103
学校でも道場でも神社でも
俺が集中力を欠いているのを誰もが気付いた。
「悩みがあるなら聞く」と揃って言ってくれた。
だがその度に
俺も何をどうしていいか判らないから話ようがない。
としか答えられなかった。
この先の道は俺が決めるしかない。
奨学金の出る大学を探すか。
それとも就職先を探すか。
俺に何ができる?
毎日のように格闘技術の習得に努めた。
格闘技のプロ?何処かの団体に所属してとか?
小室絢はその道に詳しいだろうか。
小室絢なら親身になって相談に乗ってくれるだろう。
だからこそ彼女に頼ってはならない。
俺は南室ではない。もう関わりが無い。
以前俺にジムを紹介してくれた人がいた。
あの人を頼ってみるか。
南室の名を失くしただけで俺の世界はこんなにも小さくなるのか。
全ての修練を止めて就職なり進学に備えなければならない。
気が重いな。
それでも「南室」を名乗らせてもらえる内に感謝を伝えておくべきだ。
「じゃあせめて月1とかでも厳しいん?」
「折角イイ感じで使えるようになってきたのに」
「ここで休んだら勿体無いって。」
休む?いえこれで終わりに
「何で。続けた方がいいって。」
もうそんな必要は無い。理由も無い。
「大学行くにしてもどうせイロイロと」
市野萱友維は何かを言いかけて慌てたように三原紹実を呼んだ。
現れた三原紹実は何かを察したのか理由を話せと脅す。
受験、もしくは就職の準備をしなければならない。それだけです。
「それだけ。なのか。」
「大体お前将来どうなるつもりなんだ。」
判りません。
それを考える時間が必要です。
三原紹実はじっと俺の目の奥を覗き込む。
彼女がそうする事は同時に俺も彼女の目の奥を見る事になる。
三原紹実が俺の心の奥底を覗こうとする時
三原紹実もまた自分の心の奥底を覗かせようとする。
「まあいい。友維。この件は私が預かる。」
「綸もいいな。しばらく休みにしてやるから慌てて結論出すなよ。」
判りました。
明日、明後日は土日になる。道場を借りての綴さんとの練習も無くなる。
この際合わせて小室絢に話しておこう。
「時間あるなら今から来い。」
これでは何のための電話か判らない。
「今日は友維んとこじゃないのか?」
しばらく休みにしてもらいました。
同じ理由で道場での
「休みなんだな?辞めたわけじゃ無いんだな?」
辞めるつもりですが三原紹実に預けられてしまいました。
「じゃあ道場通いは私が預かる。辞めるるの止めろ。」
「少なくとも今じゃ無くていい。進路決まってから改めて考えよう。」
判りました。
「最近身が入っていなかったのもこれが原因なのか?」
そうです。こんな中途半端な状態では何も決められない。
「決めるって何。」
進路です。進学なのか就職なのか。
どちらを選ぶにしても何処にするのか。
すぐにでも決めなければならない事が多すぎて。
「明日(土曜日)暇か?綴と道場使わないなら暇なんだよな。」
「一日くらい考えるの待てるよな。」
何か仕事でも
「いや、いつもの時間に1人で来い。」
綴さんには土日の訓練をしばらく休むとだけ言った。
それも直接ではなく、まだ帰宅していない事を言い訳に母に伝えてもらった。
翌土曜日言われた通り小室道場に到着。
また本気の組手でもしたいのだろうかと覚悟を決めていたが
「客間に居るから。」
と言われ、従い向かった。居るって誰が。
待っていたのは橘結。
どうして。
「どうしてって綸君が悩みあるから聞いてやってくれって。」
悩み?いや俺は道場通いを辞めようと話をした。
小室絢は「今すぐ決めるな」と言って今日俺を呼んだ。
「んー。何だろう。どうして道場通うの辞めるか聞けって事かなぁ。」
理由なら話ました。進路について考えなければならない。
俺に何が出来るのかを考えているとまるで集中できない。
「進路かー。」
「あれ?でも綸君は佳純ちゃんと同じ大学に行くって言ってなかった?」
それは御厨理緒の都合を知らなかったからです。
彼は1年ほどで帰国すると言っていた。俺が橘佳純を守る必要はない。
「だからって変えなくてもイイじゃん。」
目的であり手段でもあった。だが必然が無くなりどちらも無くなった。
一緒の大学に行く理由は無い。
いや仮に条件的に合えば行くかも知れないが
それにしてもその大学を知らない内にどうこうは無い。
「条件て?」
奨学金制度がある。近所にバイト先がある。安いアパートがある。とかです。
「家から通えばいいじゃない。」
「佳純ちゃんもそのつもりだと思うよ。」
いや。卒業したら南室の名は返さなければならない。
家を出て1人で
「ちょっ、ちょっと待ってよ。返すって何。」




