040
橘結の仕事が片付けば南室家と共に戻る。
「お前も家に帰るんだろ?」
そうなりますね。
「お前のメシ美味かったのになぁ。」
「ノトも懐いてたのに寂しがるぞ。」
「友維ちゃんはずっと下の子みたいな扱いされてたから綸君いて嬉しいんでしよ。」
「否定しない。でも弟ってより子分だな。舎弟とか。」
「せめて弟子とか言ってやれ。」
「だってコイツ魔女じゃないし。」
「何だったら魔法の一つ二つ授けてやったら?」
え?
「こいつヴァンパイアの血を継いでいるけど体力だけじゃん。」
多くのヴァンパイアは
ロゼ家がそうであるように「特殊な」技術を代々継承している。
魔女がそうである事を三原紹実から聞いた時
「詳しくは知らないけどな。」と教えてくれた。
俺の父親の一族はどんな「技術」を用いるヴァンパイアなのだろうか。
市野萱友維さんがよろしければ是非お願いします。
「お。その気になった。」
引き出しは多い方がいい。せめて足手まといにならない程度にはならないと。
小室道場の無い日は基本空いている。
「ヴァンパイのくせに魔女。か。面白そうじゃん。」
「姫達が帰って少し落ち着いてからだな。綴にも相談し」
「絢さんの結婚もその後?」
「いっ。何だそれ。」
三原紹実から市野萱友維経由で魔女達が知ったのだろう。
「紹介してくざさいよ。」
「いいよそんなの。」
「ダメですよ。」
「ヘナチョコな人だったら鍛えてあげますよ。」
素敵な人だったら?
「奪うにきまってるでしょ。」
「父親の事を知りたいのか?」
興味があるのはその一族が継いでいるであろう技術。
「そうか。興味があるなら調べられない事もないぞ。」
どうやって?
「キズナの親友に話を付ける。」
プナイリンナ家とはそれほどの力を有している?
「そうだよ。およその年月が判れば相手を特定する事もできるだろうな。」
でも俺を産んだ人がどの国に行ってどれほど滞在したのかなんて
「調べれば判る。」
「名前が判っているんだ。渡航記録を確認するだけだ。」
「それは魔女の領分だけどな。」
いや。止めましょう。
そんな事に労力を割く必要も理由もない。
それに俺自身、ヴァンパイアの技術どうのより
市野萱友維からの教えに集中したい。
「そうか。そうだな。」
本当は今すぐにでもそうしたかった。
だが小室絢の言うように橘結の仕事が終わるのを待つべきだろう。
数日後。一時帰国していたサーラ・プナイリンナが登校。
「急な用事があって戻って来られなかったの。」
と生徒達に説明している。
橘佳純には
「話はヘクセ(魔女)から聞いているわね?」
「はい。」
「相手が判らない以上、少なくともユイが帰ってくるまではカスミの警護は続けるわ。」
「はい。お願いします。」
「それでそのー。ちょっとお願いなんだけど。」
「はい?」
この日から、サーラ・プナイリンナは橘家に居候する事となった。
当然、登下校が一緒になる。
登校時、生徒達が彼女に挨拶をする。
挨拶した生徒達はそのまま一緒に登校する。
学校が近付くに連れ、その数は増える。
その内通学路の幅に収まらなくなり、行列が出来上がる。
サーラ・プラナイリンには人を惹き付ける魅力がある。
だがこれは異常だ。
「プナイリンナ家の能力と言うか技術と言うか。」
「小さい頃からそうなるような訓練を受けるみたい。」
「でも本人はそうだと知らないんだって。」
気付いたらそうなっている。て事か。
橘佳純は橘結からその話を聞いていた。
橘結が高校時代、恋人の真壁絆が「危険な状況」に陥った。
サーラ・プナイリンが彼を「敵」と見做し
他の生徒達がサーラ・プナイリンナの親衛隊と化した事があった。
吸血鬼の王女に恨まれるとか橘結の恋人は何をしたんだ。
「お前もヴァンパイアなのにな。」
津久田伴は何が言いたい?
「いやいや別に?」
「綸の周りにたって人集まってるじゃん。」
宮田柚こそ何を言っている?
そして2月。
橘結の「仕事」がようやく、無事に終わり帰宅の日が決まった。
だが生憎の大雪で交通機関が乱れ
「終わったのだから今更慌てる必要はない」
と数日様子を見ることになった。
「温泉でゆっくりできるわ。だって。」
いいんじゃないか。休みは必要だ。
「そうね。ただちょっと準備してたのが無駄になって残念。」
リハーサルだと思えばいい。
「綸君てポジティブだよね。」
「綸は切り替えが速いのよ。」
箱田佐代。
「それもあるだろうけど。私綸君が否定的な事言ったの聞いた事ないよ。」
そんな事はない。
俺は橘佳純との約束を守っていないのだから。




