042
三原紹実は恐ろしい事を簡単に言う。
「橘佳純は俺の女だ。手を出したら火炙りだ。」
御厨理緒は世界中の「継ぐ者」にそう触れ回っている。
魔女が脅威の対象にならないのだろうか。
「ならないな。」
言い切った。脅迫しているくせに?
「理緒は私の弟だからな。」
理由になっていない。
「お前は魔女が怖いと思った事あるか?」
恐ろしいと感じた事は多々あります。
「うっ」
でも恐怖とか脅威だとは思いません。
「うんうん。」
ただそれは魔女としてではなくて
俺の出会った魔女の個々の資質と言うか、人としてなのではありませんか?
「そうだよ。それでそれが答えじゃん。」
判ったような判らないような話なのは
三原紹実が魔女だから。
3日後、交通機関の乱れが解消し
橘結と南室家の面々が帰宅した。
その日の夜、橘家では
4人の無事の帰宅と、帰国するサーラ・プナイリンナに対する慰労会が開かれた。
その前に、橘結と南室綴に謝罪を伝えなければならない。
「え?そうなの?」
「絢ちゃんと友維ちゃんから聞いた話とは違うわね。」
2人は顔を見合わせて笑っている。
いや、俺が言った事が事実です。
おそらくその二人は俺を気遣って嘘を
「あの二人が嘘吐くわけないじゃない。」
「綸だって嘘吐かない子だけど?」
目の前の二人が言い合いを始めてしまう。
「佳純本人に聞いたら?」
と綴さんが提案し、橘結さんが彼女を呼ぶ。
「あー、どっちも間違った事は言ってないよ。」
この一言で片付いてしまった。
橘結も南室綴も
「じゃ、どっち正しいって事でいいわね。」
納得できない。
「もういいから綸君。ブツブツ言ってないで料理運ぶの手伝ってよ。」
判った。
橘結と南室綴は
「毎日ピクニックだった」
と笑って報告した。
「温泉もサイコー。綸も後で連れて行ってあげる」
え?あ、はい。
「違うだろ。」
違う?
「返事の仕方教えただろ。」
「何のために練習させてやったと思ってるんだ。」
練習?市野萱友維は本当にそのつもりだったのか?
「綴さん。もう一回誘ってやって。」
「うん?綸、一緒に温泉行こうね。」
判りましたお姉様。
慰労会が終わり、
街の人達が帰宅。魔女も三原紹実と市野萱友維を残し帰宅。
宮田柚と敷島楓が片付けを手伝い、それも終わり帰宅した。
橘家に残ったのは
小室絢、南室綴、三原紹実、市野萱友維。
そしてその席で話し合われているのは俺の事だった。
「誰が南室綸の指導者になるか」
小室絢は「空手を基本に」
南室綴は「合気柔術を極める」
市野萱友維は「魔女にする」
「正直綸君はどうしたいん?」
橘佳純を守る力さえ手に入れば手段は択ばない。
「おおー。恰好いいなお前。」
「でも佳純には理緒がいるからなー。」
言い直します。
橘佳純が御厨理緒の元に行くまでの間、橘佳純をま
「あーもう判ったから。」
「ちょっと責任感強すぎだろ。」
「だから紹実ちゃんとこに預けたんだけどなぁ。」
「なんだと。」
魔女には話を脱線させる才能がある。
もはや雑談と化した女子会を収めたのは
穏やかに恐ろしいことを口にした橘結の一言だった。
「全部やらせたら?」
一週間は7日「も」ある。1人2日ずつ見ても1日余る。
「勉強する時間が無くなるって。」
何故か橘佳純がそれを止めさせようとする。
橘佳純。さっき言った筈だ。手段は択ばない。
月、水は小室絢
木、金は市野萱友維
土、日を南室綴(室道場を間借り)
がそれぞれ俺の師範となった。




