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正直に言うと料理をするのが好きなわけではありません。
俺のいた施設では当番で
「施設って?」
母親に捨てられ入れられた施設です。
「捨てられたのはお前が吸血鬼だからか?」
「そうだな。母親は相手が吸血鬼だって知らずにやることやって。」
「お前が吸血鬼だって判ったら怖くて逃げた。的な感じかな。」
正確には母親は相手が吸血鬼なのを聞いたが信じなかった。
「どっちにしてもよくある話だ。」
そうなのか。
「この街にはな、そんな奴らが救いを求めてやってくるんだ。」
どうして、ああ橘結。
「お前も人間にしてもらうか?人間になって母親の元に戻るか?」
いや。俺は吸血鬼でいい。
「どうして。」
橘佳純を守るには力がいる。人間よりマシだ。
「おかしな事を言っているな。」
「お前が人間だろうと南室家の者なら橘家を守るんだぞ。」
違うでしょ。
南室綴は俺が吸血鬼だから拾ったんだ。
「違うよ。」
どうして貴女が違うと言い切れる。
「知っているからだよ。」
何を
「お前が南室家に引き取られた理由。」
知っている?なら俺が施設にいた事も当然知っているはずだ。
この魔女はどうして俺の口から、いや俺に何を言いたい?
「ま、そのうち綴が話すだろうよ。」
話す?何を?俺が拾われた事に理由なんてあるのか?
「でもお前好きでもないわりに楽しそうだよな。」
え?そうですね。今は楽しんで料理しています。
どんな料理なら毒を混ぜてもバレないのか実験するには
この家とその住人はうってつけですから。
「魔女みたいな事言うな。」
それでノトさんの事ですが
「うん?」
彼女は好き嫌いありますか?
「さあ。カリカリと猫缶しか与えた事無いからなぁ。」
「何お前、ノトのご飯も作るつもりなの?」
食卓の塩鮭を欲しがっても困りますから。
「え?ダメなの?」
猫の腎機能はとてもデリケートなので塩分は控えるべきかと。
「そうなの?何で詳しいの。猫飼ってた?」
調べたんですよ。
イカを食べたら腰抜かす。アワビを食べたら耳落ちる。
「おばあちゃんかよ。」
ネギ類もダメですよ。
チョコとか与えてないでしょうね。
「おかあさんかよ。」
本当は欲しがるモノを与えたいのですけど
健康のためには与えてはイケナイモノも知らないと。
何が好物なのか猫語で直接聞いてくださいませんか。
「お前魔女を何だと思ってる?」
魔女がとうこうではなく三原紹実なら相手が猫だろうと聞きだせるのかと。
「お前私を何だと思ってるんだ?」
12月になるとこの街は魔女で溢れる。
サンタの顔など見当たらない。
「今年もやるのか?」
「仕方ないでしょ。藍ちゃんも葵ちゃんもやりたがらないんだから。」
「蓮はするんだ。」
「いちばん張り切ってるよっ。」
「さすが本職。」
市野萱友維と保育士の神流川蓮が何かするのか。
「この街の幼稚園とか回ってちょっとな。」
「佳純は当然として他の連中にも手伝ってもらったら。」
「そのつもりだよ。綸も手伝えよ。」
判りましたお姉様。で、何を。
どうして小室道場で黒マントを付けて
「少しは演技しろよっ。」
等と怒られなければならない?
「本っ当にお芝居ヘタよね。」
「ぎゃぁ。とかうわぁくらいは言えるでしょ?」
うわあ
「怖がってねぇっ。」
「うわぁじゃなくてうわぁぁっ。」
うわぁぁっ
「この野郎燃やすぞっ。」
魔女怖い。魔女が怖い。
橘佳純と箱田佐代がお腹を抱えて笑っている。
「も、もういっそ魔女役やらせたら?」




