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大体「魔力」て何だ。
ゲームの世界でシステム的にそうあるようになっただけの
「フォースでもいいよ。」
いいよ?
「気でもいいししオーラでも超能力でもいい。」
呼び方は何でもいい。
それは体力とも関係しているがそれだけではない。
「言葉で説明するのが難しいからな。」
それは誰もが持っているが誰でも扱えるわけではない。
幼い頃からの「教育」によってのみ
取り扱いが可能となる「技術」。
御厨理緒は?
「あれはレアケース。」
「知らないよ?もしかしたら世界の何処かで似たような人がいて。」
「でも何の対処方法も判らなくて死んじゃったとかあるかもよ?」
御厨理緒には魔女の身内がいた。だから生き延びた。
その上で幼いころから魔法を「読み漁った」。
向き不向きはある。得手不得手と言うべきだろうか。
「それを才能って呼びたいなら呼べばいいさ。」
「でも覚えておけ。魔女はその才能って言葉を嫌う生き物だ。」
たまたま親が魔女だったてだけ。
たまたま幼いころから魔法に親しみがあっただけ。
「お前が魔女の家に拾われたらやっぱり魔女になっていたかも知れないんだからな。」
なんとも判ったような判らないような。
「お前命令系の魔法はすんなり受け入れたくせにどうして空飛ぶのイヤがるの。」
イヤがってはいません。信じ難いだけです。
「さっき見せたじゃん。」
それはそうなんですけど。
命令形の「魔法」を受け入れたのは、その根拠とか方法が
理論的に説明されていた(少なくともそう思った)からだ。
心理学であるとか、胡散臭く言っても「催眠術」。
もっとも俺の常識で測れる事象は「魔法」とは呼べない。
だが物理法則を無視して「浮く」とか「飛ぶ」とか安易に信じられない。
「無視してねぇよ。」
それは魔女の世界での法則であって俺の知っている世界の話ではない。
「ったく御託をごちっゃごちゃと。あ。」
「判った。飛ぶのナシ。結界の作り方教えてやる。」
「これ覚えたら便利だぞ。」
結界。陰陽師か。だがまあ俺の立ち位置的にはアリな話ではある。
「お前数学得意か?」
結界と数学。何か関係があるのだろうか。
「ついでにもう一つ講義だ。」
「殆どの魔法に名前はない。」
言っている意味がよく
「ゲームとかであるじゃん。ブレストファイヤーっとか叫ぶの。」
なんですかそのマジンガー。
叫ばないだけじゃなくてそもそも「名前」が無いって事ですか?
「そうだよ。たいていの魔法は動詞を使って説明するんだ。」
「命令形の魔法だっておかしいだろ。命令形だなんて。」
まあそうですね。
正式名称は無い。便宜的にそう呼んでいる。
子供の頃は絵本で魔法を覚えるが、絵本のタイトルが付いている。
専門書になると「相手の行動を管理するための方法とその運用」とか。
「イメージ的には呪文を唱えてドーン。だろうけど実際はそんなに甘くはない。」
読んで見て聞いて考えて感じる。ですか。
「要は親しむって事だ。」
親の姿を見る子供が魔女になりやすいのは当然。
魔女に女子が誕生しなければ態々養子を取る一族すらあるようだ。
それは橘家に仕える小室家や南室家でも同様。
「血」そのものを継ぐのではない。
技術の継承。
「と、その心構え。精神って言うのかな。」
「お前は魔女に相応しい精神の持ち主だ。」
嬉しいようなそうでもないような。
綴さんは俺のスケジュールに
「無茶な事するわねぇ。」
と呆れていたが
この頃の俺はとにかく「何か」に立ち向かっていたかった。
頭でも体でも疲れ果てるまで酷使しないと
今いる自分が内側にいる自分に飲み込まれてしまうような恐怖。
それは津久田伴も同じだった。
彼は俺とは逆の方法で自分を鎮めていた。
あれほど騒がしく、何処ででも見付けられるほどの存在感を放っていた男が
寡黙で不機嫌な表情を浮かべていた。
(実際不機嫌なのではなく「考え事をしているだけだ。」と答える)
週末になるとリュックを背負い、自転車で山に入る。
林の中で木々や葉や鳥たちの囀る音を拾っていたり
清流に釣り糸を垂れるでもなく、岩に当たり舞う飛沫をただ眺めていたり
彼は世俗との接触を避けるようにこの街から消える。
「奇行」と思われるかも知れない。
彼が父親からその血を継ぎ、その経験を聞いたからこその逃避。
「お前もそうなのか?」
津久田伴と同じ感覚かどうかは知らない。
身体の内側から黒い塊が溢れるような。
「あー。」
彼は目を閉じ、首を上げる。
「俺は黒い霧に包まれるような感覚だな。」
共通しているのは、
自分を見失ってしまいそうになる事。
「いやいやもっとキツイだろ。自分なのに自分じゃなくなるっつーか。」
何か違うのだろうか。
「自分の身体を他の誰かに乗っ取られるような気になる。」
津久田伴はそれを自身との対話によって抑え込む。
綴さんは俺がどうしてそうしてるのか理解している。
だから呆れるだけで止めたりしない。
「綸。それでも抑えらそうもないって感じたら言いなさい。」
「その時は力になるから。」
この人に拾われ無かったら、俺は今頃どうなっていたのだろう。




