015
神社には「あの人」がいた。
御厨理緒。
隣には1人の女性。談笑している。
橘佳純はその姿を見付けるなり駆け寄る。
神流川蓮と藤沢藍も駆け寄り会話が続く。
3人は馴れ馴れしくソイツに触れながら、
橘佳純と同じような笑顔を向けていた。
会話の内容までは判らない。聞きたいとも思わない。
と、橘家からイヤな感じの気配を感じた。
「大丈夫よ。」
神流川蓮が、俺がそれに立ち向かおうとしたのを止めた。
「アレは味方だから。」
その男は吸血鬼だった。
センドゥ・ロゼ
本場の本物の吸血鬼。
「そろそろ行くぞ。」
「ちゃんと守ってくださいね。」
「と言うか足引っ張らないでください。」
魔女達はその吸血鬼に何やら注文を付けている。
「煩い。」
橘佳純は「あの人」の頭を撫で続けていた。
「無茶だけはしないで。」
吸血鬼が魔女達を振り払い俺に近寄った。
「お前の事は聞いている。」
「お前はお前の好きにするといい。」
この吸血鬼は何を言っている。
「ヴァンピーリである事を自覚しろ。少しは楽になるぞ。」
センドゥ・ロゼはそれだけ言うと魔女達の輪に戻った。
「行くぞ。」
彼は「あの人」を連れて2人で姿を消した。
「いいの?」
神流川蓮が橘佳純に問いかけた。
橘佳純は黙って頷いた。
「あの人に頼ったらダメなの。」
「私はあの人の横に並びたいから。」
「いやーんナニソレかつこいいーっ。」
「ダメですよ。アレは私のですよ。」
3人の魔女に囲まれる橘佳純。
魔女達は橘佳純の父親に挨拶するからと一緒に行く事になった。
滝沢伊紀もそれに続く。
俺は気付かれないように1人神社を後にした。
綴さんがいれば慰めてくれただろうか。
父と母には「何事も無かった」ように振る舞った。
自分では動揺していないよう見せたつもりだが
綴さんからきっと
「綸をお願いします」的な事は言われているだろう。
腕は痛むが動かせないほどではない。
見える場所に打撃を受けなかったのは幸運だった。
頭の中で何度も繰り返された。
振り払おうとしたが無駄だった。
同時に
神社でのアイツと橘佳純。
アイツを取り囲む魔女達の笑顔。
そして「本物」の吸血鬼
このシーンが何度もランダムに繰り返される。
御厨理緒は神社にいながらどうして橘佳純を救いに現れなかった?
橘佳純はそれを知りながらどうしてアイツを慕う?
判らない。
橘佳純を救いに魔女が現れた。
魔女達は橘佳純の状況を承知している。
だが滝沢伊紀はそれを知らないと言った。
魔女は誰から今回の件を聞いたのだろう。
判らない。
判らない事が多すぎて何から考えていいのかも判らない。
綴さんなら、答えてくれただろう。
あの人は何でも答えを知っている。
「そんな事はないわ。知っている事しか知らないわよ。」
そう言って笑われた。
綴さんなら今の俺の気持ちを楽にしてくれるだろうか。




