011
津久田伴は箱田佐代の正体を知っている。
箱田佐代も津久田伴の正体を知っている。
2人は小学生の時に同じクラスになって殴り合いのケンカをした。
「女の子殴るわけないだろ。」
箱田佐代が勝ったのか。
機会があれば誰か詳しく語るだろう。
それは判ったがどうして二人は俺に纏わりつく?
「お前が正式なガーディアンだからな。」
何?
「綸から私達の事頼んでよ。」
橘佳純が反対するなら俺はそれに従うだけだ。
この3日後だった。
この2人だけでも充分鬱陶しいのに
こんな中途半端な時期に編入性。
滝沢伊紀
その自己紹介に橘佳純は驚き立ち上がった。
「伊紀?どうして。」
どうやら知り合いのようだ。
「何をおっしゃいますか。佳純様に仕えるのが私の役目ですよ。」
「もしかして結姉が。」
「勘違いなさらないでください。私が姫様にお願い申し上げたのです。」
「あなたが南室綸様ですね。」
リンサマ?
「綴様から伝言がございます。」
はい?
「伊紀、あ、ワタクシの事です。えー、伊紀ちゃんと仲良く佳純様をお守りするように。」
滝沢伊紀が橘家に居候する事を橘佳純は知らなかった。
「私はホテル暮らしでも構わないと申したのですが。」
橘佳純は電話で橘結に問い詰めると
「驚かそうと思って。」と笑われた。
「でもどうして態々。もしかして」
「こっちは大丈夫。本当よ。むしろ佳純ちゃんが心配で。」
「詳しくは伊紀ちゃんに聞いてね。」
説明を求めると滝沢伊紀は話そうとしなかった。
チラリと俺を見た。
判った。俺は席を外そう。
「あ、いえ、違います。綸様には聞いていただきたいのです。」
宮田柚、敷島楓、津久田伴と箱田佐代。
「その、皆様はただのクラスメイトトかと存じます。」
「私達の面倒事に巻き込むわけにはまいりません。」
面倒事
こいつらにその言葉は逆効果だろうな。
「こいつらって言うな。」
「トモダチが面倒事に巻き込まれて見過ごせるワケないでしょ。」
困った滝沢伊紀は橘佳純に助けを求める。
橘佳純は4人の「協力」を断るだろう。
橘佳純は大きく深呼吸をした。
「このまま黙っていても結局首を突っ込むでしょうね。」
「判ってるじゃねーか。」
いいのか?
「オイ。綸は何だアタシ達の味方じゃないのか。」
いや違うけど?
「ぐぬっ。」
「待って。一つだけ条件があるの。いえ、これは絶対の約束よ。」
「4人だけじゃ無いわ。当たり前のような顔してるけど綸君もよ。」
何?
「何だよその条件て。」
「危険だと思ったら逃げて。」
「先ず自分の身を守って。いいわね。私の事より自分の事を守って。」
「約束よ。破ったら絶交よ。絶対に許さない。」
「伊紀もよ。綸君も。首を突っ込むなら約束して。」
断る。
「はい。お断りします。」
俺と滝沢伊紀ははっきりと断った。
「約束しなさいって言ってるのよ。」
お前は俺が「うん判ったよ」と言ったところで信じるのか?
「佳純様をお前呼ばわりするとは何と無礼な。それでも南室家の」
滝沢伊紀。お前は俺が南室綸だと知っている。なら判るだろう。
「それとこれとは話が違います。綸様の置かれているお立場は判りますが」
「その話は後でしなさい。約束できないなら伊紀の話は聞かない。それだけよ。」
「私の面倒事は私だけで片付けます。」
橘佳純の頑なさに辟易した4人は
小室絢に相談を持ち掛けた。
「え?何?ドユコト?」
小室絢は、橘佳純が「全て受け入れた」のだと思い込んでいた。
だからこそ先日箱田佐代を連れて現れたのだと。
「私とした事が。この子は綸に実力を見せたかったのか。」
この人は何を察していたのか。
「いやいや、佳純に見せ付けるために来たのかと思ったんだよ。」
何が違う?
橘佳純は誰も、何も受け入れていない。
「佳純の気持ちは判る。つもりだ。姫もずっとそうだったから。」
「え?絢姉ちゃんはずっと結姉と。」
「んー、まあそうなんだど。」
小室家と南室家の子供は中学生になると橘家に仕える
それは必ずしも同級生である必要は無い。
何より、元々「護衛」としての意味合いはとても薄い。
実践において子を守るのは本来親の役目。
小室絢と南室綴は、母親を幼い頃に亡くした橘結を「結果的に」護衛する役目を負った。
しかし橘結はそれを受け入れようとはしなかった。
「だから佳純の気持ちは判るよ。」
小室絢は「中学生の頃の橘結」の話をした。
「姫は私達を仕えさせようなんて思っていなかった。」
中学生になり、橘家に仕える事になったものの
橘結は小室絢にも南室綴にも心を開かなかった。
むしろ2人を自分の抱えている問題に関わらせないようにしていた。
その告白は橘佳純に少なからず衝撃を与えていた。
橘佳純は小室絢と南室綴を「橘結の親友」だと思っていた。
「橘家に仕える」とはつまりそのような事なのだうろと期待すらしていた。
橘佳純が俺と「トモダチ」になりたいと言い出したのもそれが理由なのだろう。
「だけどな、私達はその中学時代があったからこそトモダチになれたんだ。」




