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ニボユポに引っ張られ、ビリヅも建物の外に出た。広がっていたのは、どこかの駅前のような、意外に普通の街並みだった。
「ちょっと待ってよ。僕は、どこへ行けばいいんだ」
ビリヅが言うと、ニボユポはのんびりした口調で言った。
「じゃ、とりあえずうちに行くか。すぐそこなんだ」
2人は歩き出した。
「へえ、ツタゲ国って宗教国家と聞いたから、昔風のとこかと思ったら、僕の住んでた街と大して変わらないんだ」
周りを見ながらビリヅが言うと、
「当たり前さ。ここは君の住んでいた世界の、次世界なんだ。前世の記憶を持つ転生者もいるし、歴史は同じように進んでいるさ」
何と、その時通り過ぎたのは、コンビニの前だった。
「ニボユポは転生者なの?」
「俺は違うよ。この国、生まれさ。いつか、この国で真理を究め、この国の王、つまり神になるのが、俺の夢なんだ」
ビリヅはニボユポの力強い口調に驚いた。
「でも、チロゾトブ教に転生したのに、出て良かったかな・・・」
しばらくして、ビリヅがつぶやくと、
「大丈夫さ。俺、この前、宝物殿に忍び込んで、チロゾトブ教の教典はもう全部、暗記したよ。もう、あそこで学ぶことはないし、あの教義では先が見えている」
「全部、暗記したって?どれくらい」
「あそこの教典の半分以上は古来ゼラサ教からの伝承で、独自の教典と言えるのは3巻だったな」
ビリヅには、少しニボユポが頼もしく思えてきた。
少し歩くと、今度は、ニボユポがビリヅに尋ねた。
「ところでビリヅ、君は何故、ツタゲ国に転生したの?」
少し考えてビリヅは答えた。
「宗教のこと知らないんだけど、神を信じるのもいいかなって」
ニボユポは笑った。
「随分、浅い理由だな。でも、俺はようやく分かったんだ。宗教というのは神を信じるのではなく、神になることだよ」
「神になる?」
「そう。この世界の始まりはたった1つで、そこから俺らは生まれた。つまり俺たち1人ひとりが、元は神と同じ存在だったんだ」
すると今度はビリヅがニボユポを探るように尋ねた。
「それって、ひょっとしてビングバンのことかな」
ニボユポは躊躇なく言葉を続けた。
「お、君もなかなか詳しいね。科学の世界では、原初の状態をそんな風に言うみたいだけど、宗教の世界では、随分前から、そんなことは分かってたんだ。宗教も科学も真理は1つだからね。問題は、俺らが、どうやって神になるのか、ということ。でも、この国にはいにしえから、神になる方法が様々な形で説かれていて、それを探るうちに、俺は見つけたんだよ。神になる方法を」
「ほ、本当かい?」
しばらく進むと、ニボユポがある建物の前でハタと止まった。
「あそこに、おんぶ紐とだっこ紐で2人の赤ん坊を抱えた女がいるだろ。あれが俺の女房さ。あいつ、機嫌がいい日と悪い日では、性格が豹変するんだ。今日はどっちだ?命にかかわるからな」
ビリヅは入口から、怯えたようにして中を窺う、ニボユポの豹変ぶりに驚いた。