026
「それでまた道場通いなの?」
そうだ。
「忙しい奴だな。」
いや、橘佳純を送り届けた足で道場に向かうだけだ。
さして忙しくは
「そうじゃなくて。入門したり破門されたりで忙しいって意味。」
結構期間は空いて
「あ、判った。お前メンドクサイ奴だな?」
魔女程ではない。
「おおっ綸が冗談を言った。」
いや、本心だが?
なのにどうして皆笑っている?
それで、橘結はまだ戻らないのか?
「んー。もうちょっと掛かるみたい。」
「年跨いじゃうかもねー。」
大きな組織を潰そうとしている。時間はかかるのだろう。
「?違うよ?結姉は結姉のお仕事してるだけだよ?」
そうか。そうだったな。
俺は勘違いをしていた。それはそれ。これはこれ。
この時はまだ知らなかった。
滝沢伊紀だけが現在の状況を把握していた。
俺達の元に現れた「悪魔のような」奴らは
末端にも属さないただ雇われた連中だった。
要するに斥候であるとか偵察であるとかその程度だった。
あの日魔女達がそいつらを連行し、取り調べたが
その本体に辿り着く事は無かった。
この時期、橘佳純が襲われなかったのは
「橘佳純には魔女の護衛がいる」事実のみが伝わっていたから。
相手を舐めていたのではない。
橘佳純の存在がどれほど重要なのかを考えれは゛
「たかが偵察」であろうとも全力で対処しなければならない。
「綸様だけにはお話しいたします。」
本人には伝えないのか?
「この街の継ぐ者達の庇護を続け、橘家の者としての務めも果たさなければなりません。」
「せめて日常だけは平穏にお過ごしいただきたいのです。」
そうだな。
「自宅には父上と私がおります。綸様にはそれ以外での警護をお願いしたいのです。」
判っている。
だがどうして俺だけなんだ?
「他の者に言ったら毎日ピリピリして佳純様にバレます。」
「そのー申し訳ないのですが綸様でしたらお顔に出ないと思いまして。」
謝る必要はない。滝沢伊紀は賢い。
滝沢伊紀が言うには
「動きがあれば連絡が入ります。警戒するのはその時です。」
しかも
「魔女の存在を認識している以上迂闊には手を出さないでしょう。」
この言葉通り、俺達は平穏な日常を続けていた。
三原紹実。貴女は魔女達の動きを把握していますか?
「んー。ダメだな。」
ダメ?教えてはもら
「違う。お姉様と呼べって事。」
判りましたお姉様。それで
「いや、今回の件に関して私は殆ど関与していないよ。」
「私より友維に聞いてみ。」
市野萱友維が橘佳純のために動いているのは知っています。
最初に襲われた際、他の魔女達と車で現れ
俺達を襲った連中を引き連れて去った内の一人。
「よく覚えてるな。」
いえ、本人から聞きました。
「じゃあどうして私に確認したんだ?」
三原、お姉様が魔女のボスなのかと思ったので
「ボスって何だ。」
何と言うか、魔女達を束ねられる者がいるのでは。
俺の知っている魔女は
「素直に他人の言う事など聞かない」ような
「一人でとっとと敵陣に突っ込んで大将首を狙う」ような。
「お前魔女を何だと思ってるんだ。」
メンドくさい連中。
「否定はしない。」
「で、その面倒な連中のボスは理緒だって言った筈だぞ。」
聞いていません。
「そうだっけ?アイツが日本中の、いやもしかしたら世界中の魔女のトップだよ。」
橘佳純は御厨理緒の命を救った。
その御厨理緒が魔女達を動かし橘佳純を守っている。
連絡はとれますか?
「待て待て。何だ。何が聞きたいんだ?」
どのような体制で橘佳純を警護してるいるのかを確認したい。
俺が余計な真似をしてブチ壊さないように。
「なるほどお前は魔女になれそうもないな。」
なるつもりはありません。面倒だ。
「んじゃやっぱり友維に聞け。アイツが佳純警護の責任者だ。」
あの人に丸投げで大丈夫なのか?




