029
「大丈夫だよ。理緒も女装癖あったんだから。」
大丈夫?何が。
「このスカートなら足見えないから中でジャージでも履いとけ。」
このカツラは何処から
「椿姉ちゃんの趣味。」
「うわっ。」
「ひゃぁあ。」
叫ぶほど不気味ならこんな格好させるな。
「ち、違うっ。逆よっ。ナニコレ。ちょっとダメでしょ。」
ダメに決まってる。
「だから違うって。似合い過ぎて怖いのよっ。」
コイツらは何を言っている。
そして何故写真を撮っている。
「メイクしたい。」
何?
「せめてリップだけでも。」
「調子どうだー。」
小室絢が手作りクッキーを持って現れた。
「新顔か?紹介しろよ。」
「あれ?会った事ある?」
「うわあっ。」
「綸か?」
「何だお前。何なんだお前っ。」
一体何なんだ。そんなにオカシイなら今すぐ
「ま、待てっウィッグはコッチにしろ。」
ウィッグ?カツラの事か。
「いやお前はもうウィッグだ。」
暑苦しいな。
「ぎゃーっ。」
「ダメだっ。これはダメだって。」
この日は俺の衣装とカツラ選びで終わってしまった。
朝のHR終わりにどうして態々クラスメイトに写真を見せる。
「きゃあ。」
「ひぃやっ。」
女子達が叫ぶから副担任にもなっているサーラ・プナイリンナが興味を持つ。
「ちょっと何これ。アナタそんな趣味あったの?」
ありません。
「でも何だって魔女の恰好なんてしたの?」
この街ではクリスマスになると的な話を橘佳純と宮田柚がしている。
それに対して
「面白そうね。残念だけどクリスマス休暇は帰らないとなのよね。」
「その前に何件か周りますよ。」
「そうなの?観に行ってもいい?」
「と言うか先生も魔女になりません?」
吸血鬼二人が魔女の扮装をして幼稚園や保育園を慰問する。
それはまあいい。
この街に少しでも恩返しをしていると実感できる。
だからってその親達と一緒に記念撮影をするのは何かが違うと思う。
「いいか?お前は喋るなよ。ちょっと俯き加減で頷いたりしてろ。」
と言われていたので女装で人前に出る事を了承したのに
最後の挨拶で「私服」に着替えさせられ
結局正体をバラされてしまう。
そしてもう一度同じように写真撮影を頼まれる。何でだ?
「いいわよねー。魔女ってちゃんと地位を確立してて。」
箱田佐代は何が言いたい?
「だってホラ。私達みたいなヴァンパイアって基本的に嫌われ者じゃない。」
実際、血を欲するでもない。
ただその血を受け継いだだけで忌み嫌われる。
「ねえ先生ヨーロッパでもそうなの?」
「そうね。エリザベート・バートリの話は有名だから。」
バートリ・エルジェーベト
ハンガリー王国の貴族。
「それに映画とかドラマとか多いから。」
ヴァンパイア。
サーラ・プライリンナは自分を一度も「ヴァンパイア」とは言わない。
彼女がそう自称しないのは、彼女が「プナイリンナ家」の者だから。
俺も箱田佐代も、そして敷島楓もそれぞれルーツは異なるが
サーラ・プライリンナ同様「ヴァンパイア」と括られる。
ヴァンパイアとは総称でしかない。
異なる言葉を持ち合わせていないだけだ。
俺は不死ではない。十字架を恐れない。日光浴もできる。
それでも「ヴァンパイア」と呼ばれている。
「いちいち説明するのが面倒だから無視してるの。」
ヴァンパイアに対するイメージ。
払拭するような野暮な真似はしない。
「最近の映画は結構イイ感じに作ってくれているからね。」
もしかしたら誰かが圧力でもかけたのだろうか。
それとも世界がヴァンパイアと呼ばれる存在の真偽を知った?
「そうかもね。」
サーラ・プナイリンナは否定も肯定もしなかった。
「でもね。」
「ヴァンパイアって言葉がとても広いのは」
「私達のような存在だけではない事の証明でもあるの。」
「魔女もそうでしょ?」
「否定はしません。」
神流川蓮はサーラ・プナイリンナが何を言おうとしているのか理解した。
いや、この場にいる「継ぐ者」皆が理解している。
吸血鬼や魔女に限った話ではない。
人間に「善人」と「悪人」がいるのと何ら変わらない。
ただそれだけのこと。




