その2
真っ白な内壁、清潔感溢れる内装とリアさんから受け取った紹介状を読むお医者さんの姿……うん、病院だ。
しかも王立病院、王国の優秀なお医者さんが集まる場所で僕は何を言われるのか内心、ビクビクしていた。
「…う~ん」
紹介状を読み終えたお医者さんが小さくため息をつくと真っ直ぐに僕を見つめ言葉短めに説明した。
「魔力欠乏症ですね」
あっさりと僕に病名を告げた。
普通、もうちょっとなんかあるんじゃないかな……ほら、少し考える素振りとかさ。ちょっとあっさりし過ぎだよね。
魔力欠乏症、普通は魔法の使いすぎで魔力が極端に足りない状況を言うらしいんだけど…僕の場合は少し意味合いが違うらしい。
「貴方の場合の魔力欠乏症は著しく回復が遅いのが特徴になります。そうですねぇ、普通の方ならポーション一個で回復する魔力が貴方の場合、十個ほど必要となります」
お医者さんの言葉に首を傾げる。
なんだ、回復が遅い程度なんだ。
じゃあ、そんなに心配するほどでも無いんじゃないかと僕は若干、安堵しているとお医者さんの眼がキラリと光った。
「回復しづらいのはかなり死活問題ですよ……ダンジョン探索中に魔力が枯渇したら?日々の生活魔法ですら魔力は消費しますよ?体内に魔力をため続けることは実質、不可能ですから貴方に取ってかなり死活問題になると思いますよ?」
そう言われてハッとした。
僕は痛くも苦しくもないから大した事ないと思っていたけどお医者さんから説明を受けて漸くことの重大さに気付くことが出来たんだ。
この世界は魔力主体の世界だからだ。
無ければ先ず、生活できない。
日常の生活ですら支障を来すかもしれない。
普通の人の魔力はそんなに無いけど、生活に必要な魔道具は魔力の籠もった魔石を使う。
それには勿論、微量だけれど魔力を使う。
部屋の明かりや炊事洗濯、魔石は当たり前のように使われているから僕のように魔力が回復しにくい人間にとっては文字通り死活問題となる。
単純に生活が出来ないんだ。
事の重大さに気付いた僕はこの先のことを考えて憂鬱になって項垂れてしまった。
だって、僕のスキルは『大魔道士』だからだ。
膨大な魔力量を保持することを引き替えに魔力なしでは何の役にも立たないスキル。
頭を抱える僕にお医者さんは慰めるように僕の肩を優しく叩いて励ますように言った。
「進行は遅らせることは出来ます…ですが、貴方のスキルは出来るだけ使わない方が良いかもしれません。通常の魔道士の方と比べ魔力の消費量が激しすぎます」
何も慰めにならないよ。
要するにスキルさえ使わなければ僕は普通の生活は出来ますよって事を伝えてくれたに過ぎなかったからだ。
そして、診察を終えた僕はクスリの調合が終わるまで待合室のソファに項垂れることになったんだ。
「…空が青いなぁ」
遠い目をしながら外の景色を眺める僕は若干、涙目になりながらこの先の生活に想いを馳せていた。
「…カイトさん」
廊下で僕を呼ぶ声にクスリが出来たのかと振り返ると意外な人が立っていたんだ。
「リアさん?」
そう、僕に声をかけてきたのは冒険者ギルドの受付のお姉さん、リアさんだったんだ。
心配そうに僕の側に近付き顔を覗き込んでくる。
結構、顔近いな…うん、可愛い。
何だかんだで、まだゆとりがあるみたいだ。
だって、まだ実害がないのだから仕方がないだろ?それよりも気になるのがリアさんだよね。
どうして僕の所なんかに?
そんな疑問を浮かべているとリアさんは心配そうに僕の傍らに座って話しかけてきたんだ。
「…カイトさん、大丈夫ですか?」
僕が落ち込んでいると思ってきてくれたみたいだ。
「まぁ、まだ痛みを伴うほどでもありませんしスキルを使わなければ……問題ないですから」
そう言いながらも僕は改めて思った。
何でよりにもよってこんなスキルなんだろう……なんで、魔欠症なんて病気になったんだろう。
スキルがどれだけレアでも、それを使うための魔力が回復しにくいって事は無意味なスキルでしかない。
「…カイトさん」
そっと僕の手に触れる。
「…ははっ、情けないですよね。冒険者になりたくて村を出てきたって言うのに冒険者になるどころか日常の生活ですら不安を覚える病気持ちだなんて……」
思わず僕は胸の内を話し始めていたんだ。何だかリアさんならいいやって思えたから…。