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考えてみれば、こんな理不尽な話はあるだろうか。達夫は進学校に通う高校生3年生だった。大学受験の全国模試でもトップクラスの成績だったが、それに見合うだけの勉強漬け生活を、小学生の頃から送っていた。そしていよいよ最難関大学の受験を迎えた当日、会場へ向かう途中、彼はある交通事故で帰らぬ人となったのだ。
「達夫、達夫、目を覚ましなさい」
誰かに呼ばれて、達夫が目を開けると、目の前は、まばゆい白い光に包まれていた。
「達夫、目覚めたようだな」
「誰ですか?」
達夫の周りには、白い光だけあって、景色は見えない。
「私は、ヅプと言う」
「あれ、僕は確か、受験のための試験会場に急いでて。ここは、どこですか?」
「達夫、残念ながら、お前はすでに死んだのだ」
達夫はうなだれた。
「そんな。僕は子供の頃から難関大学を目指して勉強して来て、模試でも好成績で、今日が本番だったのに」
すると再びヅプと名乗る声が響いた。
「まあ、そんなに悲観するな。こんなこともある」
ヅプがそう言うと、いきなり達夫は大きな声を上げた。
「だったら、ここは何処?君は誰?僕は何故、ここにいるの?」
ヅプは、ゆっくりと答えた。
「ここは死後の世界と言うより、現世と死後の間の世界だ。私は、そう、分かりやすく言えば、君の守護霊といったところだな」
ヅプがそう言うと、突如、達夫は怒りだした。
「守護霊って、守護霊なら、僕が受験のために、どれだけ頑張って来たのか、知ってるでしょ。守ってないじゃん」
達夫の言葉に少しヅプの表情が動いたが、すぐに元に戻った。
「まあ、そう言うな。こちらにも都合があるのだ。ただ、その代りに君には、この世界・ゲトへの転生を用意した」
達夫は改めて視線を前に向けた。
「転生って、あの魔王になって世界征服したり、絶大の魔力でこの世界の勇者やヒーローになれるってやつ?」
「それは漫画の見過ぎだ。そんな都合のいい転生などない」
その言葉を聞くと、再び達夫が声を荒げた。
「そんなんなら元の世界に戻してよ。そっちの方がいい」
ヅプは、すぐに言葉を続けた。
「それは無理だ。君は死んだのだから。ただ。君には選択肢がある。この世界・ゲトには、5つの国がある。君は、その5つの中から好きな1つを選んで、転生することができる」
達夫は何も言わず、考え込んだ。
「ダメか?ならば、もう1つ、おまけじゃ。この世界に転生した君が、そこで本当に困り果てた時は、私の名を呼んでほしい、そうしたら、3回だけ、その危機から君を守ることを約束しよう。どうかな」
少し考えて達夫は答えた。
「分かったよ。3つの願いを叶えてくれるってやつだね」
するとヅプは言った。
「願いを叶えるんじゃなくて、危機を救うのだが、ま、いいか。それでは5つの国をこれから紹介しよう」。