2話:雪ん子
俺はついに婚活の旅に出たが、早速式神がぼやく。
「はぁ、俺っちはとうとう終りのない旅の荷物持ち…… 最悪っす!」
この俺の隣でぼやいているのは、調伏した妖で雷獣の【雷電】
見た目は黒いテンかイタチで、大きさは鹿ほどある。
今は俺が名を付けて式神にした。
「分ってないな、雷電、俺がいないのに家にの残ったらどうなる?」
「若のいなくなった家ですかい? あっ! 母君の式神……」
嫌だなって感じ、だが、世の中そんなに甘くありません。
「甘い! 椎茸が高級品なのはしってるだろ?」
「へぇ、若は椎茸の栽培係でしたから」
「そんで、原木に電撃をくわえると椎茸の実りがいい」
「確かに若の手伝いで何本も電撃をくわえやしたね」
上手く誘導できそうだ。
「俺は無茶はさせない、精気も分けてた、でも母ちゃんなら?」
「お、俺っちが使い潰されやす!」
まあ、母ちゃんは父ちゃんが椎茸を栽培していると知らない。
種菌作りは父ちゃんの独占技術で、俺が椎茸を採集してると思ってる。
だから、雷電の電撃で収穫を増やそうなんて発想はありえない。
「雷電は不満そうだし、嫌なら家に帰ってもよいぞ?」
「この雷電、若のお供に選ばれ光栄のいたり、誠心誠意お仕えしたしやす!」
やる気を持って仕えてもらう方がいい。
それに、使い潰されるのは変わらないと思うんだよな……
「して若、一先ずの予定はあるので?」
「用心棒で路銀をかせぎながら、人の多い町をめぐる」
まずは尾張の遺跡鉱山。
白く長方形の高い搭や工場と呼ばれる遺跡があり、色んな資源が取れる。
実家からも近いし人も多い、治安も悪いから用心棒向き。
それまでは木賃宿で節約、そんな予定だ。
【用心棒やってます、妖退治も】ってぼり旗を持ち、お仕事も開始。
漢字が読める人は少なく、実は平仮名です、締らねぇ……
そんな旅の5日目で初めてのお客さんが現れた。
「そこの兄さん、あんた用心棒やってくれるのかい? 是非とも雇いたいんだが」
「用心棒はやってるけど、荷車5台だと1人じゃ守りきれんぞ?」
見たところ荷物は米俵、最近この辺りに賊がでるらしい。
しかし、退治ならいいが、この人数を守るには手が足りない。
「いや、あんたなら大丈夫! そのでっかい体に厳つい顔、あっしらは鬼か仁王かとチビリそうになりましたよ、賊だって怖くて見送るでしょう」
用心棒としてはほめ言葉だが、婚活を考えると泣ける。
「俺は構わねぇが報酬は高いぞ? 代わりに前払いなら俺を置いて逃げていい」
結局、報酬は米1斗の前払い、宿場町までので半日。
地方では貨幣経済が定着していない。
取引で拒否される場合もあるので現物。
今のところ賊も妖も現れず、のんびりした旅。
日が高くなってきたので三度笠をかぶり、道中合羽はしまう。
着物の上着と綿パンに、鋲で草鞋を靴底に固定できる革サンダル姿。
最近流行りの着こなしだぜ?
日が天辺あたりにきた頃に湧き水を見つけ、休憩となったのだが……
賊も水場で休憩していて鉢合わせ。
俺は三度笠をとって臨戦態勢にはいる。
「獲物からやって来るとはあり…… ギャー! なんでこんなところに鬼が!」
おい! 196の身長は三度笠を外す前からわかってたよね?
じゃあ、なにか? 体格より顔で鬼と思ったの?
泣けてくるぜ……
「馬鹿め! 我等は椎の木神社の氏子、宮司様の眷属である鬼が守ってくださるのだ! 賊はさっさと食われでしまえ!」
お客さんは実家の氏子だったのか……
確かに俺は宮司の眷属ともいえる。
でも、その表現だと父ちゃんじゃなく母ちゃんが鬼って意味になるが?
まあいいや、実家の氏子さんなので演技に付きあう。
「オレサマ、オマエ、マルカジリ」
古来より伝わる鬼の定番のセリフ。
「「「「ひぃぃぃぃ! お助けぇぇぇ!」」」」
「ひるむな! 鬼は倒すしか助からねぇ!」
荷車は「お先に!」といって逃げて行った。
「若、あっしが殺りやしょうか?」
「いや、ちょうど昼時だ、俺が食う」
もちろん、丸かじりじゃない、魂や生命力に霊力や妖力を喰らう。
夜叉の父ちゃんから引き継いだ、能力でまとめて精気を食うと表現している。
賊の魂はすでに小鬼とほぼ同じ、慈悲はない。
賊供の中心に、御神木の根が柄になっている槍を構える。
すると、槍の柄から無数の根が勢いよく飛び出し賊を貫く。
そして、脈打ちながら精気を吸い出し始めた。
「うーん、まずい! 歪んだ魂はひでぇな、雷電にもやるよ」
「うわ、まっず! まあ、贅沢は言えやせんけど……」
霊体化させた左手で雷電に分けている。
雷電は妖なので普通の飯は味を楽しめるだけだ。
しかし、この戦い方は人前では避けたい。
なんせ、相手は干物になるので見た目がエグイ。
嫁候補が見つかったら封印だな。
最後に木の影で運よく助かった奴が泣きついてきた。
「お、鬼の旦那! ねぐらに捕らえた女達やお宝があります! それで命だけは!」
此奴らは近いうちに小鬼になる、見逃す事はできないがが……
女達は助ける必要があるし、霊力の高い娘がいればチャンス!
路銀も少しは増えるだろう。
「女と宝を見てから考えてやる」
「ありがてえ! 便利な半妖もいますので、お願いします!」
そんな訳で賊の山小屋に向かった。
◇◆◇◆
山小屋に入るとすぐに縛られた娘達の声。
「「「キャーー! 鬼が! 鬼が! ……」」」
俺の顔をみて気絶。
霊力の高い娘はいなかったし、別にいいんだ……
「若…… おいたわしや……」
おいやめろ!
そういう同情は傷口が広がる!
「すぐに女供をおこしや……」
「いや、先に宝だ」
今度は地下室、銭、反物、塩、食料等が少しだけ。
「…………」
「半妖! 便利な半妖が居るんです!」
はいはい、賊に使われる半妖だろ?
たいして期待してないよ。
でも、俺も半妖、邪気がなければ助けてやりたい。
ところが、賊は地下室のはしで半妖を見つけて蹴り始めた。
「こいつは雪ん子って半妖で痛めつければ冷気をだしやす、食料の保存や部屋を涼しくでき、夏には便利なんでやすよ?」
そこには、痩せこけ痣だらけで目から光が消えた、6歳位の幼女がいた。
俺の父ちゃんは、子供の守り神たる鬼子母神の末裔。
その根源が怒りと共に子供を虐待から救えと命じる。
まだ、賊は殺さない。
賊の首をつかみ、締め上げて気絶させる。
こいつを裁くのは雪ん子だ。
「お嬢ちゃん、今から治療をするので怖がらないでくれ」
雪ん子から反応がない、心が死にかけている。
賊の精気で外傷を治療した後、霊体の治療も始める。
魂に刻まれた虐待のを優しく削っていく。
だけど、この子の妖力も枯渇寸前でかなり危険な状態だ。
なにか助ける方法はないのか!
「若…… 半妖では直接妖力を与えれません……」
反応がない以上、自力で妖力を得てもらうしか無い。
でも、やれることを全てやるまで俺は諦めない!
「俺の血肉でも精気でも霊力でもいい、頼む、食ってくれ!」
俺は雪ん子を抱きかかえ、首の付けねあたりに顔をもってくる。
理由は妖の多くが好む場所ってだけ。
それでも、もしかしたら無意識に食うかもと。
試みは成功し、雪ん子が無意識に噛みついた。
霊力が食われ妖力になっている、意識も戻り始めた。
あとは事情を聞きたいが、子供への質問は年齢×5分が相場。
また、同じ質問を繰り返したり、問い詰めても行けない。
「お嬢ちゃん、お父さんはいるかな?」
「死んだ……」
「……お母さんは?」
「知らない……」
雪ん子って事は雪女が母親。
物心がつく前に死んだか去ったのだろう。
負担が大きいし情報は十分だ、これで終りにする。
だけど、逆に雪ん子から話しかけられた。
「鬼さん…… お名前は?……」
「手鬼 霊樹、好きに呼んでいいよ?」
「お父ちゃん……」
それは止めて! 今は婚活中なの!
「お嫁さん探しの旅なんだ、お兄さ……」
「ちゃん……」
くっ! 意味があまり変わらない!
でも、鬼子母神の根源が受け入れろという。
「じゃあ、そうしよう、気が変わったら変えていいからね?」
「ちゃん…… 霊力…… 欲しい……」
「いいよ、いっぱいお食べ」
雪ん子が満足した後、少し良い事があった。
「ちゃんは優しい、でも怖い、だから怖い霊力、食べた」
どういう意味だ?
「若! 威圧感がへって鬼にみえやせんぜ!」
雷電も鬼に見えてたのかよ!
多分、母ちゃん似の霊力だな……
これで厳つい程度ですむ!
その後、雪ん子は賊に興味がなく俺が始末。
お宝は捕われていた娘達にわけ、銭だけもらう。
お礼に娘達が雪ん子のおんぶ紐を反物で作ってくれた。
後は女達を護衛して、宿場町まで連れていくだけ。
「若、婚活の旅なのにこぶつき…… いいんですかい?」
「雷電、雪ん子のお蔭で娘が気絶しなくなった、恩もありこの先も改善が期待できる、急がば回れってな」
しばらく雪ん子の面倒をみる、これでいいのだ。
「若なら、そうする分かってましたよ」
「分ってんなら聞くなよ、性格わるいな!」
旅は道連れ世は情け、どうせ望みのうすい婚活の旅。
なら、楽しい旅の方がいいんだよ。