだけだ。

だが津久田伴は違う。

彼は、「仲間」を大事にする奴だ。


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