島一面の食材!
昨日と同じくらいまで水位が下がると、ようやく砂浜が姿を現した。
「うわー」
「た、食べ物が一杯だぞよ!」
砂浜の上に打ち上げられた茶色や緑色にキラキラと輝く……海藻。微妙に臭い……。
「よかったなあデュラハンよ。これだけ海藻があれば腹一杯になれるぞよ。はよくえ」
「……御意」
仕方がないから拾って食べてみたが……ダイエットにピッタリなのは間違いなさそうだ。生のコリコリした食感と潮の香りが……ダイエットにピッタリだ。口の中がヌルヌルするやつもある。味は全部塩味だ。
吐きそうになるくらい口に詰め込んだ。食べられるときに食べておかなくてはいけない。ここでそれを学んだ。魔王様に教えられた……。
「どうだ、美味しいか」
……びみょおうでもじゃいまふ。
魔王様は手に取ろうとすらしない……。えずきそうになるのを我慢してゴクンと飲み込んだ。
「……美味しいです。……しばらくワカメスープは飲みたくありません」
海藻サラダも遠慮したいです。この口の中の嫌な感覚を思い出しそうです。
「ハハハ、そうだろうなあ。ハハハハ」
「ハハハ……ハ」
笑いすぎ――。笑うところではございませぬ――。
今頃、他の四天王はやりたい放題で休日を満喫しているのだろうなあ。
ソーサラモナーは部屋でゲームに入り浸り、サッキュバスは昼間から酒を飲み、サイクロプトロールは……何かを食べているのだろう。
ひょっとすると、私以外は普段と何も変わらない休日を過ごしているのか……。だとすれば、普段と違うことを楽しんでいると思えば……この無人島での生活も良い経験なのかもしれない。
魔王様に、「この世にはやって当たり前などという仕事は無いのでございます――」などと偉そうに言ったことが恥ずかしい。まずそれよりも、周りに食べ物や水すらもが――あって当然ではないのだ。雨や日差し、大地がもたらす恵みに……感謝しなくてはならない。
それだけではない。魔王城にいれば雨だってしのげるし、夜にはぬるいお風呂にだって入れる。魔王城の固定資産税も……魔王様がお払いになっている……。たぶん。
ひょっとすると、そのことを教えるために魔王様はあえて私めを無人島へとお連れになられたのか……。
当たり前になり過ぎて有頂天になっている私を戒めるために……。
海藻すら食べられなかったと考えると……感謝するべきなのだ、この大自然に――。そして偉大なる魔王様に――。
「ビーチバレーをするぞよ」
「……御意」
いま、すっごくいいシーンだったのに~――!
魔王様は膨らます前のビーチボールを手渡してくる。仕方なくフーフーと膨らました。
「そんなところで膨らますのか!」
「内緒でございます」
ビーチボールはパンパンに膨らんだ。どこで膨らましたかは内緒だ。尻ではないとだけ言っておく。
「手加減はいらぬぞよ」
「分かりました」
丸い砂浜の中央に線を引いてビーチバレーがスタートした。
魔王様の取りやすいところへサーブをすると、魔王様も両手でそれを返してくる。手加減は不要とおっしゃっていた。さすれば、手加減をすることは魔王様への反逆行為。
「必殺! デュラハン・デス・スパイクーー!」
気合を入れて右手でビーチボールを叩くと――ガントレットの尖った部分が当たって、ボールがプシューっと破れてしまった。
「……」
「……」
開始5秒で終わったビーチバレー。その後、無言が続いた。
背中を向けて互い違いに三角座りをしていた。喧嘩をするにもこの無人島は狭すぎる……。
「あーあ。もっとビーチバレーがしたかったなあ」
……嫌味でございますか。
「手加減いらぬと申されましたゆえにございます」
「デュラハンのアホ。頭なし」
悪口で御座いますか。
「……魔王様こそ。計画性がまるで無いではございませぬか」
無人島にバーベキューコンロとスティックパン……。飯盒はあっても米を持って来ないのはどういう発想なのだと問いたい。アミもモリもなければ魚も捕れない。トランプの優先順位はもっと低くていい。
「私の日曜日を返して下さい」
土曜日も。
「そんなことではいつまで経っても魔王にはなれぬぞよ。もっと寛大でなくてはならぬ」
魔王様の表情が見えない。
「……別に、魔王様になりたい訳ではございませぬ」
寛大ならスティックパンを全部一人で食べるなと言いたい。ふん!
「痩せ我慢するでない。卿の顔に書いてあるぞよ。魔王になりたいって」
「……その手には乗りませぬ。生まれた時から顔は無いのです」
もう、早く帰りたいぞ。
「予だけが先に帰ってもよいのだぞ」
卑怯なり――! 子供の喧嘩のような卑怯っぷりなり――!
「ど、どうぞご自由に」
ここで負ける訳にはいかない。
「嘘やって」
「……」
イラっとするのだが……もし本当だったらどうなるかと考え冷や冷やした……。泳いで帰るのは無理そうだから、海底を歩いて魔王城まで帰らなくてはならない。
海底2万マイルは……まいるぞ。冷や汗が出る。古過ぎて。
「あーあ、私も海藻ではなくスティックパンが食べたかったなあ……」
言い返してみた。悪いのは私ではない。魔王様なのだ。
「うわー、しつこ」
しつこくもなるだろう。さっき食べた海藻がお腹の中で膨らんで……今ではお腹一杯なのだが、私も魔王様のようにスティックパンでお腹一杯になりたかった――。
「食べ物の恨みは恐ろしいのでございます」
「……」
まだ夜になるまでだいぶ時間がある。しかしやることがない。こんなギスギスした気持ちのままで、無人島にいる意味はあるのだろうか……。
キャンプ場とかで喧嘩すると……そこに楽しみはあるのだろうか。
ここまでして魔王城内のモンスターに日曜日を与える必要はあるのだろうか……。
「ああ……。今頃、どうしているかのう」
「心配……ですよねえ、魔王様」
ようやく意見が合ったぞ。
「……帰るか」
「魔王様がそうおっしゃるのであれば、致し方ありません」
「デュラハンが帰りたそうな顔をしているから仕方なく帰るのだ」
――!
「私は……そんな顔をした覚えはありません。そもそも顔もありませぬ」
「……」
「……」
しまった。素直に帰りたいと答えるべきだった――。
今は、一刻もこの無駄な無人島サバイバルを終了することが先決だったのに――。帰ったらスティックパンだって腹一杯食べられるのに――。浅はかだった。
「なんか、意地になっていませんか」
魔王様、大人気なくございます。
「なってないもん」
もんって……。
「帰りますか……」
「卿がそう言うのなら」
「魔王様がそうおっしゃるのなら……」
「……」
「……」
早く唱えて、瞬間移動の呪文を――!
いや、魔王様は頑固なお方だ……。私よりも頭は固い。すなわち、このままではいけない。あれから数時間、座りっぱなしだ。もう、この島に何をしにきたのかすらどうでも良くなっている。
どっちが先に折れて「帰ろう」と言い出すか、ガマン大会にもつれ込んでいる~!
「帰りたい……かなあ」
チラッと魔王様を見ると、目が合った。
「デュラハンがどうしても帰りたいと申すのなら……仕方がないが」
チラッと魔王様もこちらを見てくる。
――帰りたいと言うのだ。ここは負けを認めるのだ――。それが明日につながる一歩となるのだ!
「か、か……」
頑張れ、――俺! 魔王様も「頑張れっ!」て顔をしていらっしゃる。
「帰りたいです! 滅茶苦茶ホームシックです!」
風呂も入りたいし、歯も磨きたいし、おしっこはトイレでしたいです――!
「おお! そうかそうか! やればできるではないか!」
何がやればできるのだ――ガクッ。
「こんなところで魔王様と二人っきりなんて……とてもとても耐えられません!」
「おお! そうかそうか、……それは言い過ぎだぞよ」
「テヘペロ」
「よし、では南の島のバカンスも堪能したから、帰るとするか」
「御意!」
二人で立ち上がった――。
さらば南国の楽園……もう二度と来るものか――。
「瞬間移動――!」
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