025
市野萱友維は強い。
俺は全く太刀打ちできなかった。
小室絢や敷島楓とは異なる格闘技。
もっと実戦向きの、効率良く相手を戦闘不能にする技術。
「小さい頃から世界中で格闘技習ってたらかな。」
「一番長かったのはフィンランドでの総合格闘技かな。」
組み技を主体としているが打撃も強烈だ。
魔法が実在するのだとしても
彼女には必要ないのだろう。
「私が本気で魔法使ったらお前死んじゃうから。」
「あ、ヴァンパイヤだった。死なないか。」
「試すか?でも私グロいのイヤだしな。」
俺もイヤです。
「絢ちゃんからイロイロ聞いたよ。」
そうですか。
「本当は紹実姉ちゃんがチョット遠回しに助言して」
「お前に気付かせるように仕向けるんだろうけど。」
「私、そーゆーの苦手だからズバッ言うぞ。」
はい。お願いします。
「お前は吸血鬼であることに甘えている。」
小室絢にも同じ事を言われました。
あ、いや直接ではありませんが
そうであろう事を気付かせようとしてくれました。
「なんだ。判ってたのか。」
「んー?判ってるのにどうして弱いままなんだ?」
市野萱友維は俺を睨みながら考え込んでいる。
「・・・お前さあ。誰か殺したとか殺しかけた事ある?」
殺した事はありません。
「殺しかけた事はあるんだな?」
無意識に、気付くと大人の男性の首を片腕で掴み持ち上げていた。
「あーっそれかーっ。」
それ?
「くっそ。桃ちゃんと同じだ。メンドクセェな。」
宮田桃?彼女がどうかしましたか?
「アレも子供の頃自分よりデカイ奴半殺しにして本気出せなくなった。」
「参ったな。」
「絢姉ちゃんや私がいくら相手したって無駄だ。」
市野萱友維にも匙を投げられてしまった。
「待て待て。何か手を考えてやる。」
不思議な事がある。
南室綴からずっと。
この街の連中はどうして俺みたいな化物に手を貸すのか。
「化物を見慣れてるからじゃね?」
「そんなもんコイツに暗示かけちゃえばイイじゃん。」
「どんな?アナタは人間でーす。弱い弱い人の子でーすって?」
「違うよ。相手を親の仇みたいにしちゃうって事。」
「そっちか。でもそれだとやっぱりコイツが吸血鬼である事を捨てきれないと思うんだ。」
「あー、まあな。」
市野萱友維の相談に三原紹実もそこそこ真剣に悩んでくれている。
宮田桃はどうやって克服したのでしょう。
「理緒にキスした。」
はい?
「イヤマジで。」
橘佳純の恋人の御厨理緒にキスをすると克服できる?
「辞めろバカ。変な気起こすな。」
「あれは面白かったなぁ。」
「ひでぇ。女子高校生のファーストキスを面白がるとか。」
「いやいや。あの一連の騒動がさ。魔女っ子共が理緒の唇狙って大変だったじゃん。」
御厨理緒の姉と妹が彼の高校時代を教えてくれた。
あまり意味のある物語ではないが
橘佳純との関わりや、どうして「最強の魔女」と呼ばれているのか知り得た。
同時に、魔女とは何と面倒な「生き物」なのだろうと感じた。
「お前が言うなっ。」
実際どうしたのかと言うと、
結局小室道場に通う事になった。
それなら三原家で世話になる理由は
「あ?家事頼んだじゃん。ノトの世話も任せたよな?」
この人に恋人出来ないのは時折見せるこの「ガラの悪さ」じゃないのか?
それはいつまで続ければ
「お?返事違うぞ?紹実姉ちゃんにもあの返事だぞ。」
判りましたお姉様。
小室道場では子供が教わるように手取り足取り。
動きや技の意味をゆっくりと確認する作業を行うようになった。
「そう。そこで腕を取って。その時の足はコッチ。」
「同時に半身になるように引く。で崩れたら?」
いくつかあります。このまま引き倒すとか足を掛けるとか。
「不正解っ」
それでは正解は?
「極めて、折る。」
小室絢の、まるで「当然」のようなその物言いに背中に冷たい汗が流れた。
「怪我なら治る。お前には考えている余裕なんて無いんだぞ。」
「佳純が危険な状況で相手を気遣って転がすだけで済ませるつもりか?」
「相手が複数だったらとっとと戦闘不能にして次の相手だ。」
「前に言った筈だ。私はお前に相手を傷つける手段を教えている。」
「橘家に仕えるってのはな、その覚悟が必要なんだ。」
覚悟
「そうだ。死んでも守るって覚悟じゃないぞ。」
「守り続ける覚悟だ。」
「いいか?死ぬなよ?死のうとするなよ?」
「橘佳純をを守るためなら犠牲になる。とか考えているなら今すぐ捨てろ。」
判りません。
「判らないって何だよ。」
その時にならないと。そうしてしまうかもしれません。
「正直な奴。綴とはだいぶ違うな。」




