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新学期はクラスメイト全員に「にんにく」を配る事から始まった。
「ヴァンパイアがにんにく配るって何の冗談だ。」
チェコから届いた魔女の土産だ。
「意味ワカンネーっ。」
津久田伴がお腹を抱えて笑い出す。
「お土産って何。ちょっとちゃんと説明しなさいよ。」
箱田佐代も帰省先で態々お土産を用意してくれていたが
俺の土産のインパクトに霞んでしまった。
説明したいのだが何処からどう話せば
「綸様は今や魔女の世界の英雄なのですよ。」
何故か滝沢伊紀が興奮しながらそのいきさつを語る。
その間に
ニコラ・ルナプリア。お前の母親からも預かっている。
土産ではなく「贈り物」として渡すようにとの注釈付きだ。
贈り物だ。
小さな箱。
「えぇっ。」
橘佳純が俺とニコラの行動を見て小さく叫んだ。
「綸君それ何っ。」
何って。ニコラへの贈り物だ。
「なっなっ中は何なの。」
ニコラとにかく受け取れ。
「わかりましたです。」
皆が集まり、その箱をニコラが開ける。
指輪だ。
「ぎゃーっ。」
「ひゃーっ。」
何だどうした。噂に聞く魔女の指輪なのか?
「綸がニコラにプロポーズしやがったっ。」
は?
ザワつく教室。
すぐにHRが始まり、今日は授業もなく解散する。
まだザワついている。
「このにんにくは何だ結婚祝いかっ引き出物かっ。」
津久田伴を黙らせるべきだな。
「ワタシ達まだ学生ですだよ。」
ニコラ・ルナプリアは何を言っている。
「これママのリングですだよ。パパからの贈り物です。」
それを俺が預かりニコラが譲り受けた。
「何それっいつそんな関係になったのよっ。」
箱田佐代の言う「関係」とは何だ。
「綸様がお決めになった事でしたら私は」
「またお前は伊紀泣かせる。」
待て宮田柚。俺にはお前達が何を言っているのまるで判らない。
これはヴァレンティナ・ルナプリアの俺への復讐だった。
彼女が夫から(まだ恋人だった当時)贈られた指輪。
ニコラ・ルナプリアはこの事実を知っている。
さらに、ニコラは既に母親からの「チェコ土産」を直接受け取っている。
同封された手紙に今回の事も記されていた。
指輪は魔女を介し、俺の手へと渡り、俺がニコラに手渡す。
俺がニコラに「贈り物」として渡す事で何かしらの意味を持たせたようだ。
この親子は俺をどうしたいんだ。
市野萱友維は橘佳純からこの騒動を聞いたと言った。
「お前はやっぱり付き合うなら同じヴァンパイアのがいいのか?」
この人も何を言っている。
友維さんは、ヴァンパイア相手では付き合えませんか?
「いっ。それってもしかして。」
相手の種族とか職業で付き合い方を替えるような人ではないでしょう。
「は?」
はい?
「判った。お前バカだろ。」
何ですか急に。
「話は全て聞かせてもらったぞ。」
三原紹実。何処から現れた。
「こいつに甘酸っぱい攻撃は効かない。」
「だって魔女だもの。」
三原紹実の指摘?に市野萱友維が深い溜息をついた。
この2人は意味不明な発言を頻繁に行う。
判らない俺が悪いのだろうか。
「綸、友維はな、お前の」
「だーっ何だよっ。何言おうとしてんだよっ。」
「何ってお前がこんな時ばっかり乙女オーラ出してウジウジしてるから助けてやろうと。」
「判ったっ。お前もバカだろっ。」
「姉に向かってバカって何だ。」
「どいつもこいつも魔女はバカばっかりだっ。」
御厨理緒の妹が何を言っている。
「アイツがイチバンのバカだっ。」
何をそんなにエキサイトしているのか判りませんが
確かに俺がアナタを頼ったのはアナタが魔女だからです。
それでもその魔女が市野萱友維である事を俺は誇らしく感じています。
「ごめん。ちょっとよく判らない。」
「友維も魔女だからな。」
「何だそれ。私もバカだって言いたいのか。」
「それは判るんだ。」
まったくこの姉妹は。
「ところでお前何しに来たの。」
三原紹実さんに相談があったのですがもう結構です。
「結構てなんで。」
いや特に意味はありません。
「何だかとても失礼な感じがするのは気のせいか?」




