病弱魔道士の冒険碑!?~魔力欠乏症の僕は妖狐に養われる~
僕は王都ダイダロスの王立病院の待合室で失意のどん底に叩き落とされ暗く沈んでいた。
なんで、ここまで落ち込んでるかを話す前に今までの僕の人生を振り返らないといけない。
僕の名前はカイト・マクシリア18才、スキルは【大魔道士】なんて大層なスキルなんだけど今の僕にはそれが原因で人生の崖っぷちにたっているんだ。
この世界でスキルは15才の成人の儀に神殿で神様から与えられるモノなんだけど僕はそこでSSSレアの【大魔道士】なんてスキルを貰ってしまった。
僕のスキルを読み上げる神官もちょっと震えていた。
「カイト・マクシリア、君は今日から大魔道士……です」
その言葉にその場にいた誰もがみんな、同じように口をぽかーんと開けて僕を見つめていたんだ。
そりゃあ、そうだろ?
貴族のご子息や代々魔術師の家系でも無い限り、一介の村人が成人になっていきなり大魔道士になりましたなんて言われれば誰だってそんな顔になるよね。
だけど、村の人達は大喜びで僕を迎えてくれた。
なにせ、回復魔法が無料で使えることが村の人々にとって物凄く有り難いことだからだ。
今までは神殿や回復術士に結構な額のお金を払わないと治療してもらえなかったのに僕がいれば実質タダなのだから。
僕も魔法を使うことによってレベルが上がっていくからお互いの利益にも繋がる。
それにSSSレアのスキルなだけあって何十年も修行しないと修得できない魔法の数々が頭の中で想像するだけで可能だった。
気がつけば僕の属性は全属性になっており、さらには極大魔法なんかも修得していたんだ。
それに気がついたとき、正直なところ……冒険者になったら儲かるんじゃないかなんて欲が出てきた。
だって、全属性の魔法が使えるんだよ?
ほぼ無敵だよ?
いつなるの?いまでしょ!
僕はそそくさと荷物をまとめて名残惜しそうに僕を見つめる村の人々を置いて王都に向かったんだ。
王都に向かう途中で出会った魔物を過剰なまでの魔力で何体か倒して素材や魔石を手に入れ僕はレベルを上げながら進んでいった。
今まで、村の生活しか知らなかった僕は王都がどんな場所だろうと期待に胸を膨らませ何日かの野宿をしてようやく王都に着く頃にはレベルは村を出たときよりもだいぶ上がっていたと思う。
なんせ、レベルというのは専用の鑑定紙を使うか冒険者ギルドで発行されるギルドカードを見ないと分からないから正直なんとも言えなかった。
自分のレベルを見るのが楽しみで仕方がない。
僕は正門から王都にはいると直ぐに冒険者ギルドを探して早歩きで町中を歩き回った。
そこで僕は気付いたんだ。
王都は余りにも広すぎる。
ただ、闇雲に歩いていても仕方ない。
僕はいったん立ち止まり周囲を見渡す。
「す、すいません」
足早に歩く冒険者風の男の人に声をかける。
「なんだ坊主、迷子か?」
坊主と言われ少しムッとしたが男の人から見れば確かに今の僕は成人したばかりの坊主で間違いない。
仕方ないよね。
「あ、あの冒険者ギルドに行きたいのですが?何処にあるのか教えてもらえませんか?」
僕の問いに男の人は少し驚いたようだったが、すぐに優しそうな微笑を浮かべて後ろを指差した。
「冒険者ギルドなら坊主の後ろだ」
その言葉に僕は慌てて後ろを振り返った。
「えっ?……あっ、ホントだ!気付かなかった」
後ろの建物の看板には交差する片手剣に盾のエンブレムが誇らしげに描かれており、その下にはハッキリとした文字で『冒険者ギルドダイダロス本部』と書かれている。
今までさんざん歩き回ったにも拘わらず直ぐ後ろにある建物が冒険者ギルドだと気付かなかった僕は顔を真っ赤にして男の人に頭を下げる。
その姿を楽しそうに見下ろしながら男の人は僕の頭にポンッと手を乗せた。
「じゃあ、頑張って一流の冒険者になれよ」
頭をガシガシ撫でられて最後まで子供扱いだったけど去って行く男の人は悪い人には見えなかった。
人混みに消えていく男の人を見送ってから僕は改めて冒険者ギルドの建物を見上げた。
「ここが冒険者ギルドかぁ……」
三階建ての煉瓦造りの建物を見つめながら僕は胸が躍るのを押さえきれずにすぐに建物の扉を開いた。
ガヤガヤ。
扉を開いた瞬間、人の熱気とアルコールの臭いに思わず扉の前で尻込みしてしまった。
多くのギルドは一階フロアに受け付けスペースと冒険者達の社交場とも言える酒場が併設されているのを忘れていた。
しかも、ここは冒険者ギルドの本部だ。
室内の広さもかなり大きいのにそれでも手狭なぐらい冒険者の人達で溢れかえっていた。
壁に貼り付けられたクエストの数々を見つめる冒険者、それとは反対にクエストを終えたパーティが楽しそうにお酒を飲む姿、そんな冒険者達で賑わいを見せていた。
僕の中での冒険者ギルドそのままの姿が目の前に拡がっている。少しドキドキしたけど僕は勇気を出して一歩を踏み出した。
先ずは登録からだ。
周囲を見渡し、受付カウンターの列が少ない場所を見つけ出すと僕は躊躇なく最後尾に並んだ。
いま思えばもっとしっかりと確認して並べば良かったんだろうけど、その時の僕は舞い上がっていたんだ。
列が徐々に受付へと流れていく。
そして、とうとう僕の番になった。
受付カウンターのお姉さんは緑色の長い髪をウェーブさせた可愛らしい顔立ちの女性だった。
「あらっ?初めての方?ここは買い取り専用カウンター何ですが、ギルド登録は済んでますか?」
「…へっ?」
その時になって僕は受付にはそれぞれの役割があることを知ったんだ。変だとは思ってた。
僕の前の人までは空間魔法が付与された鞄から素材や魔石を取り出しお姉さんに渡してた。
よくよく考えればその前の人もそうだった。
僕は慌てて受付カウンターに掲げられた案内板に視線を向けた。そこには……買い取り専用と書いていた。
僕は焦ってしまった。
そんな慌てふためく僕を観て受付のお姉さんがクスリと笑い、更に僕は真っ赤な顔をして俯いてしまった。
「えっ~と、えっと……すいません、登録するにはどうすればいいんですか?」
恥ずかしさのあまり俯いている僕に優しい瞳でお姉さんがカウンターから書類を出してくれた。
「では、この鑑定紙に手を触れて下さい」
俯いていた僕はハッと顔を上げるとお姉さんは口元に指を当てて「特別ですよ」と言って普通に登録を始めてくれた。
うん、優しい人だ。
幸いなことに僕の後ろで買い取りを待っていた剣士風のおじさんも何だか微笑ましいモノでも見るように待ってくれている。
「すいません、ご迷惑をお掛けします」
二人に頭を下げながら謝罪する。
その姿に二人は優しく頷いてくれる。
そして、僕はお姉さんが差し出してくれた鑑定紙に手を触れた。淡い紫色の光が薄らと輝くと鑑定紙に文字が浮き上がってくる。
その文字がハッキリと浮き上がると僕はお姉さんに用紙を手渡した。
「はいっ、ありがとう御座います。ではギルドカードを作成しますのであちらのカウンターに来て貰えますか?」
お姉さんが指差した一番奥のカウンターへと向かう。
そこには何も書かれていないカードが三種類と……何故か、先程のお姉さんが待ち構えていた。
僕は何気にさっきまでお姉さんがいたカウンターに視線を向けると別の職員さんが応対していた。
双子とかではないみたいだ。
「えっと、買い取りカウンターの方は…」
僕の言葉を遮るようにお姉さんはまた口元に指を当てて「…しぃ~」と悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「内緒ですよ…実はこっちの業務の方が楽なんです」
舌をぺろっと出しておどけ見せた。
そう言われればと…僕は買い取りカウンターの方に視線を向けるとまだかなりの人達が並んでいた。
っで、こっちのカウンターは僕一人……うん、何だかお姉さんが悪女に見えてきた。だって、お姉さんと代わった職員さんはこっちを恨めしそうに見てるし……あっ、目が合った。
僕は慌てて書類に目を通す振りをする。
「ふふっ、では説明にはいらせて頂きますね」
お姉さんは僕の仕草に微笑みを浮かべながら三枚のカードを僕の前に置いた。金、銀、銅と色の違うカードだった。
「これは?」
何故か触るのを躊躇してしまい眺めるだけの僕にお姉さんは笑顔で手に取るように促したんだ。
僕は右端のカードを恐る恐る手に取る。
銅色のカードだったが何も変化しない。
「へぇ…」
少し驚いた表情を浮かべるお姉さんに僕は首を傾げながら真ん中の銀のカードを手に取ったけどそれも変化なしだった。
「…えっ?」
予想外のことだったのかお姉さんが表情が茫然となり僕は何か間違ったのかなと心の中で不安になったんだ。
「えっと…僕、何か間違いました?」
「い、いえ大丈夫ですよ」
笑顔が若干引き攣ってる。
とても、大丈夫そうには見えないお姉さんに促されるまま僕は最後のカード、金色のカードを手に取った。
けれど、何も起こらなかった。
一体これに何の意味があるんだろうと首を傾げる僕を信じられない様子でお姉さんが見つめている。
「えっと、カイト・マクシリアさん。申し訳ないんですが、鑑定士を確認する許可を戴けますか?」
鑑定紙から僕の名前を見ながらお姉さんが震える声で聞いてくる。僕はその意味を理解できずにきょとんした表情を浮かべた。
今、見てるのが鑑定紙なんじゃないんだろうか?
だったら見てると思うんだけど許可?
頭の中で、はてなマークが乱立する。
そんな僕の姿を見てお姉さんが「あぁ…」と思い出したかのように呟くと説明してくれた。
「もしかして、鑑定紙を使うのは初めてですか?」
「…はい」
僕は素直に頷いた。
シュンとなる僕にお姉さんは少し平静を取り戻したのか微笑を浮かべて僕に鑑定紙を見せてくれた。
名前 カイト・マクシリア LV45
年齢 18歳
性別 男
種族 人間
スキル 『大魔道士』
魔力 150742/20000000
属性 全属性【闇、光、風、土、火、水】
特殊スキル 召喚術 英知の書 魔欠症【重度】
技能 全知の眼【魔眼による鑑定】
知らないスキルや技能がある。
なんだろ?魔欠症って?
まぁ、いいや後で聞いてみよう。
そんなことを考えているとお姉さんがもう一枚、鑑定紙を僕の前に差し出してくる。
「ちなみにこれが私の鑑定紙です」
お姉さんの鑑定紙?
これって個人情報なんじゃ……。
そう思いながらも僕の視線はお姉さんの鑑定紙に自然と目を向けていた。そう言えば名前も知らなかったな……。
けど、鑑定士を見て僕は茫然としたんだ。
なぜかって?
つまりは僕の目にはお姉さんの鑑定紙はこんな風に見えたからなんだ。
名前 リア・フライト LV56
年齢 20歳
性別 ?
種族 ハーフ
スキル 『?・。?』
魔力 *@※**/@@※**
属性 jptfd6j@※
特殊スキル 《@※「【*』
技能 ?*】※@…?
何これ!?全然、読めない……。
かろうじて名前や性別なんかは読めるけど他の欄はなんて書いてあるのか見当もつかなかったんだ。
「読めないでしょ?鑑定紙と言うのは持ち主の許可がない限り最低限の情報しか開示されません。ですから、許可を頂きたかったんです」
あぁ、そういう事なんだね。
僕はちょっと恥ずかしくなった。
きっと、このことは一般常識なんだと気付いたから。
「えっと、許可を出すにはどうすればいいんですか?えっと、リアさん?」
とりあえず、名前で呼んでみたらお姉さんもといリアさんは驚いた表情を浮かべたんだ。
「えっ?あの、もしかして鑑定紙を読めたんですか?」
えっ?さっき最低限って言ったよね?
何で、そんなに驚くんだろう。
「名前、LV、年齢、性別、種族までは読めましたけど……おかしかったんですか?」
僕はリアさんの読めた部分を説明すると顔を真っ赤にして僕から鑑定紙を引ったくるように奪われたんだ。
「え、えっと、他には読めていませんね?」
僕が頷くと安堵したようにリアさんは胸を撫で下ろしていた。
そう言えば、性別が【?】で人種がハーフだったけど……う~ん、意味が分かんないや。
「で、では改めて他者の鑑定紙を見る際に本人からの承諾が必要なんです。貴方の鑑定紙に手を添えて【汝に閲覧を許可する】と言って頂けますか?そうすれば、カイトさんの繊細な鑑定紙を私が見ることが出来ます」
僕は言われたとおりに自分の鑑定紙に手を添えて
「【汝に閲覧を許可する】」
そう呟くと鑑定紙が淡い光を放った。
僕の目には何も変化していないような気がする鑑定紙をリアさんに手渡した。
「それでは、見させて頂きます……えっ?【大魔道士】?全属性?えっ?何この魔力量……魔欠症……しかも【重度】……カイトさん」
最初は僕のスキルや属性に驚いていたけど特殊スキルの欄で深刻そうな表情を浮かべたリアさんが哀しげな瞳で僕を見つめたんだ。
なんだろ…。
嫌な予感がする。
そして、僕は意味も分からないままリアさんに王立病院の紹介状を手渡され直ぐに受診するように言われたんだ。