これぞ無人島
仕方なしに砂を少し掘ってみた。ガントレットは指先が細く、力強く砂が掘れる。
「この期に及んで砂遊びか」
「ひょっとすると、砂の中にカニや貝などが隠れているかもしれませぬ」
この期に及んでって……どの期に及んだのだろう?
「ハッハッハ。予の恐怖に隠れるとは賢明だ」
魔王様でなくても隠れるぞ――。むしろ初めから隠れているんだぞ――。
魔王様も青紫色の手で土を掘る。
「ここにアワビや馬糞ウニが隠れているのだな」
「……アワビやウニは……砂の中に隠れたりはしません。もっとごつごつした岩の隙間に隠れているはずです」
それに、砂を掘ってウニに手が刺さるのは嫌だぞ……。ガントレットの手でも痛そうだぞ……。爪と指の隙間にウニのトゲトゲが刺さるのって、考えただけで痛そうだぞ。
ああ……アワビやウニをバーベキューコンロで焼いて食べたい……。いや贅沢は言わない。ハマグリ……アサリでもいい。シジミでもいいから出てきて欲しいぞ。
結局、砂を掘ってもペットボトルのキャップしか見つからず……さらに落胆して空腹が増した。
「夕食は『海の出汁がタップリ濃縮されたスープ』で良いのではないか?」
「……海水をそれほど美味しそうに命名しないでいただきたい」
三角座りをして小石を拾い、海に向かって投げて暇つぶしをしていた。食材の取れない無人島って、あまりにも楽しくない。……面白くない。
「『大自然が育む奇跡のスープ。塩分濃いめ』だぞよ」
「……」
海水の塩分は約3.5%。飲んでも喉がカラカラに乾くだけだぞ……。
唇もしおしおだぞ……。首から上は無いのだが、魔王様の唇が……青紫色で心配だ。いつも同じ色だから変化に気付けない~――!
ゴロゴロゴロ……。
……んん? 遠くで雷の音が聞こえたか? 山がないところでは雷はゴロゴロと聞こえないらしいのだが、冷や汗が出てくる。
ゲリラ豪雨でも来るのだろうか。空を見上げるといつの間にか分厚く真っ黒の雲が迫ってきていて半分黒い――! 空が半分黒いぞ――!
青空の方は……。半分、青い――!
ピカッ! ゴロゴロゴローー!
「やっぱりゴロゴロ言ってるしー!」
「いかん、ゲリ豪が来るぞよ!」
「ゲリ豪にございますか――」
下痢便のような豪雨……ゲリ豪! 魔王様の品位が問われるから突っ込まないでおこう。せめてスコールと言って欲しい。
ピカッ! ゴロゴロゴロ! ゴロゴロゴロ~!
なんか空が怒っているぞ……。雷はマジでやばいぞ……。
「私は……昔から落ちやすい体質なのです。キャラ的にも」
「キャラ的にもに冷や汗が出るぞよ。コレ絶対落ちるぞ。――むしろここで落ちなければ大勢の人やモンスターにガッカリされるぞ」
……なんだか泣きそうになる……。絶対に落ちるやつじゃん。
――ドドーン! ドンゴロゴロゴロ、ドンゴロゴロゴロ!
ほら! かなり近づいてきた――! まるで怒り狂う狂乱竜の足音のような地響きだ――!
「積乱雲というより、狂乱雲だぞよ」
「乱れ狂った雲でございますか」
ドンゴロ?
――ゴロゴロゴロ! ゴロゴロゴロゴロ~ーー!
「ひえー!」
「デュラハンよ! 急いで穴を掘るのだ!」
アナ! ホワーイ?
「何故ゆえにですか。それに私はテクニカルアナリストではございません――!」
専門的な調査や分析などを行った覚えはありませぬ――。テクニカルアナリストは下ネタではございません。
「雷は金属に落ちる。卿は金属の塊で、さらには固い頭の持ち主じゃ。確実に落ちる『歩く避雷針』なのだ!」
なんか酷いことをどさくさに紛れて言われた気がするぞ……。首から上は無いのに、固い頭の持ち主は酷過ぎるぞ……。
「大きな穴を掘って中に隠れれば、雷は落ちまい」
「なるほど! 今すぐに」
ガントレットで用を足した後の犬か猫のように砂を掘る。掘って掘って掘りまくる――。雷はどんどん近づいて来る。
まるで獲物を見つけた「デス☆スタ」のように近付いてくる~!
おおよそ人一人が横向きに入れる穴が掘れたのだが……。波が押し寄せる度に少しずつ水が溜まってくる。本当にこんなので雷を避けられるのだろうか……。
「急げデュラハン、早く入るのじゃ! 雷の速度は光よりは遅いが秒速十万キロメートル! 卿にもよけきれまい」
「秒速十万キロ?」
「光の……三分の一くらいじゃ」
光ったら落ちるよね。というか、それ避けられたら神様もビックリされるよね。
「この穴に入ったら、予が土を被せてやろう」
「――! お待ちくださ、うおっぷ! ペッぺッ」
土をどんどん被せないで下さい――。これでは雷に打たれなくても死にそうです。
生き埋めです。チーン。
「急ぐのだ!」
急がないで――埋めないで――!
「――はっ! それに、私の身はともかく、魔王様はどうされるおつもりか――。魔王様にも雷が落ちる可能性はあるのです!」
避雷針を埋めてはいけない。
「――むしろ、私めが魔王様の避雷針となり、雷に打たれた方がマシにございます――! 美しくございます!」
代わりにこの穴に魔王様を埋めて差し上げます、とは言わない。
「美しいとか自分で言うではない。それに心配には及ばぬ。予には魔力バリアーがあるのだ」
魔力バリアー。魔王様の無限の魔力で常にご自身をガードしている完全無敵の魔法……ほとんど禁呪文。
ピカッ! ゴロゴロゴローー!
「ぐおー!」
「ま! 魔王様!」
ま、まさか落雷に打たれたのか――?
「心配には及ばぬ……。ぐおー!」
「どうされました!」
稲光は光っていない。
「いや、小さなカニが予の足を餌と間違えてハサミでツンツンと挟もうとして……ぐおー! こそばいのじゃ」
「……大袈裟にございます」
魔力バリアーはどうされたのかと聞きたい! 小さなカニに破られてしまうほどのものなのかと。
「――否! そのカニを掴まえて、ボウルでグチャグチャに砕いて塩と混ぜれば夕食になります」
ご飯を茶碗に……半分ほどいけます。……一匹なら。
「卿はそんな残酷な食べ物、よく思いつくなあ……」
「恐縮です」
褒められたと思っておこう……。郷土料理にございます。
「あ、逃げられてしまったわい」
魔王様がカニを掴まえようとすると、スッと逃げられてしまった。
「……」
……魔王様のどんくささに……ちょっとイラっとする。絶対に捕まえようと思っていなかったのが見え見えでイラっとする……。
結局、雷は落ちなかった……。
なんだろう、この煮え切らない結末は……。ドカンと落ちて、アンギャ―と叫ぶ方がよほど性に合っているぞ……。だが、私も魔王様もマゾではないと言っておきたい――。冷や汗が出る。勘違いされそうで。
黒い雲が抜けると、空高くには虹とすじ雲が見えた。西に傾く日差しは、ゆっくりと空を茜色に変えている。
見方によっては、夕暮れの砂浜で体を砂に埋めて遊びじゃれ合う……カップルだぞ……。ポンポンと私の腰のあたりに山を作って固めるのはやめて欲しいぞ……。崩すと怒られそうだから言わないけれど……。
あー。蟹が食べたい……。
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