後始末
「せっかくの休みだっていうのに、誰もわたしと一緒に飲んでくれないのよ」
そんなしおらしい顔をして尻尾をクネンクネンして見せてもダメだ! キス魔と飲みたい男なんて……。はて? 大勢いるぞ。
「大勢いるだろ。ソーサラモナーとかサイクロプトロールとか、グールとかスケルトンとか」
「プッ」
いや、魔王様、笑わないでくださいよ。あの二人は密かにサッキュバスに淡い恋心を抱いているのですから。
「やだ。生理的に受け付けないの」
酷いぞ、本能的な嫌悪――。物理的な嫌悪よりましなのかもしれないが……。
「スライムでいいやん」
「いえ、魔王様、スライムは未成年ですから、飲酒させてはいけません」
「それに、スライムに酒を飲ますとしつこいのよ……ベタベタまとわりついてくるし」
「……」
やっぱり、飲ませていたのか……。青いスライムが赤くなったり赤くなって青くなったりしているのは、全部お前のせいだったのか……。一匹に飲ませれば十分わかるだろ! 壁に向かって吐いているスライムもいる……飲ませ過ぎだっつーの!
食堂の冷蔵庫も飲めや食えやの大騒ぎで空っぽになっていた。殆どは巨漢のサイクロプトロールが盗み食いしていたそうだ。
これでいいのだろうか、魔王軍四天王は……。どうせソーサラモナーも「我関せず」と自室に引きこもって萌え系のゲームでもしていたのだろう……。
汚れたままの玉座の間へと戻ってきた。
急性アルコール中毒者が一人もいなかったのが不幸中の幸いだ……。魔救急車を呼ばずにすんだ……。
「よいではないか。皆が日曜日を満喫したのだ」
「魔王様がそうおっしゃるのであれば……致し方ありません」
明日の魔王城食堂は白飯だけだろうが……。生の海藻よりは美味しそうだ。ふっくらして温かで、消化にも良さそうだ。
汚れたままの玉座に魔王様が座るのだが……海パンだから気にしなくてもいい。お風呂に入れば解決する。
「それよりも、やはり魔王城が一番落ち着くのう」
「さようでございますね」
いや、ほんとに。
旅行とかから帰ってきて絶対に言わないでおこうと決めていたワードなのに、つい言ってしまう気持ちが……今だけは凄くよく分かる。
二度と魔王様と二人っきりで旅行になんか行きたくない――。言わないけど。
「二度とデュラハンと二人っきりで旅行には行きたくないわい」
「……言うんだ。魔王様は」
――ガクッ。
魔王様は正直でいらっしゃる。実際に言われてみると……少し傷つくのがよく分かった。言わなくてよかった。
「フッフッフ、冗談じゃ。また行こうではないか、南の島に」
「……御冗談を」
笑えない冗談に冷や汗が出る。海藻のゲップが出る。喉に指を突っ込んだら、今でも全部吐き出せそうだ。
「おかげで魔王城に日曜日をもたらすことができるのだ」
「御意」
私の日曜日はなくなりましたが……とは言わない。
「デュラハンよ」
「はっ!」
魔王様は玉座に深く腰を掛けたまま目を閉じた。
「二日間、本当にご苦労だった。卿は月曜日を振替休日にすることを許そう」
振替休日――!
「ま、魔王様――!」
マジでですか……。なんか、泣きそう。本当に嬉しくて視界が歪む。振替休日って……最高の響きだぞ。
スティックパンよりも嬉しいぞ――!
「ああ。魔王城内の掃除が終われば、明日は休みとするがよい」
「御意! ……御意?」
え、いま、「掃除が終われば」とおっしゃったのか?
それって、魔王城の掃除に取り掛かり、食べこぼしや飛び散りや悪戯の跡を大掃除して、それが終ってから休めってことなの?
ナウ? ――今から?
「いやいやいや、魔王様、なにか魔法で綺麗にして下さいよ」
禁呪文でもいいです。「ハウスクリーン!」とか、「ダスキーン!」とか、そんな掃除魔法があるでしょ。あ、それか箒にまたがった東洋の魔女を呼びましょう。隅々まで掃き掃除してくれましょう。レレレレのおじんでもいい。冷や汗が出る、古過ぎて……。
「そんな都合の良いチート魔法などないわい。予はクタクタなのだ。瞬間移動の呪文を使ったから……」
嘘こけ――! 無限の魔力は何処へいったのだと反論したいぞ!
結局、残業をして魔王城内の大理石の床や階段をデッキブラシで擦っていた。私は綺麗好きなのだ。汚れたままの城内なんて、見ていられない。潔癖症とはちょっと違うがな。
本当に今日中に終わるのだろうか……。酔ったスライムが掃除したところにまたゲロを吐くのが見ていられない……。背中をさすってあげる。
「デュラハン。まだここ汚いぞ」
カッチーン!
水色のアイスキャンディーを舐めながら四天王の一人、サイクロプトロールが壁を指さすのが、腹立つわー。
「汚いなら率先して掃除を手伝え――」
「えー、だって、俺が汚したんじゃないもん」
――子供のような言い訳しよる!
だが、図体ばかりでかい怪力男を説得して掃除をさせるのは、時間の浪費にしかならない……。今日中に掃除を終えられない……。
「アイスキャンディーが溶けるから、あっちへ行って食べろ!」
手伝わないのならわざわざ近付いてくるな! しっしっ! こっちは寝不足で気が立っているのだ!
「おお、こわ」
のっしのっしと歩いて行った。夏は上半身裸で下だけは黒のスリムスラックスを穿いているが、どういうセンスだ。黒の靴下と革靴も……いけてない。ナンセンスだ。
はあ~っと大きなため息が出る。他の四天王なんて、いいとこなしだぞ――!
まあ、それでよいのだが……この努力が……、いつか報われる日が来るのだろうか……。
魔王城に勇者一行が攻めてくる日など……本当に来るのだろうか……。
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