3
「転生者ビリヅ・セレウミ。へえ~、君はビリヅって言うんだ」
誰かに声をかけられ、ビリヅ(=達夫)は目を開けた。見れば、そこは床敷きの体育館のような広い建物の中だった。建物の外には太陽の輝きも見える。ビリヅの前には、丸刈り頭をして、シャツと半ズボン姿の、純真そうな若者が1人座り、彼を見ていた。
「俺は、ニボユポ・ブタキワと言う。転生者としての君のお世話をする役目を仰せつかった者だ」
ビリヅは、ゆっくりと辺りを見渡している。
「ここは転生者のための部屋と言われる場所さ。でも、俺、転生者に会うのは初めてなんで、いきなり君が現れたのには驚いた」
ビリヅはニボユボを見つめながら尋ねた。
「転生者って言うのは珍しいのかい?」
「そりゃ珍しいよ。現れるのは、2、3カ月に1人くらいかな。まあ、一度に2人くらい現れることもあるみたいだけど」
微妙だな、とビリヅは思った。
「ここはツタゲ国のチロゾトブ教区。チロゾトブ教の教祖様は、ロドヌペロ・アスフ様とおっしゃる。これから一緒に、教祖様への挨拶に向かうが、その前に分からないところがあれば聞いてくれ」
改めてビリヅの真正面に座り、ニボユポは言った。
「じゃ、聞くけど、チロゾトブ教って、どんな宗教なの?」
ビリヅが聞くと、ニボユポは拍子抜けといった表情を見せた。
「何だ、そんなことも知らないのかい。チロゾトブ教は、ゼラサ教の流れをくむ宗教で、教祖のロドヌペロ・アスフ様が築いた、新しい宗教だ。様々な祈祷術を使って、病気治療、運気上昇を施すということで、教区のヌュズノの街は、多くの在家信者で賑やかだ」
ニボユポの言葉に、ビリヅがつぶやいた。
「へえ~、在家信者というのも、いるんだ」
すると、ニボユポはさらに呆れたような顔になった。
「本当に君は知らないんだね。宗教国家に在家信者がいなかったら、誰が宗教者の生活を支えるの?宗教者が安穏として暮らせるのは、すべて、在家信者からの搾取なんだよ」
ビリヅは、ニボユポの開けっ広げの言葉に少し驚いたが、
「でも、信者が大勢いるんだから、チロゾトブ教はすごいんだね」
と言葉を返した。するとニボユポは笑顔を見せた。
「実は俺、入信2カ月なんだ。まだ、ここが本物か確かめている最中さ」
ビリヅが質問をすると、ニボユポは何でも即座に答えてくれた。
ツタゲ国には百以上の宗教教団があり、それらは寺院とその支配下の宗教都市から成り立っている。中には十を超す都市と支配地域を持つ教団もあり、チロゾトブ教は弱小の部類だった。
昔は、各教団間の宗教戦争が繰り広げられ、紛争が絶えなかったツタゲ国だったが、今では上部組織として宗教庁というのが開設され、その管理の下、平和が保たれるようになった。住民の往来は自由で、改宗も自由、新たな宗教が創設されることも、日常茶飯事らしい。だが、相変わらず隠れた勢力争いも続いているという。
「ニボユポ、大変だ。教祖様がお怒りだ。早く向かいなさい」
いきなり呼び出され、ニボユポが歩き出すと、ビリヅも同行した。入り組んだ建物の中を少し歩くと、人が集まる場所に出た。
「ニボユポ、お前は何と、信者にニセ薬を売ったそうだな。破門だ!」
王座に座る老人が叫ぶと、ニボユポがビリヅの腕を取った。
「ビリヅ、一緒に出よう。こんな無能教団になど、こっちから願い下げだ」