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Kiss of Vampire  作者: かなみち のに
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3月。

ニコラ・ルナプリアの留学期間が終わる。

クラスの女子達は送別会を開く。

「それとは別に」と橘佳純は俺と津久田伴を誘い

「ほぼ身内の会」と称した場を用意した。

出席者はニコラの母親に振り回された連中。

皆で食事をしながらこの半年を振り返った。

何かがあったような。何もなかったような。

「いやいやイロイロあったろ。」

そのどれもが日常だったような。

「どんな日常だよっ。」

「ヴァンパイアなんて存在がそもそも非日常だよなー。」

「化け猫が何を言うか。」

「黙れ野良犬。」

「え。この中でマトモなのって伊紀だけ?」

「佐代様の仰る「マトモ」が何を差すのか判りませんが」

「小室様も南室様も私同様橘家に仕える人の子ですよ。」

「違うわ。綴姉ちゃんはともかく絢姉ちゃんは違う。」

「だな。むしろイチバン違うな。」

「失礼な。」

「アンタは怪獣だよ。怪獣。」

しかしクッキーを作る姿はとても乙女だった。

「誰がクッキーモンスターだ。」

「楽しいです。皆さん。私帰りたくないですだよ。」

「楽しい事たくさんあったです。皆さんいい人です。」

ニコラ・ルナプリアは泣き出してしまう。

「あーっ」

最初に宮田柚が貰い泣く。連鎖するように

橘佳純も滝沢伊紀も。

箱田佐代は顔を逸らす。

彼女達は立ち上がり、1つの塊になった。

津久田伴が急に立ち上がりその塊に加わるのかと思ったら

1人壁に向かい震えていた。

もしかしてアイツも泣いているのか。

「綸は平気なの?」

綴さんは誂うように聞くが

そうですね。それほど寂しくは感じません。

「そうなの?」

上手く言えませんがニコラ(に限らずプナイリンナの2人も含めて)には

いつでもすぐに会えるような気がして。

いやルーマニアもフィンランドもとても遠い国で

簡単に会いに行ける場所ではないって事は理解しています。

それでも

「リンはまた会えるですよ。」

そうだな。俺もそんな気がする。

今度は俺が会いに行く。多分。

「待ってるですよ。いつでもいいですだよ。」

その時は連絡する。

ニコラは俺の手を取り立ち上がらせ、

そのままその細い両腕を俺の首に回し強く抱き寄せた。

しばらく何も言わず、

ニコラは離れ際に俺の頬にキスをした。

「続きは後でするですよ。」

「続きって何だーっ。」

「後っていつだーっ。」

「ヴァンパイアのキスには神聖な意味があるのだですよ。」

「ダメだっ。こいつは私が最初に目を付けたんだからなっ。」

市野萱友維は何を言っている。

「おおっとうとう言ったな。」

「とうとうとか言うなっ。」

「あら。最初に目を付けたのはワタシよ。」

綴さんまで。


出会い、別れがあったとしても今時ネットですぐに会える。

日常に変化はあるがすぐに慣れる。

ヴァンパイアの日常と言ったところで

他の誰とも何も変わらない。

「いやいやだから少しは自覚しろって。」

自覚って何の。

「前も言ったけど、お前ヴァンパイアの世界でも魔女の世界でも有名人なんだから。」

それなんですけどね

今回の件て、まあ確かにニコラの母親がした事はそれなりに問題でしたが

結局は魔女が話を大きくしただけのような気がしないでも無い。

「あ気付かれた。」

それが誰の思惑かは考えないようにしていますが

もしかしたら魔女とヴァンパイアとの間に何かしら契約と言うか

協定のような約束事を作ろうとしたのではありませんか?

俺が有名人になったのは魔女がそう仕向けたからではありませんか?

「そうだよ。」

三原紹実はあっさりと認めた。

「正確には魔女も妖怪達との」

「妖怪て言うな。」

「まあ待て。」

「私達はお前達の仲間になりたかったんだよ。」

今まではただの協力関係。

しかも魔女は「人間」だ。ヴァンパイアやライカン達とは根本的に異なる種族。

それを「継ぐ者」として一括りにしようとした。

「んー。ちょっと違う。」

「魔女は基本的に知識と技術の継承だから。血統は関係無い。」

ああそうか。

「そうだよ。多分お前の考えている通りだ。」

「え?何。アタシちっとも判らないんだけど。」

「サーラが綸をファミリーとして受け入れたのは綸がヴァンパイアだからじゃない。」

「あいつはただ綸をそうしたかっただけなんだよ。」

「理緒はそれ知って魔女も同じ事をしようと決めた。」

「いいか綸。お前が自覚するのはな。」

「南室家の南室綸ってだけじゃない。」

「プナイリンナ家の、三原家の南室綸なんだぞ。」

「それに藍からも葵からも魔女としての生き方を習った。」

「市野萱家忘れんな。」

「あら橘家の綸君でもあるのよ。」

「ルナプリアのファミリーでもあるだですよ。」


ある日捨てられて

1人で生きて1人で死ぬのだと思ったあの日。

あれから何年経ったのだろう。

気付くとこんなにもたくさんの家族。


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