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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラー短編

田んぼに建てられたアパートの話

これは私が不動産屋にいた頃に同僚から聞いた話です。

 

 そこは兵庫県のとある地方でした。

 私の担当地域に古びたアパートがありました。

 築20年は経っていたでしょうか。

 お世辞にも綺麗とは言えず、大半の部屋は空いていたと思います。

 しかも田んぼに囲まれていた為、夜になると蛙の鳴き声が凄かったのを覚えています。


 アパートの型式としては外階段のよくあるアパートでした。

 ただ、ひとつだけ気になったのが、そのアパートの前には小さな山があったことです。

 玄関を開けると目の前に小さな山が見える。

 それだけなら、田舎に行けばいくらでもあるかもしれません。


 ただ、その山には祠がありました。

 そして、アパートのすぐ前には、祠につながる階段があったのです。

 玄関を開けると、目の前に祠につながる石の階段がある。

 私はなんとなく気分の良くない物件だなあと感じました。

 自分がこのアパートの担当だったら嫌だなと思ったのです。




「あのアパート、また値下げしてるぞ」


 同僚があのアパートの事を教えてくれました。

 そのアパートの家賃はもともと相場よりかなり安かったのですが、さらに値下げしていたと言うのです。

 その地域に格安のアパートがあれば、他のアパートの大家さんからするとたまったものではありません。

 しかし、そのアパートに関しては地元の人もあまり気にはしていないようでした。


「あれだけ家賃が安いと、何も知らない他所者が入るだろ」


「何も知らないって?」


「ああ、おまえも知らないか」


「何か出るんですか?」


「いや、何も出ない。実際に住んでる人に何かあったという話も聞いたことがない」


「じゃあ」


「昔から住んでる地元のやつは、なんとなく気味が悪いから入らないだけだよ。あの集落の昔の話を知ってるからな」


 そこから同僚は、その集落の昔の話を教えてくれました。


 その集落はもともと川の無い集落でした。

 江戸時代までは水に大変苦労していたそうです。

 どうしても雨が降らず、飢饉が起きた年には、あの祠にいる何かに、あるものを捧げていたそうです。


「あるものって?」


「言わせるなよ」


 同僚が言うには、もうそんな風習はとっくに無くなったから気にするのは馬鹿らしいとのことでした。


「でも、あそこにアパートを建ててから、あの集落が水で困った記憶は無いんだ。あの集落の人間からすれば、いざという時のために、アパートには誰かに住んでてもらわないと困るんだろうな」



 それから何度かそのアパートの前を通りましたが、同僚にその話を聞いてからというもの、そのアパートが何かの祭壇に見えて仕方ありませんでした。

 今はもう離れた土地に住んでいるので、あのアパートがどうなったか私には分かりません。


 ひとつだけ気になることは、何年か前に、雨が降らないので水不足になった年がありました。

 でも、あのアパートの住人がどうなったのか、私には調べる勇気がありません





お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜暗い所を歩いてると、ふと不安になるような気持ちになりました。 知らずにそこに住んでいて、いつの間にか不幸になっていたり……。怪物がわっと襲ってくるものではなくて、じわじわとした恐怖、素晴…
[一言] 面白かったです。新耳袋や超怖い話を読み漁った頃を思い出します。また怪談を書こうかな。
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