堕落女神は働かない!?~我が家に居候を決め込んだ女神は駄女神でした…~
世の中には不思議なことはある。
都市伝説と呼ばれたり噂話だったり…。
けれど、そんな不思議な事が自分の身に降りかかるなんてそうそうあるはずがない。
そう思ってた、今までは……。
ただ……今の僕はそんな不思議に遭遇している。
目の前で何が起きているのか分からず僕はただ茫然とするしかない状況に陥っていたんだ。
何が起きてるのかって?
それを説明するには少し時間を遡ることになる。
*
日の光が陰り始めた昼過ぎの日曜日、僕は夜勤明けでクタクタになった身体で玄関の鍵を回し扉を開いた。
何時もと変わらない築十年の新しくも古くもない中途半端な年数のアパートの一室、それが僕の住む場所だった。
玄関の扉を開けば部屋の全体が見渡せる1Kの部屋、安いパイプベッドに敷かれた薄っぺらい布団と一人用の小さなテーブルと24型のテレビ、それだけしかない殺風景な部屋ではあった。
けど、男の一人暮らしならそんなもんで十分だ。
僕は鍵をテーブルに放り投げると、クローゼットに乱雑に置いている着替えを手に取り、汗を流すために浴室に向かったんだ。
着ていた服を洗濯機に放り投げて、下着一枚になった僕はバスタオル片手に浴室の扉を開いた。
「きゃあ!?」
うん?何、今の声?
僕は思わず立ち尽くしてしまった。
何故って?
先客が居たんだ…。
最初に言うが僕は一人暮らしだ。
そして、部屋の鍵は掛かっていた。
結論……この人、だれ?
すぐに浴室の扉を閉める。
あまりの状況に頭が付いていかない。
とりあえず、いま見た光景を思い出す。
背中まで伸びた長い金髪、くびれがハッキリと分かる白い肌、スラッと伸びた長い足、そして背中に生えた純白の綺麗な翼………………えっ?
思い出してみて僕の思考が止まった。
うん、何だろう?背中に生えた翼?
ない、ない、ない、ない。
苦笑いを浮かべながら頭を振る。
どうやら疲れてるんだ。
そうだよね、夜勤明けだものね。
自分に言い聞かせ瞼を閉じて指で揉む。
「疲れてる、先に寝よう……」
下着一枚で浴室を出てベッドに転がり込む。
そう、疲れてるんだ。一回寝てから考えよう。
ベッドに寝転がり僕は現実逃避することにした。
けど………。
「おい!こら!人の柔肌見てなに現実逃避決め込んでんのよ!起きろ!この腐れ変態!」
女の人の声が聞こえたんだ。
あぁ、幻聴まで聞こえてきた。
僕は声を無視して寝返りを打つ。
「だ・か・ら!起きろってば!」
誰かの手によって無理やり向きを変えられた。
嫌な予感しかしない。
瞼を開けるのを躊躇われた。
だって碌でもないのは確定だもの。
僕の格言は『君子危うべきに近寄らず』だ。
良い事なんて在るわけがない。
無視、無視。
「あんた…シカトって良い度胸してるじゃない?」
そんな僕に声の主の罵倒は鳴り止む気配がない。
「はぁ…」
とうとう僕は諦めて瞳を開いた。
「………!?」
僕はその瞬間、息を飲むのも忘れてしまった。
目の前に絶世の美女が居たからだ。
澄みきった蒼い瞳、金髪の長い髪が腰まで伸びて日の光を反射させながら輝いている。
服装はどこかエキゾチックな出で立ちで物語に出てくる女神様を彷彿とさせる。
女神って本当に居るんだなって思ったほどだ。
「やっと起きたわね」
そんな綺麗な顔立ちをしているのに眉間に皺を寄せて僕を睨みつけているのが非常に残念でならない。
…………ってか、だれ?
人の家で我が物顔しているこの人はだれ?
「……だれ?」
それしか言葉が出てこない。
僕のそんな間抜けな質問に彼女の眉間の皺が更に濃くなるのが分かり正直、戸惑いを隠せない。
「誰でもいいでしょ?あんたこそ誰よ?」
いやいや、おかしいでしょう。
人の家に勝手に上がり込んで風呂まで入った挙げ句、家主に向かって誰って?なんだろう…物凄~く嫌な予感がヒシヒシと感じるんだけど。
「この家の主です」
とりあえず自己主張はしておく。
「うん?家主?」
首を傾げる彼女にゾッとする。
えっ?なに?言葉が通じない?
そんな考えが頭を過ぎったが、よくよく考えればさっきまで会話が成立していたことを思い出す。
何だか無性に苛立ってくる。
だって、何が哀しくて自分ちで見ず知らずの女の人に罵倒されなきゃならないんだ?
理不尽さがフツフツと沸き上がる。
「ここは俺の家だ、あんたは人の家に勝手に入り込んだ挙げ句、家主である俺を罵倒している。つまりはこの場所は俺の居場所であんたの居場所じゃない!さあ、名乗れ!あんたは誰だ?」
僕が早口で捲し立て彼女に向けて指を向ける。
「人様に指を向けるなと言われなかった?」
不愉快そうに指を払いのける。
その行動にさらにイラッとした僕は勢いよく起き上がり間近で彼女を見つめながら怒鳴った。
「じゃあ、あんたは人様の家に勝手に入るなと言われなかったのか?」
「…パンツ一丁で偉そうに言うんじゃないわよ。このド変態が!大声で叫ぶわよ」
言われて気付いた。
ゆっくりと視線を自分の身体に向ける。
うん、パンツ一丁だ……。
この状況ではかなり分が悪い。
本当に叫ばれて警察でも呼ばれようなら僕は社会的に抹殺される。たとえ濡れ衣でも世間の目は冷たい。
「…御免なさい」
そして膝から崩れ落ちるように座り込むと、彼女に何故だか謝ることになってしまったんだ。