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1月2日の夕方。
ようやく落ち着いた境内。
ここで臨時の巫女達の仕事も終わる。
敷島楓と宮田柚は中学生の頃から手伝っていた事もあり諸々慣れていた。
滝沢伊紀は慣れない作業に右往左往していた。
箱田佐代も初めてだと言ったが実に落ち着いていた。
「佐代ちゃんも。本当にありがとね。」
「気にしないで。佳純のお手伝いが出来て楽しかったから。」
「うん。」
「この際だから言っておくわ。」
「貴女が私の手伝いを快く思っていないのは知っているわ。」
「え?そんな。」
「まあ聞いて。」
「最初はね、私もそのつもりだったの。」
「親に言われたからとかこの街に住む者の責任だとか。」
「橘家に対する恩返しのつもりでしかなかったのよ。」
「だからこそ今までアナタとは意識的に距離を取っていた。」
「でもね。」
「でも今は違うわ。私は橘佳純のトモダチとしてそうしているの。」
「だからイイわね。これからも何かあったら呼んでね。」
「私、貴女の命令は受けないけどお願いなら聞くわ。」
箱田佐代は誇り高い。
相手が橘家の娘であろうとも媚びない。
違うな。それは箱田佐代だけではない。
宮田柚も敷島楓もきっと同じ考えなのだろう。
「判ってるよそんなこと。」
「佐代ちゃんこそ遠慮なんかしないで何かあったらいつでも言ってね。」
箱田佐代を家まで送るよう橘佳純に言われた。
その道中、彼女は俺におかしな質問をした。
「ああは言ったけど、やっぱり恩返しなのかな。」
それでいいんじゃないか?
相手が誰であろうと、恩義を感じたなら返す。
橘佳純の立場がどうあれ、その与えるものが何であれ
箱田佐代はトモダチにお礼を伝えている。
それだけだ。何もおかしな事はない。
街だとか家だとかではない。
例えば橘結がこの街にいたなら
やはり箱田佐代は神社で巫女装束になっていたと思う。
それは二人がトモダチになったからだ。
宮田桃と敷島楓だけではない。
隣のクラスの箱田佐代を呼んだのはトモダチだからではないのか?
「あ、そうか。」
「そうよね。トモダチだから呼んでくれたんだよね。」
「私何大事な事忘れてたんだろう。」
「ちょっと戻って謝らなきゃ。」
心配するな。
橘佳純は承知している。
箱田佐代の気持ちが判らないような奴じゃない。
「でもかなり失礼な事言ったわ。」
俺には感謝の意思表示にしか聞こえなかった。
箱田佐代の気が済まないのなら好きにするといい。だが今日は休ませてやれ。
「うっ。まあ、そうね。また今度にするわ。」
1月3日は朝から子供達が集まりカルタ大会。
午後は新年会。
三原紹実も現れる。
「あれ?紹実ちゃん一人?ご両親来られないの?」
「忙しくてチケット取るの忘れてたんだと。」
「その代わりフランスだかドイツだかで集まるんだってよ。」
「紹実ちゃんも行けばよかったのに。」
「この街から魔女が消える。」
「友維は?蓮も葵もいるんじゃないの?」
「友維は年末から向こうに行ったよ。」
「蓮と葵にこの街任せたら誰がその二人からこの街を守るんだよ。」
市野萱友維は御厨理緒から「この街にいろ」と言われていたのではないのか。
「事情が変わったんだと。態々チケット送ってよこしたよ。」
それでは年末から三原紹実は一人で家に居たのか。
どうして呼んでくれない。
「お前はコッチでやる事あるだろ。」
それはそうだが。
「一人じゃ心配か?私の事なんだと思っているんだ?」
いや、そのノトが心配で。
「なんてやつだ。ノトの世話だってちゃんとしてるっつーの。」
「ご飯も水もトイレ掃除もちゃんとやってるって。」
「他に誰もいないもんだからノトが構って光線だしてもう。」
あ、いやその。
「何だよ。まだ何か心配なのか?」
いえそうではありません。
一人で年越しする事が判っていたなら
料理を作りに戻る時間はあった。お節を詰めて行っても良かった。
「お前イイ奴だなー。」
貴女の今までの食生活を聞けば心配にもなります。
「母親か。」
とにかく一度戻ります。
「洗濯は自分でするから。」
気にするな。施設に居た頃は男も女も関係無かった。
「子供の話だろうがっ。」
三原紹実さんは新年会に参加していればいい。
「あ、綸君。片付いたら絢姉ちゃんのウチ来て。」
「ちょっと待て。イイ事思いついた。」
橘佳純の呼びかけに三原紹実が答えた。




