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その日の夕食。
「なあなあ。絢の婚約者ってどんな奴?
本人に聞いてください。
「何だよけち。教えろよ。」
「んっ私も聞きたい。」
判りましたお姉さま。
素晴らしい人だと思います。
小室絢の選んだ人ですから。
「そうじゃなくてさ。素性とか正体はどんな奴よ。」
子供の頃は病弱で体が弱く、それでイジメを受けたりもした。
成長するに従い何とか病状は治まった。
すると人並みの体力が欲しくなる。
成人する頃から走るようになり、ジムで鍛えるようになった。
ようやく「人並み」になったかも。と思うと欲が出た。
ただ眺め、憧れていた世界。
「強い男になりたい」
「こんな歳ですけど。強くなれますか?」
と小室道場の門を叩いた。
「覚悟と情熱次第です。」
小室絢のこの一言で、厳しいと言われる小室道場に入門を決めた。
実際厳しい。予想より想像よりつらい。
それでも逃げなかったのはそれ以上に楽しかったから。
バカにされ続けて、悔しい思いをした。
その頃の「自分を」見返してやろうと。それだけだった。
最年長だが最弱の門下生。
道場のイベントには必ず顔を出した。
自分が子供達の相手をするのが好きなのだと知った。
ひたむきで。
楽しそうで。
それでいて子供が好き。
「絢姉ちゃん惚れるわな。」
結婚は小室絢が大学(院)卒業してからでしょうね。
「それまで付き合いが続けばな。」
「お?懸ける?」
「子供のくせに。でも成立しないからナシだ。」
「それで紹実姉ちゃんはどうなのよ。」
「黙れ小娘。」
「私にまで抜かれるような真似はヤメてな?」
「ぐっ。」
三原紹実が俺を睨んだ。
「小僧。恋人はいるか?婚約者はいるか?」
「小さい頃に誰かと約束して忘れたりしていないか?」
そんなものはいません。
「まさか高校生に手を出すつもりかよっ。」
「悪いかっ。」
「いや悪いだろ。」
早まらないでください。
三原紹実。
貴女は素敵な人だ。
多分この人は、誰ともでも打ち解けてしまうのだろう。
そして誰からも好意を持たれる。
貴女に恋人ができないのは
多分「気が気じゃなくなる」から。嫉妬してしまうから。
貴女を恋人にした瞬間から
貴女が恋人ではなくなる恐怖と戦わなければならない。
「素敵すぎる魔女ってか。」
「いいじゃんそれ。ちょっと世界中に広てくれない?」
「街中で勘弁してください。」
「うそっ。何でそんな事になったの?」
小室絢の紹介だ。
「だったらウチに来ればイイのに。」
橘佳純は本気で言っているのか?
「じゃあ紹実姉ちゃんのウチから態々ウチ寄って学校?」
何か問題か?
「いいよ。私が迎えに行くよ。」
それでは意味がない。
橘佳純が何かを変える必要などない。
これは俺の問題であって
「あーもう。ちょっと耳貸せ。」
敷島楓が俺の耳を引っ張る。
判った。
俺に迎えに行かせてくれると俺が嬉しい。
「うわっ。」
「言わされてる感半端ねぇっ」
こう言えば橘佳純が納得すると。
「あ、判った。お前バカだろ。」
「伴が言うな。」
橘佳純。お前は俺の負担を気にしているようだが
一つ勘違いをしている。
三原紹実がそうしろと言った。
しかも毎朝違うルートを通れ。と。
早起きして全員の食事を用意し、朝食を共に済ませ
俺は一人先に家を出る。
2人は俺の出発に合わせて食事の時間を変えてまでそうさせた。
何の意味があるのか判らないがそうする。
だから本当に今まで通りにしてくれると助かる。
「うわぁっ」
何だ?
「天然だな?お前も天然なんだな?」
橘佳純は何を言っている?




