1話:嫁さがしの理由
フォロワー様のリクエストで作った4話の短編物です
4話で14000字程度の作品です
今日明日中に4話投稿予定
ちょっとコメディーでシリアスな展開もあります
今、我が家では壮絶な親子喧嘩が行われていた。
なぜなら、母ちゃんが突然俺に家を出て行けといだしたからだ!
俺の家は御神木の椎の木を祭る神社。
そして俺は宮司の息子で手鬼 霊樹。
修行もして来たし、宮司の息子なら継ぐために家にいて当たり前。
それなのに出て行けなんて…… 酷過ぎる!
「うっせー! 39にもなってニートやってる息子なんか要らねぇんだよ!」
因みにこの口が悪いのが俺の母ちゃん。
あと体格も顔も鬼みたいに厳つい。
それから俺は39歳だが、半妖なので見た目は18歳ぐらい。
ここ重要ですので。
「ニートじゃねぇよ! 俺は自宅警備員! この前も盗賊や小鬼供を退治したろ?」
「はいはい、ニートはみんなそう言うんだろ? ちょっと睨んだら一発で逃げるか死ぬ奴らに警備の必要はないけどな!」
悔しい事にうちの母ちゃんは、マジで睨むだけで奴等を殺せる。
霊力の高いただの宮司の筈なのだが……
その武威はすでに人を超越して未知の領域。
「母さん、ちゃんと説明しないと霊樹が可哀そうじゃないか…… 霊樹、しっかりした理由が有るんだ、父さんから丁寧に話すから考えておくれ?」
次に話しかけて来たのがうちの父ちゃん。
蔭は有るけど人間ではありえない美男子。
俺より若く見えるし、俺は父ちゃんに似たかったよ……
父ちゃんは鬼子母神の子にあたる夜叉で鬼の妖、仏に帰依して衆生を助けると誓い、手を差し伸べる鬼となったそうだ、また、山や森林や樹木の神でもある。
なんでそんな父ちゃんが母ちゃんと結ばれたかというと……
当時の父ちゃんは神社周辺で飢えに苦しむ人々を見つけ、助けようと神社の御神木である椎の木にのり移り、沢山の実を生みだし人々を飢餓から救った。
だが、宮司で婿の来てがなかった母ちゃんは、このチャンスを見逃さなかった。
霊力を帯びたしめ縄でこれ幸いと父ちゃんを御神木に封じ込め、人々の命と引き換えに周辺の豊穣と守護と自分の婿になる事を強要したのだ。
以後、父ちゃんは御神木を依り代として母ちゃんの婿。
……俺には特殊な略奪婚にしか思えない。
約束を律義に守る父ちゃん、俺は境遇を思うと泣いた事もある。
なお、手鬼という苗字は父ちゃんから貰った名。
【手を差し伸べる鬼】の最初と最後の字だ。
名は神社で祀っている御神木は霊樹でもあるので霊樹。
母ちゃんが安直に付けた名。
「さて、先ずは大和政府の説明しよう、細かい歴史も重要だからね」
発端は飛鳥に都をかまえる大和政府からの依頼なのだが、父ちゃんの話は長い。
物事には因果があり、経緯をはぶいては本質を見失う。
というのが父ちゃんの流儀、立派な考えだと思う。
……正座なので辛いけど。
まず、人間の文明は戦争で一度崩壊した。
現実の戦争ではなく【さいばー戦争】と呼ばれる別世界の戦。
だけど、昔の文明を支えていたのがその【さいばー】だったらしい。
そして【いーえむぴー】という攻撃で【さいばー】の眷属だった【でんしきき】も死に絶え、文明が完全に崩壊した、と発掘された文献からわかっている。
その後、この大和国も戦乱が長く続いたが、一番大きい生き残り集団だった大和政府がこの国を平定し、人々に稲作などの農耕や漁の技術を伝え、文明を再建し始めたのである。
大和政府の史書より抜粋。
ただ、未だに大陸では人々の争いや妖との戦が続いており、大和政府が対馬の地に要塞を築いて何とか平和を保っている。
なお、妖は文明崩壊から数百年たった頃、徐々に現れだしたと言われている。
人間に信仰や自然への畏怖が戻ったからとの説が大和政府では有力。
鬼である父ちゃんがいるのもこの現象のお蔭で俺は歓迎しているけどね。
それはそれとして、全然本題が見えてこない。
そろそろ足が限界、なのでせかしてみた。
「霊樹…… もう少し根気をつけような、神職は人の発展を助けよと大和政府から税を免除され、学書も頂いているのですよ? 体力や霊力だけでなく知力も鍛えなさい」
「だけど父ちゃん…… 母ちゃんは宮司だけど文字すら読めないぞ? 勉強も嫌いだし」
母ちゃんは難しい話が始まって、すぐに逃げたので蔭口も安心。
「か、母さんはいいのです! 私が勉強して代わりを務める約束ですから……」
婿入りって、辛いんだな……
俺、強くなったら、いつか母ちゃんから父ちゃんを解放してやる!
「まあ、仕方ない、史書の写しをあげるので後日勉強しなさい」
「はい!」
さすが父ちゃん、慈悲深い。
「では本題ですが、大和政府の首都、飛鳥京に邪気が入って人心が荒廃しつつあります、元々多少はあったのですが、増加傾向で早めに対策をしようと決まったそうです」
「それは分かったけど…… 俺が家をおい出される理由が解りません」
大和政府の問題はわかった。
文明を復興する政府の役人が腐ったら、まともな国にならないよな。
でも、俺とは関係なくね?
「私は仏に帰依した夜叉であり、山や森林を眷属にして邪気を浄化できます、それは私の子である霊樹もです、そこで大和政府は社殿を用意し、お前を招聘されました」
あぁ、大和政府が社殿と供物を用意するのか、無料の分社で美味しい話。
家族と分かれるのは寂しいが、自分で家を興せる……
俺も男だ、そういう理由なら仕方ない。
「ただ、社殿を維持していくには霊力が高くお前を支えてくれる妻が必要です、霊力が低かったり、嫌々や相性が悪いと支えになりません、まず旅で嫁を見つけ、その後に都に向かいなさい、では頑張るのですよ」
父ちゃん…… 俺を信じてくれるのは嬉しい。
だけどな、俺の姿を見て言ってくれるかな?
俺は鬼そっくりの母ちゃん似、嫁は政府で用意してほしかった!
「父ちゃん…… 俺も自分で言うのは辛いけど、俺は母ちゃん似だぞ? 霊力のある気立ての良い娘を自力で口説くなんて俺は無理だと思う、父ちゃんは可能だと思う? 正直にいってみ?」
だが、父ちゃんの更なる追加情報で、何としてもやらねばならない事がわかった。
「霊樹、大和政府はね…… お前が無理だったら父さんが母さんと離婚して、新しい嫁を見つけて都に来いと言っている、もしそんなことになったら、母さんはどうすると思う?」
その光景は直ぐに想像できた。
怒り狂った母ちゃんが、進路上の町や村を滅ぼしながら都へ進撃する姿……
大和国の未来を守るため、人々の平和を守るため。
何としてもこの難題を達成しなければならないと俺は理解した。
「父上! 私も仏に衆生を助けると誓った鬼の末裔! 何としてもこの国を最凶の人災から守ってみせまする!」
選択の余地はなかったのだ。
俺は涙が止まらなかった、父ちゃんも泣いている。
「霊樹、よくぞ言ってくれた! 期限は決まっていない、お前が生きて婚活をつづけるかぎり最悪の事態はさけられる、父さんも最大限の支度をするし、嫁が見つかるように毎日祈るぞ!」
本来鬼神でもある父ちゃんを従わせる母ちゃん……
槍を振り回せば竜巻を起し、吠えるだけで人を大量虐殺できる武威と霊力。
それを怒らせれば禍つ神といっても過言ではない。
その後、父ちゃんは旅の用意をしてくれた。
路銀に保存食、御神木の根から作った槍、巨大な鉈、荷物運び用に以前に調伏した雷獣、現地で植える霊力のつまった椎の実、自家製原木干し椎茸、その他諸々。
それらを持って、俺は婚活の旅へと出発したのだった。