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「あー。ゲヘン。ゴホン。あー。あー。オホン。」
「何だよ伴。」
「あ、何だ。皆俺が見えてる?俺ここにいるよ?」
「あ?だから何。」
「えーと。何だ。俺にはー。そのー。チョコ的なーアレはー。」
「あ。」
「あ。」
「あっ。」
「ええっ。」
「何でだ。どうしてだ。」
「お前は何か用意したのかよ。」
「するわけねーだろっ。今日の俺は貰う側だろっ。そーゆー日だろっ。」
「いやいや。綸はちゃんと用意したじゃん。」
「こいつがオカシイんだっ。」
「バレンタインはプレゼント交換する日だですよバンちゃん。」
「何も用意してない奴には何もやれないな。」
「待てっ俺が用意してたら何かくれたのかっ。さっきの「あ」は何だっ」
「伴の用意するの忘れた「あ」に決まってるだろ。」
「あーっあーっ。言っちゃったた。それ言っちゃった。」
「綸っお前のクッキー寄越せっ。」
「それだけは止めろ。」
結局質の悪い冗談で皆は当然津久田伴の分も用意している。
休み時間の度に何故か名前も知らない生徒から
何かしら貰うのだがそろそろクッキーが底をつく。
カバンの中にも入り切らない。
「綸。それ本当に手作りなのよね。」
箱田佐代。さっきも言ったが小室絢に教わった物だ。
「うん。いやさっきね、1年の子に聞かれたのよ。」
「南室先輩からお返しのクッキーをいただいたのですが何処で買った物でしょうかって。」
「綸の手作りだって答えたけど大丈夫よね。」
大丈夫って何だ。
「おい綸。そのクッキーまだあるのか。」
あるけど津久田伴にはやらない。交換だからな。
「えーっ3月にお返しするからくれ。」
断る。
「アタシにはくれるだろ。ホラもう一個チョコやるから。」
宮田柚にはさきほど渡しただろう。
「アタシもさっき聞いたんだけど綸のクッキーにプレミア付いてるっぽい。」
プレミア?
「そりゃそうだよなー。」
「こんなクールな面してこんな美味いクッキーとか手作りされたら知らない奴なら落ちるってなぁ。」
宮田柚はさっきから何を言っている。
「でも不思議な事に本気で告白する子がいないのよね。」
「そりゃだってホラ。綸は佳純と付き合ってるて思われてるから。」
「はあ?何それ。」
「そっそうなんですか佳純様っ。」
「ちょっ待って。いつからそんな事になったっ。」
「だいたい綸君はニコラにプロポーズしたじゃん。」
大きな声でデマを流すな橘佳純。
「大きな声で言わなきゃ皆に聞こえないじゃない。」
「待ちなさいよっプロポーズって何よっ。」
プロポーズとは結婚をや
「意味は知ってるわよっ。いつそんな事したのかって聞いてるのよっ。」
していない。橘佳純のデマだと言っただろう。
「デマじゃないじゃん。指輪渡してたじゃん。」
あれはニコラの母親から預かって
「ニコラママから指輪預かってそれをニコラに渡したらそれってもう。」
「あーまた伊紀泣かせた。お前何度目だっ。」
何が何だか判らない。
それでもこの異様な空気の1日は
黒板が吹っ飛ぶ事もなく無事に終わろる。
その日の小室道場では早速バレンタインの諸々について
何故か皆が小室絢に詰め寄る。
「待て待て。綸にクッキー持たせたの姫だからな。」
どうしてそんな事。
「え。もしかして必要無かった?」
いえとても役に立ちました。
「でしょー。いくつ貰ったの?持ってきた?」
はい。
「ほらねー。だから言ったじゃない。」
と小室絢に自慢しているが。
受け取った物を入れた紙袋を見せると
「すごーい。でも絢ちゃん高校生の時ってもっと凄かったんだよ。」
今度は小室絢の自慢。
「これ全部1人で食べられるか?」
無理でしょうね。
「じゃあもし良かったら貰っていいかな。」
え?はいそれは構いませんが。
小室絢が高校生の当時、受け取ったチョコやら何やらは
全て中身を確認してから道場に通う子供達に配っていた。
久しぶりに同様の事をすると。
「これかっ。アタシ杏姉ちゃんから聞いた。」
「まるで業者だって言ってた。」
使い捨てのビニル手袋を填め、チョコもビニル袋に入れ砕く。
本当に業者のようだ。
「何だか申し訳ないような気がするわね。」
「手紙とかはちゃんと読みなさいよ。」
それはいいが。
「何?浮かない顔して。」
橘結はここまで予想していたような気がして。
「な。ヘンだよな佳純の姉ちゃん。」
「まあでも佳純のお姉さんだから。」
それもそうだな。
「とても失礼な事を言われている気がする。」




