021
「お前見た目はただのチャラ男なのに中身はバカみたいなマジメだなぁ。」
小室絢が呆れている。
違う。不真面目だから怪我をさせた。
「私や綴が学生の頃どんなだったか知ったら幻滅するかもな。」
「幻滅って言うより単純に怖いよ?」
橘佳純は橘結から聞いた。
「アタシも杏姉から聞いたぞ。」
宮田柚が加わる。
気付くと敷島楓も興味深そうに話しを聞いている。
小室絢は二人が神妙な顔つきをするのを見て少々慌てた。
「え?何聞いたんだよ。怖いよ。」
2人は小室絢の武勇伝を語り始める。
「小学4年の時にこのあたりの中学生の頭を刈ってた。」
「小学5年生の時は高校生の前歯折って回ってたって。」
「それを杏姉達が必死に止めてたって。」
「そしたら遮断機に縛られたとか。」
「アタシは放流されたって聞いたぞ。」
「それは中学生の時に行ったキャンプで。」
「キャンプの時はキャンプファイヤーの薪にされかけたんだよ。」
「何か異名あったよね。」
「壊れたダンプカーだったかな。」
ここでようやく小室絢が否定開始。
「ブレーキの壊れたダンプカーな。いやダンプカーじゃねぇよっ。」
「中学の頃頭張ってたのはお前んトコの杏だっ。」
「アイツら抑えてたのは私と綴だからなっ。」
「遮断機に縛られた中学生を下したのは小学生の私だからっ。」
すると橘佳純が口をはさんだ。
「でも。」
「その、杏さん達がケンカしているところに飛び込んで」
「見境なくボコボコにしてくのは本当なんでしょ?」
「うっ」
本当なのか。
「それは綴がっ。」
綴さんが?
「その方が速く片付くからって言うから。」
「あ、結姉ちゃん言ってたよ。」
「綴姉ちゃんは気付くといなくなってるって。」
「そうっ。アイツ煽るだけ煽って消えるの。で私と杏達が怒られるんだ。」
「綸は紹実ちゃんに会った事あるか?」
名前だけは聞いた事があります。
「この街の魔女伝説知ってるか?」
噂程度なら。
「あの人も相当なモンだぞ。学校壊したりしてるからな。」
「神社で吸血鬼燃やしたりとか。」
またその噂か。
「イヤマジだから。」
「ああもっとスゴイ奴いる。」
「姫の彼氏なんて熊倒してるからな。」
何ですかそれ
「イヤだからマジだってば。」
「私の知り合い連中から比べたらお前なんて大人しいモンだ。」
「綸。」
「戻ってこい。」
「一緒に戦おう。」
翌日、あの男に連絡を取った。
「どうした。何かあったのか。」
怪我をさせてしまったので。
「よくあることなんだがな。」
紹介してくださったのに申し訳ありません。
そもそもどうして俺をあのジムに紹介したんですか?
「俺が通っていたジムだからな。」
あ、いやその意味ではなく。どうして俺を?
「あー、んー。」
「子供のお前に本気になったから。だな。」
それはあなたがプロだからなのでは?
「まあそれもあるだろうが。何だろうな。とにかくお前が面白そうだと思って。」
「そもそも何でお前とファイトしたんだっけ?」
え?あ、俺もよく覚えていません。
やはりそうだ。
この人は魔女に記憶を消されている(ももくしは上書きされている)
だとしたらあのジムを紹介するように手配したのは魔女なのか。
「しないわよそんな事。」
神流川蓮は即答した。
そうですか。
「したら何なの?」
お礼を言おうと。
「あ、じゃあした。私が行けって言わせた。」
じゃあって何ですか。
「何もしてないわよ。その人の本心だったんじゃないかな。」
「何かしらね。綸君見てると手を貸したくなるのよね。」
そうなんですか?
「あまりいい意味じゃないわよ。危なっかしいからそうしたくなるの。」
「どう言ったらいいかな。」
「誰かを守ろうとして銃で撃たれちゃうような。」
普通の高校生の日常において「銃で撃たれる」場面なんてあるものか。




