Act・2
僕と女神の奇妙な同棲?生活が始まって数日が過ぎた。そして僕は……後悔をしていた。
何故って?
それは目の前の駄女神の姿が物語ってる。
仕事を終えて帰ってきた僕を迎えてくれたのは優しい微笑みではなく部屋中に響き渡る笑い声だった。
「あはははっ!さいっこぉ~!」
我が物顔でベッドに横たわりながら傍らにビールとおつまみを置き、テレビに映るバラエティ番組を見ながら大笑いする女神の姿だったんだ。
彼女には謙虚さがない…。
それに気付いたのは初日からだった。
*
「…分かりました。好きなだけ居てください」
僕は溜息をつきながら諦めた。
でも、何だか楽しみにしている自分もいる。
なんだかんだ言ってこの駄女神は美人だもの。
男だったらそんな美人と一つ屋根の下で暮らせるってなかなかあることじゃないと思う。
でも……。
「じゃあ早速、ビールとおつまみ持ってきて」
おい…なんでベッドで自宅のように寛いでる?
僕は頬をヒクつかせながら立ち上がる。
「…ビールにおつまみだな」
「あぁ~、私、無添加食品以外駄目だから冷凍とかやめてねぇ~あっ、そうそうビールはギンギンに冷やしたのをおねがいねぇ~」
手をヒラヒラさせながらテレビを付けた。
まるで自分の家のように寛いでいる。
イラッ。
何だろうか?この感情……。
女神って存在は人を苛立たせるのが特技なんだろうか?普通、癒やしや救いを与えるのが仕事なんじゃないかな?これって僕の理想論?
胸のモヤモヤを抱えながら冷蔵庫を開く。
「…うん、見事なほど何もないな」
忘れていた。
夜勤明けで今日は丸一日休みになるから目を覚ましたら買い物に行こうと思って何も買って帰らなかったんだ……うん、どうしよう?
そんな僕に対してイラッとする発言が背後から容赦なく飛んでくる。
「ねぇ~、まだぁ~?」
呑気な声が聞こえてきた。
女神って神様だよね?
それにブチ切れたら罰当たりになるのかな?
「あぁ~、冷蔵庫ん中に何も無いんで……」
諦めてくれないかな、なんて甘い考えをしていた僕の耳に信じられない一言が跳び込んできたんだ。
「役立たずな眷属ね…じゃあ、なんか買ってきてぇ~。あっ、そうそうビールも忘れずにねぇ~」
彼女のその言葉に僕は。
バタンッ。
取りあえず冷蔵庫の扉を閉める。
「すぅ、はぁー、すぅ、はあー」
何度か深呼吸して心を落ち着かせて僕は彼女の言葉をゆっくりと噛み締める。
~役立たずな眷属ね~。
いつから僕は眷属になったんだ?
イヤイヤおかしいから、眷属って部下って事でしょ?そもそも、普通は逆じゃないかな…。
僕の頭の中で疑問と不満が交差していると徐に彼女がボソリと呟いた。
「…早く行けよぉ~、ダメ人間」
理不尽って言葉の意味を理解できたよ…。
殺意って意外と簡単に湧くもんなんだね。
プルプルと震える両手を理性で何とか押さえつけてテーブルに投げ出した財布を手に取る。
取りあえず彼女から離れよう。
僕は引きつった笑みで彼女に声をかける。
「じゃ、じゃあ、買いに行ってきます」
僕の言葉にこちらを見ることなく手だけをヒラヒラさせながら彼女が僕を部屋から追い出す。
いや、僕が家主ですから……。
ガックリと項垂れながら僕は玄関の扉を閉めてトボトボと歩き始める。
周囲が徐々に明るくなり始めていた。
何故だか足取りも重い。
当然だ。夜勤明けで寝てないのだから……。
何故、こうなったんだろ?
僕は俯いて薄明かりの中、近くのコンビニを目指した。
通い慣れた歩道を歩き、いつも立ち寄るコンビニに向かいながら考え事をしていたせいだろうか、僕は周囲の異変に気付いていなかった。
その事に僕が気付いたのは暫くしてからだったんだ。