048
「佳純に近い存在で自らを守れる奴。」
ピックアップされたのは俺と滝沢伊紀。そして敷島楓。
宮田柚と箱田佐代が候補から外れたのは
「扱いが難しいから。」
「なんだと。」
第一の候補者は滝沢伊紀だった。
橘家との関係以上に、その技術は橘家の代役にもなり得る。
だが滝沢伊紀は人質にはならない。
その立場上、橘佳純を守るために手段は選ばない。
敷島楓は橘家の被保護者。
橘家との直接的な関わりは薄い。
が、数少ない友人だ。
「佳純にとっては最もイラつく展開になるけど。」
「その場合は佳純が言う事を聞かないし無理にそうさせようとしたら。」
敷島楓も滝沢伊紀と同じ選択をしないとも限らない。
では、全く無関係な一般人がそうなった場合は?
「お前も怖い事を言うな。」
「佳純や姫様が応じても他の取り巻きがそれを阻止するだろうな。」
「それにそうならない為にも佳純の代理が必要なんだ。」
橘家に仕える南室。
しかも橘佳純は正統後継者ではない。つまり俺も正式な従者ではない。
さらに俺は拾われた身。
「同時に、プナイリンナ家の身内。」
なに?
サーラ・プナイリンナにキスをされた者。
だとしても、「悪魔のような」連中が狙う理由にはならない。
「なるよ。」
どうして。
「お前がヴァンパイアだから。」
それがどうして。
「今回の黒幕にヴァンパイアが絡んでいるのは間違いないからだよ。」
どうしてそんな事が。
「お前自身が気付いた事だぞ。」
俺が?
「山を穢したのはロゼ家と関係のあるヴァンパイアだ。」
「あ、お前アイツとも交流あるだろ?」
交流と呼べる程の付き合いは無い。
魔女の脅迫によって「橘佳純は人質に出来ない」
橘結が帰宅した事により、橘佳純の警護は増す。
橘佳純が囮の役目を果たさないのであれば
「悪魔のような」奴らは地下へ潜る。
炙り出して壊滅させようと動き出した「継ぐ者」達のこれまでの動きが
全くの無駄になってしまう。
新たな囮として祭り上げられたのが
「お前だ。南室綸。」
囮になるのは判りましたが
俺が餌になる「旨み」が判りません。
「あれ?囮になるのは納得したの?」
まあ、妥当な人選かと。ただ動機が少々弱い。
「それは心配するな。」
市野萱友維は本当にずっとニヤニヤしている。
「ヴァンパイアでロゼとプナイリンナと親しく。」
「橘佳純を守るために滝沢家から技術指導を受けている。」
「そいつは橘佳純に仕える事に不満を持っている。」
「「悪魔のような」奴の雇った者と交流し、力を欲している。」
細かい嘘と誇張はあるが、概ね「他所からは事実に見える」事象。
野心的で、反抗的で、力のある者。
「随分とイヤな奴に仕立て上げられたものね。」
綴さんが少しイラっとしている。
「まあまあ綴さん。コイツがそんな奴じゃないってのが判ってるから仕立てたんだよ。」
「少しでも本当に疑わしかったらミイラになっちゃうから。」
「そうかも知れないけど。」
「それに。だ。」
市野萱友維は一層ニヤニヤして続ける。
「綸にとってはとっても美味しい仕打ちなんだよ。」
「何それ。」
「本当は綸がイヤがった時の秘策だったんだけど。」
「狙われるのは綸の唇。」
はい?
「コードネームはずばりっKiss of Vampireっ。」
決めポーズで何を喚いているのかこの魔女。
敷島楓。宮田柚。箱田佐代。
この3人が態々呼ばれたのは
「お前達は綸と関わるな。」
「少なくともそう思わせろ。」
「同時に綸の代わりに佳純を守れ。」
実態は今までと変わらず「橘佳純」の護衛にある。
「悪魔のような」奴らが狙うのも変わらず橘佳純である。
橘佳純の従者である俺が
主人に反抗的な態度をとり続ければ
「必ずお前に接触してくる。」
と言い切った。
俺はその相手から情報を仕入れる。
「ちょっと待ってよ。」
橘佳純。
「その相手が綸君に接触して、信用したとする。」
「でも囮だってバレたらどうなるの。」
どうにもならないと思う。
俺を仲間にしようとする気が失せるだけだ。
「いやいや。悪魔のような。なんて呼ばれる人達だよ?」
ヴァンパイアもそうだ。




